表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人狼GAME 第1章  作者: 山犬
2/34

第2話 顔合わせ



機械的で無機質な電子音とともに、

画面に文字が浮かび上がる。


 


《勝利条件について説明します》


 


《村人陣営:人狼をすべて処刑すると勝利》



《人狼陣営:村人と人狼の人数が

      同じになった時点で勝利》



《勝利した陣営には、最低でも

5000万円の賞金が与えられます》

 


《金額は、陣営内での貢献度や

人数によって変動します》



正太は、息をのんだ。

先ほどまでの混乱と恐怖で濁った

頭の中が、少しずつ情報を整理し始めていく。



画面に映し出されたその数字――「5000万円」。

その文字を見た瞬間、胸の奥で何かが鈍く動いた。


 


(……5000万円)


 


それは現実味のない額だった。

けれど同時に、彼にとっては現実そのものだった。

――母の介護費。

――妹の心臓の手術費。

どちらも、バイトでは追いつかない。

将来を夢見ている暇なんて、とうに手放していた。


 


だからこそ、その金額が提示された瞬間、

恐怖という名の霧の中に、


ひとすじの光が差し込んだ。


 


(もし、勝てば……)


 


思考の中に、ありもしない未来の断片が

浮かんでは消える。


母と妹が笑っている。


病院ではなく、普通の食卓で。


そんな平凡すぎる光景が

いまの彼には奇跡に等しかった。


 


その時、モニターに再び文字が表示された。


 


《これより、各参加者に役職を配布します》


 


ピッという電子音とともに、

目の前の机に設置された小さな端末が一瞬だけ光る。

画面には、一言だけ――

正太にしか読めない、ある役職が表示された。


 


その言葉を見て、正太はほんのわずかに目を見開く。


 


(……俺が……?)


 


その正体を語る者は、まだいない。

そして、その役職の重みが

どれほどのものかを


彼はまだ知る由もなかった。

 


冷たい汗が、首筋を伝う。


だが、その内側には――まだ消えない

わずかな希望が灯っていた。



母を、妹を、守りたい。

それが許されるのなら、どんな手でも使う。

たとえ、自分自身が“誰かの敵”であったとしても。


 


次の瞬間、壁の方から


カシャン…という金属の音が響いた。

扉の鍵が、外れたような音。


 


モニターが再び光を放つ。


 


《全員の役職配布が完了しました》


《ホールへのロックを解除しました》


《18時の議論開始までホールおよび

隣接する部屋で自由にお過ごしください》


 


“自由”という言葉が、

こんなにも不気味に響くとは思わなかった。


ここには何一つ、自由なものなんて存在しないのに。



小さく息を吸い、正太は一歩、前に踏み出した。


その足取りはまだ迷いを含んでいたが

確かに、前へと向いていた。




扉が自動で音もなくスライドし、

目の前に現れたのは広々としたホールだった。



無機質な床

円状に並ぶ7つの席

それぞれに対応する天井から垂れ下がるコード。


そこコードはまだ降りてはきていないが

異様な存在感を放っていた。



そして、中央に大きなモニターがあり、

薄暗い照明が場の空気を更に冷たくしていた。



正太が出てきた扉も合わせて

全部で7つの扉がある。


どれも無骨で、まるで

実験室のような雰囲気を漂わせていた。


加えて、ホールの奥には

巨大な観音開きの扉が3つどっしりと構えている。


無言の圧迫感を放ちながら

その先に何があるのかはわからない。




正太は、ホールに出る直前に思わず足を止める。


(……ここは、どこなんだ)



胸の奥で、ゆっくりと不安が膨らんでいく。


何が起きているのか、まるでわからない。


呼吸はできているし、痛みもない。

ただ、現実感がない。


この空間自体がまるで、夢の中のようだった。


そしてそのとき――



正太が一歩を踏み出すと


タイミングを合わせたように

他の扉も開き、残りの6人が順番に現れる。




羽賀 夏菜

「え、なにここ!?

え?え、ドッキリ?

ドッキリだよねこれ!?ねえ!?」



パニックを起こしたように、

最初に飛び出してきたのは羽賀(ハガ) 夏菜(ナツナ)


制服のまま、半分泣きかけた顔で

首の装置を引っ張ったり、

スマートウォッチのようなものを

何度も叩いたりしている。



升田 岬

「夏菜ちゃん、落ち着いて。

あの、これ……なんかのイベントとか……

ドッキリ番組かもしれないし……。」



升田(マスダ) (ミサキ)も動揺しているが、

なんとか理性を保とうとしているようだった。


だが、その表情は引きっている。





大咲 朱里

「岬……っ、怖いよ……なにこれ……!」



岬はなんとか夏菜をなだめようとしているその横で、

気弱な印象の大咲(オオサキ) 朱里(シュリ)

岬の袖を握ったまま、すがるように

彼女の横に立っていた。



二人は友人同士だ。

言葉少なに寄り添いながらも、

恐怖を必死にこらえているのが伝わってくる。




宇川 謙

「……チッ、ふざけんなよ。

首にこんなもんつけて…


イタズラにしてはやりすぎだろ。」



重い足音とともに、

ぶっきらぼうな男が姿を見せた。

宇川謙(ウガワ ケン)


筋肉質で肩幅が広く、

周囲を睨みつけながら

不機嫌に吐き捨てるように言う。





宇川 謙

「おい、グズ。てめぇ、

なんか知ってんのか?」



久住 翔斗

「えっ、ぼ、ぼく!? い、いや、知らないよ!? 

わ、わかんない、俺も急にここに入って……!」



久住(クズミ) 翔斗(ショウト)は、

小動物のように肩をすくめ、

怯えた表情で言葉を返した。


気弱な久住はよくパシリのような扱いを

受けており宇川達グループにはあだ名で

グズと呼ばれているようだ。


痩せ型で猫背気味の体格に、

どこか常にびくびくとした雰囲気を纏っている。



宇川 謙

「はあ? 

こっちは真面目に聞いてんだよ。

ふざけてんのか?」




久住 翔斗

「ご、ごめんなさいっ……!」




宇川は久住を睨みつけると、

舌打ちをしてそっぽを向いた。


久住は肩を縮こませ、目に涙をにじませている。




久住 翔斗

「でも本当に…ここどこなの…? 

誘拐……? うっ……」



そう呟いたあと久住はしゃがみこんで、

両手で頭を抱えている。




大咲 朱里

「……部屋のモニターに表示されてた…

人狼ゲームって……

遊びでやったことあるけど……。


……でも、まさか、こんな……」



小さな声で呟いた彼女は岬に

肩を抱えられたまま、目を伏せ、震えている。



そして、やや遅れて最後に姿を見せたのが、

安住(アズミ) 奏多(カナタ)だった。


医者の息子で、小学校からの親友。


安住 奏多

「……正太! おい、正太! 大丈夫か?」


奏多が真っ直ぐに駆け寄ってきた。




正太は無言で頷き、少しだけ口角を上げたが

――その表情は曇ったままだ。



戌井 正太

「……ああ。なんとか」



安住 奏多

「これ…ドッキリかと思ったけど、

これ……本物だよな。


首輪も、腕輪も、外れないし」



戌井 正太

「……信じたくないけど、そんな感じだな」



二人の間に、一瞬の沈黙が落ちる。



安住 奏多

「まだよくわかんねぇけどさ…

もしこれが……そういうゲームなら

協力してくしかないだろ。



……正太は村人側か?」



不安そうに瞳を揺らしながら問いかけられる。



戌井 正太

「……ああ。

俺は村人側だ…。」


正太は、同意を返した。


無意識に左手の親指を内側に入れてぐっと握っていた。



奏多はハッとしたような顔をして。


安住 奏多

「そうだよな。

ごめん疑うような事聞いて…。


俺もだよ。

俺は正太の味方だからな。」



固く握っていた手を緩めなんでもないように


戌井 正太

「……いや。気にすんな。

こんな状況だし。


ありがとうな。奏多。」



その胸の奥にわずかに残るざらついた感情には、自分でも気づかないふりをした。





登場人物 イメージイラスト


挿絵(By みてみん)

戌井 正太




挿絵(By みてみん)

安住 奏多




挿絵(By みてみん)

宇川 謙




挿絵(By みてみん)

大咲 朱里




挿絵(By みてみん)

久住 翔斗




挿絵(By みてみん)

羽賀 夏菜




挿絵(By みてみん)

升田 岬

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ