表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
父の形見  作者: ヒイラギ
7/12

シチュー

今日は金曜日だからか、残業する雰囲気ではなく、

俺は定時で帰る事ができた。


最悪になるはずの今日が、高島のおかげで一変し、

家に帰る足取りも軽い。


今日からまた、やり直すんだ。

家でサユリが俺の好きなシチューを作ってくれている。


アパートの階段を駆け上がり、玄関を開ける。


「ただいま!」


サユリは怖い顔でこっちを見た。


「ねえ!帰ってくる時間!連絡してよ!

 まだ帰ってこないと思ってたから、

 何もできてないよ!」


サユリはテーブルにお菓子を広げて、

テレビで録画していたドラマを見ていた。


バタバタと動き出したサユリを目で追うと、

ハンガーから落ちた俺のワイシャツを踏んでいた。


「あーもう、シチューとか、

 簡単そうで、意外とやる事あるんだよね。」


「ごめん。」


と俺は一言だけ呟いて、サユリを見るのをやめた。

床に落ちている洗濯物を黙々と畳み、

風呂場を掃除した。


サユリが作ってくれたシチューは、

俺が食べたかったシチューなはずなのに、

また、味がしなかった。




「あ!そういえば!

 明日結婚式場の下見の予約しといたから。」


「え?」


「10時に予約したから!

 3箇所くらいで悩んでるけど、

 やっぱドレスの数が全然違うから。」


「そうなんだ。」


「え、なに、反応薄くない?」


無理だ。

俺はもうサユリと話ができそうになかった。


「ごめん、ちょっと疲れてて。俺寝るわ。」


「大丈夫?早く寝て寝て!

 明日までに治してよ!」


俺は返事ができず、そのまま寝室へ行き、

布団に入って目を閉じた。


結婚、するんだよな。

サユリと。


なぜか本当に具合が悪くなってきた俺は、

自分で自分の体を抱きしめて眠った。



翌日、起きたら気分も悪くない。

寒いが天気も良く晴れていた。


サユリがカチャカチャと化粧ポーチを漁っている。


「起きた!ハル!時間ないよ!準備して!」


俺は適当に服を選び、5分で準備を終えて、

サユリの支度を待っていた。


「わ!ちょっと風強いね。」


玄関を出ると、

風になびくサユリの長い黒髪が、俺の頬に当たる。


鬱陶しくないのかな。こんなに伸ばして。


俺はそう思いながら、サユリと結婚式場へ向かった。



式場へ着くと、

ロビーに派手なドレスが飾ってある。


サユリはぴょんぴょん跳ねながら、

ドレスが飾ってあるガラスケースに張り付いていた。


俺はサユリを追いかけながらロビーを見渡すと、

そこには俺たち以外に2組のカップルが居た。

どちらも30代くらいのカップルで、

とても落ち着いていて、

サユリと俺は場違いのように感じだ。


「ちょっと、サユリ、まず受付しようよ。」

「やっぱりここ、ドレスのクオリティ高いよ!」


サユリの大きくハキハキとした声が、

とても恥ずかしかった。


「お待ちしておりました。

 まずはチャペルをご案内します。」


そこからは式場のスタッフが1人、

付きっきりで場内を案内して、

披露宴で出すコース料理を食べたり、

実際にチャペルでの模擬の挙式を見学した。


そしてサユリがお待ちかねのドレスアップ。


「迷っちゃうよ、どうしよう!」


何度も着替えて見せてくるサユリ。

とても可愛いが、俺にはドレスの色や柄くらいしか、

違いが分からなかった。



最後に俺たちのイメージしている結婚式を、

プランナーと一緒に、実際に見積もりをした。


「奥さまはドレス2回、打掛1回のお色直しを希望なので、、、」


俺はどんどん見積もられていく金額に、

当然ビビっていた。

ドレス一着でこんなに高いのかよ。


そんな俺を気にもかけず、

サユリの要望はヒートアップしていく。


「2人の出会いとかスクリーンで流したいし、

 あと、あれ、親に手紙読みたいです!」


「お手紙はご両親も来賓も感動しますからね。

 いいと思いますよ。」


「そういえばハル、お母さんは結婚式きてくれるよね?」


俺は急にサユリに話しかけられ、

なぜかプランナーの方を見た。

「え?いや、来ないと思うけど、、、」


「え!それって変じゃない?」


変って何だよ。

そう思ったが、プランナーがすかさず、

「片親の方や、ご両親が不在の方も居ますので、

 問題ないと思います。

 しかし、披露宴は行わず、

 挙式だけされる方が多いですね。」


「え!それいいじゃないですか!

 挙式だけでもいいんですね!

 挙式だけでもいいじゃん!サユリ!」


俺は披露宴をしなくてもいい事を知り、

プランナーとサユリを交互に見た。


サユリは凄く怖い顔をして、黙っていた。


プランナーは気を遣って、

とりあえずサユリが要望した結婚式の見積もりを出して、

次の予約はいつにするか聞いてきた。


サユリはプランナーに、

次の予約はとりあえず無しで、

またこちらから連絡すると伝え、

俺たちは帰ることになった。



帰り、サユリと俺は

一言も話さず、家に着いた。


俺はこのままだと耐えられないと思い、

「夕飯、どうする?」

と声をかけたが、

サユリは「んー」とだけ言って、

なかなか話が進まなかった。


結婚式場での事が

引っかかっているのは分かっているが、

俺はこの話はもう、したくない。


「ハルはさあ、結婚式したくないの?」


サユリはそう言いながら、

ピアスを外してテーブルに置いた。


「したくないわけじゃないけど、

 ほら、俺の両親だけ居ないし、変なんだろ?

 だったら挙式だけでも俺はいいと思って。」


「変っていうのは、子供の結婚式に、

 母親が来ないのが変って意味!

 別にあたしは片親とかは全然気にしないし!」


俺は父さんに育てられたんだけどな。

そう思ったが、話す気にならなかった。


「…まあ、俺の母親が来るとか来ないとか、

 正直そこは俺にもどうすることもできないから、

 もうサユリが決めてよ。」


どっと疲れが来たのか、またサユリと話せなくなり、

俺はサユリに背中を向けて、着替えた。


「2人の結婚式じゃん!

 私だけ色々考えてさ、

 ハルは全然考えてくれないじゃん!」


俺はもう限界だった。


「2人の結婚式なら、

 もう少し俺の事考えてくれよ!

 俺は両親居ないんだよ!

 父さんは死んだし!

 母親だって疎遠みたいなもんなんだよ!

 俺は結婚式がしたくて、

 結婚するんじゃない!

 毎日毎日もうウンザリだよ!

 勝手にしろよ!」


「ウワーーーーーン!!!」



やってしまった。

サユリは両手をぶら下げて、子供のように泣いている。


「ごめん。頭冷やしてくるわ。」


そう言ってアパートを飛び出した。


どこに行けばいいか分からない。

とにかく遠くへ行きたかった。


俺は電車を乗り継ぎ、

見慣れた駅を降りる。


雪がふっている。

薄く白くなった道路を歩くと足跡がついた。



俺の足跡は、俺の実家を通り過ぎて、

小さなアパートの2階に続く。


電気が付いている。


玄関のインターホンを押すと、


「ふふ…風邪ひく。入って。」


と美世はドアを開け、

俺を部屋に入れてくれた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ