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おぱんつの乱

 ヴィルさんが仕事で不在だった日、緊張感から解放されて久々にリラックスしていた。

 名探偵シリーズの本を借りるため、アレンさんと図書室へ行った。その日は司書さんがお休みだったので、自分達で目当ての棚の場所を調べた。


 鼻歌混じりに歩いていると、「団長がいないと気楽そうですね?」と、アレンさんが聞いてきた。


「しつこく尋問をされて困っていたのです」

「尋問ですか」

「聞き方を変えながら、何度も同じことを聞いて喋らせようとするのです」

「うーん……それは尋問のうちに入りませんねぇ。彼が本気になったら、そんなものでは済まないですよ?」

「手加減をしていると?」

「相当していますね」

「そ、そうなのですか」


 ぜひそのまま本気を出さないで頂けると助かる。せめてマダムとの再会を果たすまでは静かにしていてほしい。

 そんなことを考えていると、アレンさんが「そういえば」と言った。


「リア様は、拷問に耐える訓練を受けたことは?」

「わたしの母国は平和な国ですので、そういうのはないですよぉ。アレンさんは?」

「ありますよ?」

「ええっ、辛かったですか?」

「それなりに。ただ、変わり種もたまにあって、『くすぐりの刑』みたいなものもやられました。あれは意外とツラいものですよね」

「くふふ。わたしはすぐに降参してしまうかもです」


 コチョコチョ地獄でのたうち回るアレンさんを想像して笑いながら、ミステリー小説が集まっている棚を探した。


「あ、この辺りでしょうか?」

「百三十二番の棚ですから、そこの右側ですね」

「はーい」


 トコトコとお目当ての棚へ向かう。


 しかし、通路から本棚へ曲がったところで、事件は起きた。


 「ちょっと失礼」とアレンさんが言った。

 それとほぼ同時に、本棚に押しつけられた。


「ふぇっ?」


 突如、彼から仏像感が失われ、生身の人に変わっていた。

 メガネをしていない。

 いつの間に外したのだろう?

 弾力がある。体温がある。

 ち、ちかい。

 近いというか、息が止まるレベルで近すぎる。

 これは何ですか? 壁ドン? いや、壁ではないから、本棚ドン?


 わたしは「どぅぁっ」という謎の奇声を発していた。動揺しすぎて「どうしたのですか?」が言えていない。


 彼は余裕の微笑みを浮かべていた。

 にこにこ、キラキラ。


 くう……。


 ※尊すぎて直視できないので、画面が特技『焦点ズラし』でボヤけていることをお詫び申し上げます。


「あの、アレンさん?」


 真意を確かめようとするも、彼はスッと手を伸ばしてきて、わたしの髪を耳にかけた。

 そして、その尊いお顔を近づけてくる。


 これは、なにが起きているのでしょうか?

 ど、どういう状況??

 あれ? 名探偵シリーズの本を探す話は?


 予想もしていなかった事態に、わたしはすっかりパニックに陥っていた。


「最近、何をコソコソやっているのですか?」

「ひ……っ」


 きゃーっ、きゃーっ、きゃーっ!

 あああああアレンさんがっ! がーっ!

 きゃーっ!

 

※只今、精神が乱れております。少々お待ちください。


 彼が左耳のすぐ近くで囁いた。

 息がかかった。

 声も普段と少し違う気がする。

 ハアアアッ、耳がぁぁぁっ。溶けるゥゥ!

 いやー、たすけてーっ。死んじゃうー!


 冷静に考えてみれば、彼はヴィルさんの部下だ。大魔王の手下なのだ。

 彼は大魔王の命令で、わたしからおぱんつプロジェクトについて聞き出そうとしていた。


 たたた大変なことになってしまいました。

 迂闊でした。

 逃げなくては!

 力ずくでも!


 わたしは彼を押しのけようと、両手で力いっぱい押した。


「ふんっ! うううぅ~~~っ!」


 はあ、はあ、はあ……

 こんなにピクリとも動かないこと、あります?(泣)


 ひとりで頑張るわたしを見下ろし、彼はニコニコと微笑んでいた。


「は、離し……」

「教えてくれたら解放してあげますよ?」

「おしえないですっ」


 彼は「頑固ですねぇ」とクスクス笑った。


 また彼が顔を近づけてきて、耳に息がかかる。

 きゃーっ、きゃーっ!

 殺されるゥゥゥ!


「喋らないと、もっと色々しちゃいますよ?」

「はぅぅ……っ」


 体がぷるぷる震えだした。


 なんて仰いました?

 いろいろ?

 こ、この状況で色々しちゃうと?

 司書さんがお休みで、広い図書室でふたりきりなのですが?(泣)

 だだだだダメですっ。いけませんっ。

 わたしにはヴィルさんという人がっ!

 ……あれ?

 いや、少々お持ちください。

 違いますよね。ヴィルさんは「何でもない人」でしたね?(大混乱)

 アレンさんは旦那様候補のリストにお名前が載っていましたけれども、ヴィルさんは「遊ばれているかも知れない人リスト」に一人だけ入っているのでした。


 あれ?

 じゃあ、これは正解なのかな?

 え? 正解ってなに?

 そういえば、わたしの旦那さま問題は、どうなるのでしたっけ??


「んむ? んーむ……?」


 もごもご考えていると、彼が呆れて嘆くように言った。


「こんな状況で誰のことを考えているのですか? ここまで近づいても上の空で、こちらを見てもらえないほど、その人物に想いを寄せているのですか?」

「ん? ふぐぅッ」


 顔を上げると目が合った。

 し、しぬ……焦点をズラさないと。


「リア様、紳士で在ろうとは思っていたのですが少々気が変わりました。ほんの少しだけ意地悪をします」

「え?」


 彼がサラサラのブラウンヘアーをかき上げると、ゴゴゴゴゴ……と、何かが迫ってきた。

 キラキラのお顔が迫ってきている。


 こちらヒューストン。

 現在の軌道と進入角度から予測進路を計算し、行き先と着陸後の行動および目的をシミュレーションします。

 カタカタカタ……

 結果が出ました。


 行き先:『マウス・トゥー・マウス』

 目 的:『侵略』


「ま、待ってアレンさん、それは避難命令が必要なやつですーッ」


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