表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/276

ラスボス戦

 ◆


 しずしずと会議室へ向かっていた。

 すぐ隣を歩くアレンさんから、とても優しい口調で苦言がビュンビュンと飛んでくる。


 出会った当初、彼のエスコートは遠慮がちに指先を持つスタイルだった。それがお披露目会を境に腕を組んで歩くスタイルに変わった。

 距離が近くて話がしやすいし歩きやすい。しかし、叱られているときには少々近すぎるのが難点だ。


 最初からこうなることは分かっていた。

 だから執事長に協力してもらい、マダムと会うことはギリギリまで彼らに伏せてあった。

 当日、突然予定を知らされたアレンさんは、会議室が男子禁制と聞かされて二重にショックを受けていた。


「また問題が起きるのでは?」

「ちょっと相談したいことがあって」


 おぱんつのことを、少々。


「なぜ護衛を同席させないのですか?」

「女性だけで相談をしたくて」

「部屋を閉め切って?」

「そうですねぇ。ドアを開けていると丸聞こえなので」


 おぱんつの話なものですから。


「しかし、また何かあったら」

「お知らせする魔道具を持っていこうかと」

「リア様、私はそんなに信用できない人間ですか?」


 わたしは立ち止まった。

 彼の言ったことがショックで悲しくなってきたからだ。

 信用できる人ランキングを作ったら、彼が一位になる。むしろ彼を信用しないで、他の誰を信じるのかとすら思う。

 

「わたしがアレンさんを信用しないなんて、絶対に有り得ないことです」

「ではなぜですか? なぜ私を排除するのですか? 一度問題を起こした者がいる場所なのですよ?」

「それは、あの……」


 うう、どうしましょう。

 わたしは単にプライバシーが欲しいだけだ。

 内容を話さずに理解してもらうには一体どうしたら良いのだろう。感情の部分だけを素直に話してみるとか??


「その、ただ恥ずかしいだけ、というか」

「恥ずかしい?」


 顔を覗き込まれ、先日の壁ドン事件を思い出したら、ぶわーっと上半身が沸騰してしまった。


「そ、そういう内容の話だと思って頂ければ」


 アレンさんにおぱんつの話なんてできないですっ(泣)


 ぷすぷすと頭から湯気を出しながら、わたし達は再び歩き始めた。幸い彼の優しい苦言はそこで止まった。


 ところが、会議室の前に恐怖の大魔王がいた。

 仁王立ちしたヴィルさんである。

 ラスボスだ。

 おっきい……。

 普段から大きいけれども、今日は肉食の恐竜に見える。

 心が折れて泣きそうになった。

 このダンジョン(※ただの廊下です)は、彼を倒さないと目的地に辿り着けないのだ。


 くそう、負けるものか。

 わたしは白ステテコから王国を救う勇者リアだ。武器も防具もないけれど、いかなる敵にも戦わずしては屈しないっ。


「リア、どういうことなのかな。説明してくれないか」


 ヴィルさんは「おいで」と言わんばかりに両腕を広げて言った。

 直感的に「罠だ」と分かった。わたしの心に警戒ランプが点灯する。

 ところが……

 てててっと走り、パフッと彼の胸に収まってしまった。

 嗚呼、習慣は恐ろしい。

 勇者リアはパブロフの犬だった。


「……ハアアッ! しまったぁぁ!」


 後ろで、ブフッ!と、アレンさんが吹き出して笑っている声が聞こえた。

 「たまに凄く面白くなってしまうリアも最高に可愛い」と、ヴィルさんが肩を震わせながら言った。

 めっちゃ笑われている。

 無理もないけど。


 慌てて離れようとしたものの時すでに遅し。ガッチリとホールドされて動けなくなっていた。

 最も警戒していた大魔王との超接近戦だ。


「リア、どうして密室会議なんて危ないことをする?」


 わたしを抱く腕にぎゅうっと力が入った。


「女性だけで話したいこともあります」

「教えてくれるまで離さないと言ったら?」

「そんなことをしても答えません」


 言い負かされないよう、お腹に力を入れて足を踏ん張った。

 おぱんつだけは絶対に譲れない。絶対に。


「女性だけでは危険だ」

「相手は六十歳を過ぎたデザイナーです。皆さんがよく使う言葉で言うなら『非戦闘員』ですよ?」

「しかし……」

「仮に何かあっても、四人で取り押さえられます。念のためお二人にお知らせする魔道具も持っていきます」

「それは分かった。では、質問を変える。なぜ俺に秘密を作る?」

「い、言えないことくらいあります。それに、すべてをお話ししなくてはならない間柄ではありません」


 この時点で婚約者がいたなら、詳しく話していたかも知れない。初夜が絡む以上、二人の問題という気もする。


「前に問題を起こした人物なのだろう?」

「調査はして頂きました。問題がないことを確認済みです。周りの同意も得て会うことにしています」

「リア、分かってくれ。心配なのだ」

「わたしばかりに理解を求めないでください。この国は相手が心配していれば何でも喋るのですか? ヴィルさんにも個人的な秘密くらいありますよね?」

「リア! どうしてそんな分からないことを言う」

「分かっていないのはヴィルさんですっ。わたしには秘密を持つ自由もないのですか? わたしは囚人ではありませんっ」


 はぁ、はぁ、はぁ……。

 しんどいです。

 こういう言い合いは、大の苦手です。

 でも、今日のリア様は大健闘。

 も、もう、このままお休みしたいです。


 己の許容量はとうに超えている。

 頑張り過ぎて、色んなところがぷるぷる震えていた。


「団長、もうそのくらいで。それ以上はリア様が窒息します」


 アレンさんが間に入って止めてくれた。

 ヴィルさんが「ダメかぁ」と肩を落としている。


「リア様、深呼吸をしてください。また無理をして」

「ご、ごめんなさ……」

「ゆっくり深呼吸しましょう」


 彼はふらつくわたしを支えながら、いつもより長めのヨシヨシをしてくれた。

 そして、落ち着いた頃を見計らって、素早く通報用魔道具の動作確認をした。


「受信機は私が持っています。おかしいと思ったら早めに知らせてください」

「はい」

「これを押した後は、侍女を盾にして身を守ってください」

「え?」

「あなたがしなくても侍女が自発的に盾になります。くれぐれも彼女たちを守ろうとしないように」

「でも……」

「お願いです。これだけは言うとおりにして下さい」

「は、はい。わかりました」


 マダムと再会するにあたり、また衝立の後ろに隠れるのかは、侍女の間でも意見が割れていた。

 しかし、また一人でヤキモキするのは寂しいので、衝立は置かずに「遅れて部屋に入る」という流れにした。

 先に侍女だけで対応し、様子がおかしければそのままお帰り頂く。問題がなければ、途中でわたしが入っていくという作戦だ。


 マダムが会議室に入って約十五分が経過していた。侍女からのNGは出ていない。


「約束の時間です。ヴィルさん、行かせてください。どうかお願いします」

「いつか話してくれるのか?」

「もちろんです。いずれすべてご説明します」

「……分かった」


 ヴィルさんは「ここで待っている」と言って、わたしのおでこにキスをした。


「行ってまいります」


 二人に頭を下げてから会議室に入った。

 アレンさんが何か思い詰めたような顔をしていて心が痛んだ。


ブックマークと評価を頂きありがとうございます。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ