表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
父の形見  作者: ヒイラギ
2/12

彼女

翌日、やはりあの光景が忘れられない俺は、

時計を探す名目で、もういちど墓場に向かった。


父の墓に近づく。

あの女はいない。時計も無かった。


しかし、ふと気づいた。

父の墓に供えてある花が、

黄色の菊から、真っ白な百合の花に代わっている。


祖母が来たのだろうか。

それとも…


どうしてもあの女が気になっていた。


俺は次の日も父の墓に向かった。

昨日よりも早く、時刻は朝の7時だった。


父の墓に人影がある。

あの女だ。

あの女が両手を合わせてしゃがんでいた。


いた。


どうするべきか悩んだ。

話しかけていいのか、でも他人だし。


でもあのキスは?


あの夜のキスを思い出し、また高揚感に襲われた。


墓にじりじり近寄ると、女は俺に気が付いた。


こちらを見る女は、薄い茶色のコートを着ていて、

胸まである黒い髪から、透き通った白い肌が浮き出ていた。

目や頬は少し赤く火照っている。

大きく見開いた瞳は、長いまつ毛の先に水滴をまどわせ、

きらきら光っていた。


「す、すいません。」


素早く立ち上がった女は、俺を通り過ぎて、早歩きで去っていく。


「あの!!!すいません!!!ちょっといいですか!!!」


「…すいません、勝手に。」

女はこちらを見ずに答えた。


「いえ、あの…お花!

 供えてくれました?」


「…いえ、私じゃないです。

 すいません、あの、帰りますので。」


女が去っていく。


俺は焦っていた。


聞きたい。

あの夜のことを聞きたい。

父と女の関係を知りたい。


「まってください!

 あの…キスしてましたよね!?

 夜に…おとといの夜に、俺、見ちゃって!

 父さんとどういう関係なんですか?

 付き合ってたんですか?」


女はピタっと止まり、動かなくなった。


「別に俺、大丈夫なんで。

 父さん、もうかなり前に離婚してるし、

 彼女がいたって別におかしくないと思うし…」


俺はそう言いながら女に近寄った。

横に並ぶと、女は泣いていた。


「ごめんなさい…わたし…」


そういうと女はその場にしゃがみこみ、

肩が動くほど嗚咽していた。


俺は細くて、今にも崩れそうな女の背中をさすった。


そして父の死をこんなに悲しむ人がいてくれたのか、

と少しだけ安堵したのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ