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お見合い

第五章 お見合い

 ◇◆◇


 数日置きに届けられるお見合い相手のリストは不思議な動きを見せていた。


 二度目に届いたリストは、王宮で実施している身辺調査のフィルターに引っかかったのか、ぐっと数が減っていた。

 ところが三度目、減った分がすべて元に戻っていた。

 リストを持ってきてくれた王宮の担当者に理由を聞くと、「ちょっと詳しい事情は分からない」という返事が返ってくる。

 そして、四度目の更新。また人数が増えていた。

 大丈夫なのかと心配になる動きだった。


「集中して、一日に五人ずつお見合いしましょう!」


 このリストを運んでくる担当文官は、元気が良いのだけが取り柄みたいな人だ。体育会系なのかやたらとハキハキしている。

 わたしは彼を心の中で「元気ハツラツ君」と呼んでいた。

 彼は常に元気なので、雑談をしている分には気楽だ。しかし、彼のお見合いに対する認識は独特だった。


「腕相撲大会がんばりましょう!」

「一日に五人はいけますよ!」

「バンバン倒しちゃってください!」

「四年後の五輪を目指して頑張りましょう!」

「ふぁいっ! おー!」


 これとほぼ同じノリで、彼はわたしのお見合いと結婚の話をする。

 彼にとってのお見合いは、ほとんど「試合」に近い。


 とは言え、こちらもお見合いの経験はないので、まずは言われたとおりにやってみようと思っていた。駄目なときは駄目だと言えばいいかな、と。

 なにせ神薙様のお見合いは、わたしの知っているそれとは根本的なシステムが違うのだ。


 当初、相互理解を深めるための質疑応答を双方向からするものだと思っていた。

「ご趣味は?」

「お茶とお花を少々」

 このベタなやり取りは、お茶とお花をやっていないにしてもちょっと言ってみたいフレーズだ。

 しかし、神薙版のお見合いはそうではない。

 相手が一方的にアピールポイントをプレゼンし、神薙様はそれを聞くだけなのだ。

 そのやり方が目的にマッチしているのか疑問だったので、フリートーク形式のほうが良いのでは? と提案はした。

 しかし、神薙の個人情報をむやみに出さない「決まりなので」と、結局はプレゼン形式が採用された。


 ヴィルさんのことが頭をかすめる。

 遊ばれているかも知れないとは言え、わたしが彼に好意を抱いている時点で、お見合いのハードルが高くなってしまっている。

 しかし候補者には、くまんつ様、アレンさん、そして年上ダンディーのフィデルさんといった知り合いもいる。最悪は陛下の妻コースだってある。

 期限があるわけではないので、しっかり考えて選ぼう。潔くヴィルさんへの気持ちは胸にしまい、選んだ相手に未来を委ねようと腹はくくっていた。

 そうしてわたしがモヤモヤ悩んでいる間にも、準備は順調に進んでいた。


 お見合いの予定を聞いて首を傾げた。

 「身分の高い順」のリストを作っていたわりに、お見合いが申し込み順でもなければ、オルランディアのアルファベット順でもない。完全なる順不同だった。

 こういう仕事の仕方は「外国あるある」という感じがする。平等と調和を重視する日本ではまずないはずだ。

 知り合いは上のほうに固まっているので、リストの順(身分の高い順)にしてほしいと伝えた。けれど、無理だと言われてしまった。


 お見合いの前日夕方に相手の身上書が届いた。

 いわゆるスペック表だ。

 一応サラッと読むことにした。

 五人分を読み、それほど大きな違いがないことを確認した。似たり寄ったりで結局は会ってみないと分からない。


 そして、いよいよ当日。

 会場となる王宮へ移動した。


 スペック表をもとに元気ハツラツ君から簡単な紹介があった。

 てっきり彼が司会進行をするのかと思いきやそうではなく、早々に二人きりにされてしまった。

 開始二分で、仲介のおばちゃんが「あとはお若いお二人で」と去っていくような急展開だ。

 プレゼンの持ち時間を削らないようにという配慮なのかも知れないけれども、いくらなんでもこれはない。


 最初のお相手は、ホニャララ子爵の御嫡男ナンチャラ様で……。

 会ったことは間違いないのだけど、右から左へ物凄い勢いで何かが飛び去っていったような感覚だ。

 彼の顔はへのへのもへじで、髪の色が何色だったかも記憶に残っていない。

 ただ一つだけ、話のメインが「マングース猟」についてだったことは覚えていた。固有名詞が多くて早口だったせいか、内容がまるでチンプンカンプンだ。

 とにかくマングース猟での儲けがどうとか……なんかそんなような話だった気がする。


 控え室でアレンさんに「お疲れ様でした。どうでしたか?」と言われて、はっと我に返った。


「す、すごく早口で、何を言っているのか全然で。マングース猟がどうとかって……」

「悪いのは相手ですから、忘れていいのですよ?」

「たくさんの地名と人名、それから魔法の話が絡むと意味が分からなくて」

「まだ大魔導師と聞いてもウミウシやアメフラシの仲間になってしまいますからねぇ」

「わたしの黒歴史を嬉しそうにほじくり返さないでください」

「先程の方はラングース子爵です。ラングース領、つまり自分の領地の話をしていたのでしょうねぇ」


 メインテーマからして迷子である。

 マングースじゃなかった……

 もっと地理や人名を勉強しないと生きていけない。それ以外の名詞も、何でもいいから少しずつでも頭に入れないと(泣)


 どの「ホニャララ様」や「ナンチャラ様」のプレゼンを聞いても基本的にはこの状態だ。お茶を飲みながら、テロップのない難解なネット動画を一本見たのと同じ感覚になる。

 これをお見合いと呼ぶのは結構チャレンジングだ。


 控え室に戻ってアレンさんに泣きつき、化粧を直して軽くお茶を飲んでいると、すぐにまたお呼びがかかる。

 元気ハツラツ君は、ラウンド間のインターバルは短めにして、早く試合を進めたいタイプのようだ。

 わたしも「早くお家に帰りたい」と思っていたので、次々と五人のプレゼンを聞いた。

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