第13話 覚悟と共に沈む夜
冷凍庫の扉が閉まり、
重く、鈍い“現実”の音が静寂を深く染めた。
一同は無言のままホールへ戻った。
誰も口を開かない。
泣いていた者も
怒っていた者も
怯えていた者も――
その感情すら、すべて凍りついたように沈黙していた。
ホールの空気は
まるで血の気を失ったかのように冷たく重い。
壁に埋め込まれたモニターは何も映しておらず
ただ黒い鏡のようにそこにあった。
さっきまであった悲惨な
夏菜の最期の痕跡も何一つ残っていない。
岬は硬直したように目を閉じ
誰にも声をかけず自室へと歩いていった。
その後ろ姿は
戦場から生還した兵士のように
ただ静かで
どこか虚ろだった。
宇川は誰とも目を合わせず
ぶつぶつと小さく呟きながらホールを出ていった。
宇川 謙
「ありえねぇ……マジでねぇよ……こんなの……」
肩は震え、顔は蒼白。
扉の前で一度足を止めたが
誰の声も聞かず、部屋に入って行った。
朱里はその場に立ち尽くしていたが
ふと気が抜けたように膝をつき
しばらく顔を手で覆っていた。
涙の枯れたその目は
真っ赤に充血している。
やがて、ゆっくりと立ち上がり
何かを祈るようにして自室へ向かった。
久住は、ひたすら自分の手のひらを見つめていた。
久住 翔斗
「ほんとに……死んだんだよな……ほんとに……」
自問するように呟きながら
俯いたままフラフラとホールを出ていった。
その背中には
怯えと後悔と
何か別の底知れぬ感情が混ざっていた。
そして――
正太は、ただ静かにそこに立っていた。
周囲の声も
足音も
すべてが遠く
靄がかかったようだった。
心臓の音だけが
自分の体の中でやけに大きく響いていた。
戌井 正太
(あれが、処刑……本当に……)
現実感がなかった。
それでも、目の前で命が奪われたのは確かだった。
そのとき――
安住 奏多
「正太」
背後から声がした。
奏多だった。
真剣な瞳で、正太を見つめていた。
安住 奏多
「……俺たち、絶対に生き残ろう。な?」
正太は顔を上げる。
奏多は、先ほどの混乱とは
別人のような表情をしていた。
その目には、怒りでも悲しみでもなく
――決意が宿っていた。
安住 奏多
「こんなとこで……終わるなんて、ダメだ。
絶対に、二人とも戻る。
俺らは絶対に戻る。
正太、お前も……死なせないから」
真っすぐに、正太の胸に突き刺さるような声だった。
正太は答えられなかった。
喉が詰まり、言葉にならない。
だけど――
わずかに頷いた。
その一瞬だけ、安住の顔に微かな安堵が浮かんだ。
安住 奏多
「……じゃあ、また明日。
絶対、生きて会おう」
そう言って、奏多は肩を叩き
静かに自室へと去っていった。
正太はしばらくその場に立ち尽くしたまま
無人のホールを見つめていた。
戌井 正太
(……生きる。何があっても。たとえ――)
心の奥底で、何かが軋んだ音を立てる。
けれど、その痛みごと、
正太は飲み込んで、無言のまま自室の扉を開けた。
扉の向こう
冷たい蛍光灯の光が差し込むその個室は
今や、唯一の安全圏であり、独房でもあった。
(夜が訪れる)
《22:00》
部屋のロックが内側から静かに閉まり、
その夜、全員がそれぞれの
恐怖と孤独を抱えながら
――深く、息を殺した。