第22話 3人目の犠牲者
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奏多の亡骸が冷たく床に横たわってから、しばらくの沈黙が流れた。
その目は、うっすらと開かれたまま、虚空を見つめている。
誰もが言葉を失ったまま、動けずにいた。
信じた者を、信じられなかった者を――
選んだのは自分たちだった。その現実が、言葉を奪っていく。
モニターから機械的な文字が流れる。
《処刑が完了しました。》
沈黙。
その後、何も起こらない。――ゲームが、終わらない。
誰もが期待した“終了の報せ”は、どこにもなかった。
そして、その静寂の中――
宇川 謙
「おい、……夜、続くのかよ…」
最初に声を上げたのは宇川だった。
顔を青ざめさせながら椅子を蹴るようにして立ち上がり、怒気混じりの声で叫ぶ。
宇川 謙
「……っ!……クソっ!!……」
ただ、そこに沈黙が落ちる。
やがて。
椅子に座ったまま、静かに腕を抱えていた朱里が、ゆっくりと顔を上げた。
目は真っ赤に腫れていた。
でも、その奥にあったのは、涙だけじゃない。
――憎しみ。
痛みを押し殺した、鋭く研がれた感情。
その視線が、迷いなく岬と謙に向けられる。
大咲 朱里
「……なんで……」
かすかに震える唇が、声を紡ぐ。
大咲 朱里
「なんで……奏多くんが死んだの……?
私信じたいって言ったのに…。
岬が…、あんたがっ!
初めに疑ってたからでしょ……っ。
あんたが、あんな言い方して、みんなに奏多くんを……!」
朱里の声が、ホールの空気を切り裂いた。
その言葉に、岬の表情がぐらりと崩れる。
一歩、無意識に後退る。
信念を持っていたはずの彼女の瞳に、深い後悔が浮かぶ。
升田 岬
「私は……間違って……」
自分でもその言葉を口にするのが怖いのか、岬の声は震えていた。
升田 岬
「私……私、本当に、あれが正しいって……」
唇を噛み、必死に耐えるようにして目を伏せる。
信じた論理が崩れた。
自分の手で、人狼ではないクラスメイトを処刑させてしまった――
その事実が、彼女を内側から壊していく。
だが朱里の怒りは、岬だけに向いてはいなかった。
大咲 朱里
「宇川くん、あんたもだよ……!」
ぎゅっと拳を握り、朱里は睨みつける。
大咲 朱里
「人の気持ちも、ちゃんと見ようともせずに……!
ずっと偉そうに、誰かを切り捨てるみたいに……っ。」
宇川は言い返そうとしたが、言葉が出ない。
目をそらすように、唇を歪めるだけだった。
大咲 朱里
「私は……信じてたのに……」
朱里は、今にも崩れそうな声で、泣きながら叫ぶ。
大咲 朱里
「奏多くんのことも……自分の言葉が、
ちゃんと届くってことも……あんたたちが、信じてくれるってことも……!」
その声が、ホールの空気を震わせる。
岬は震える手で自分の胸元を押さえ、宇川は腕を組んだまま顔をそらす。
ただ一人、正太だけが――奏多の亡骸のそばで、何も言えずに佇んでいた。
朱里の声が震えながらも、強く、真っ直ぐに響いた。
誰もが沈黙した。
動かない奏多の体を前に、何も言えず、ただ黙っていた。
顔を歪める岬、呆然と立ち尽くす宇川、
そして――
奏多のすぐそばで、震える手を膝の上に置いたまま、微動だにせず俯く正太。
誰の心にも、重く、暗い影が落ちていた。