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人狼GAME 第1章  作者: 山犬
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第14話 誰かが、動いた



ホールの灯りは、深夜零時とともにすべて落ちた。

建物内の全ての部屋は自動的にロックされ、

天井から微かに機械の駆動音が響いている。


その沈黙の中、

誰かが――ひとり、静かにベッドから起き上がった。


足取りは迷いと葛藤を含んでいた。

自分が今からすることが、どんな意味を持つのか。

誰を奪うことになるのか。

それがどんな絶望を残すのかを、よく理解していた。


だが――それでも。


手は、震えていた。

胸の奥が、ひどく痛んでいた。

この痛みは恐怖ではない。

ただの「選ばれた者」としての痛みでもない。


(こんなこと……やりたくない)


そう呟いた唇から、声は漏れなかった。

ただ目を閉じて、深く息を吸う。

そして足を踏み出す。


廊下に出たその人影は、

薄暗い光の中で一切の物音を立てずに、ある扉の前にたどり着いた。

番号が刻まれた小さなプレートが扉に取り付けられているが。

スマートウォッチをかざすとピッと音がなりドアが開く。

中にいる人間は、まだ起きていた。


「……え……?」


布団の中で眠れずにいたその人物が

誰かの訪問に戸惑いの声を漏らす。



だがすぐに顔を上げ、

暗がりの中に浮かぶシルエットを見て、驚きに目を見開く。


「……君が……?」


驚きと納得が入り交じったような表情をしている。

その感情がどこから来たのか。

信頼か、それとも裏切りへの理解か――それは分からない。


「ま、待って……っ、待ってくれ……っ……!

違う……っ!


ぼくは……っ、

ぼくは“狂人”なんだ……っ!」


低く、震える声が闇の中で押し出される。


「だから……襲撃しないで…」


言葉が詰まり、喉がうまく動かない。息が浅くなる。


「信じてくれ……頼む、信じて……ばくは味方なんだ……!」



が、そのわずかな一瞬の後、

両腕に装着されたスマートウォッチ型の端末が突然閃光を放つ。


「な……なに……っ?!」


激しい駆動音とともに、金属音が響く。


バシュッ!


何かが切断される音。

布団の中から両手首から先が動いて床に落ちる。


「う、わ、ああああああッ!!」


断末魔と絶叫が部屋に響き渡る。

その直後、天井のスプリンクラーが作動し、温水が降り注ぐ。


痛みに転げ回るその人物。

両手首から噴き出す血と、温水が混ざり合い、

その悲鳴はしだいにくぐもり、弱く、かすれていった。


部屋に立つ影は、言葉を発さない。

その人物を見下ろしたまま、しばらくじっと佇んでいた。

そして、何も言わず、音もなく――


闇に紛れるように、去っていった。


扉はまた、音を立てずに閉まった。


何もなかったかのように、

廊下には再び沈黙だけが残った。



夜はまだ明けない。

だが、この建物の中で“何か”が変わり始めたことを、

誰もが、まだ知らない。


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