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父の形見  作者: ヒイラギ
6/12

事実

時刻は0時を過ぎ、俺の誕生日は終わっていた。


寝室にいるであろうサユリの動きを気にしながら、

オムライスとケーキを口に掻き込んだ。


全く味がしない。


その後シャワーを浴び、

寝室ではなくソファーに横たわった俺は、

寝るふりをしながら朝を迎えた。


サユリは起きてこない。

このまま出勤してしまおう。

と、急いで準備をして、靴を履いた。


「昨日遅かったね。」


急に後ろからサユリが声をかけてきた。

心臓が飛び出しそうだ。


「うん。」

とだけ答えて、革靴を大袈裟に鳴らした。

真っ白になった頭で思考を巡らせる。


「なんか仕事トラブったんでしょ?

 電話出ないから心配して高島君に連絡しちゃったよ。

 大丈夫だった?」


俺は靴をしっかりと履き、サユリを見た。

「そうなんだよ、本当に、大変で…

 大変だったけど、どうにかなったよ。」


「災難な誕生日だったねハル。」


「あ、オムライスとケーキありがとう!

 俺、自分の誕生日忘れててさ、嬉しかったよ。」


「え!自分の誕生日忘れてたの!?やばーい!」


「ははっ、あ!じゃあもういくね、行ってきます。」


「いってらっしゃい!

 あ、夜何食べたいか連絡してよ!」


助かった。

高島が俺を庇ってくれていた。

確かに高島の仕事の都合で帰りが遅くはなったが、

その後、どこで何をしているか分からない俺を庇うなんて…


会社に着くと、高島がデスクから頭をひょっこり出して、

ウインクしてきた。

俺はウインクだけは返したくないので、

(あとで)と口パクして仕事に着いた。


昼になり、高島とコンビニへ行き、

飲み物と菓子パンを買って、

近くの公園のベンチに座った。


「で?あの女の人誰よ。」


高島から出た言葉に不意をつかれた俺は、

「なにが?」

と質問を返す事しか出来なかった。


「まーーーそうだよね。言えないよね。

 でも俺、見ちゃったからさー。」

高島は嬉しそうにパンの袋を開けた。


見られたのか?

もしかして実家の前で俺が美世に抱きついたところか?

もう、全て言ってしまおうか。

高島なら分かってくれるかもしれない。

しかし、何を見たか分からないが、

美世の事は極力、話したくはない。


「どこで見たの?俺たちのこと。」


「アパートに入ってくとこ。」


高島は確信をついたと言わんばかりに、

にこにこ嬉しそうに笑っている。


しかし、それを聞いて、弁明の余地があると思った俺は、

まず事実を話した。


「あーあの人はさ、

 俺の父さんの彼女だった人なんだよ。」


「あ、え?そうなの?

 ずいぶん若く見えたけど。」

高島は拍子抜けしたようだった。


「ああ、32歳とか言ってたな。

 あの人、海外で働いてて、

 父さんの命日近いから、わざわざ帰ってきたんだって。

 駅でバッタリ会ったから、

 そのまま少し会って話しただけだよ。

 それより、なんで高島が俺の地元にいるんだよ。」


俺は事実に少し話を付け足した。

そして逆に高島に質問した。


「あれ?言ってなかったっけ?

 俺の彼女、地元ハルと一緒なの。

 昨日彼女の家で夕飯食わせてもらって、

 帰り車で送ってくれてさ。

 お!カップルみっけー!ってよく見たら、

 知らない女とアパートの階段登ってるハルが

 見えたわけー。」


「あー、そういえば前、彼女の話してたな。

 悪いな、面白い話じゃなくて。」


「じゃあサユちゃんに変な嘘つかなくても、

 全然大丈夫だったんじゃん。」


「いや、まあ、でも、あの人のこと、

 サユリに言う必要も無いし。

 仕事で遅くなった方が、

 サユリも変な心配しなくていいしさ、助かったよ。」


「そっか。ならいいか。」

つまんなそうな顔で菓子パンをかじる高島を見て、

胸を撫で下ろした。



「でも、ハルの父さん、

 ハルが19の時に、

 40歳で亡くなったって言ってたよな。

 えーと、俺らが今年25…えー 6年前だから、

 32歳…26歳!

ハルの父さんより14歳下だ!

 ずいぶん若い女と付き合ってたんだな!」


「ほんとだよな。」


「ハルと彼女さんの方が歳近いじゃん!

 案外向こうはハルのこと、

 好きになっちゃったりして!

 ハルは父さんに似てるの?」


「はは!俺が父さんに似てたとしても、無いな!

 そういうのじゃないよ。」


「そうかー。

 いくら親子で顔が似てても、別の人間だもんなあ。」


そう、美世は俺を好きにはならないだろう。

だから今、高島に話した事は嘘ではない。


俺の美世に対する気持ちを除けば、

今話した事は全て事実だ。

事実しか話していない。


俺は少し虚しくなった。


「お、そろそろ時間だな。戻ろう。」


高島が時計を見て言った。


その姿を見て、

俺は父からもらった時計を思い出した。


あの時計はどこへ行ってしまったのだろう。

父の墓に落としたはずなのに。


もしかしたら美世が拾って持っているのではないか。


それと同時に、美世と出会った夜を思い出した。

長い黒髪で、色白で、

今にも消えてしまいそうだった美世。


あの時と、姿も中身も

別人のように変わってしまったのに、

俺はまた、美世が好きだと思ってしまった。


でも、美世とはもう、会えない。

会ってはいけない。


俺は美世の事を考えないように、

(夕飯は、シチューがいいな。)

と、サユリにメールを送った。













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