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貢ぎ物

 貢物とは言うけれど、贈り主の皆さんは一体どうやってここの住所を知ったのだろう。勝手に自宅の場所が公開されているのだとしたら怖い。


 わたしの疑問を見透かしたように、イケ仏様はグレーの瞳でこちらをじっと見て言った。

 

「王宮に貢物専用窓口が設けられており、危険物の確認をした後に転送されてきています。ここの住所は非公開ですのでご安心ください」


 消しゴムのカスを払うように「王宮を私書箱代わりに使っています」と言った。


「この方々は、どうしてわたしに貢ぐ必要があるのでしょうか?」


 お見合いの可否を決めるのは王宮の人達なので、貢いで便宜を図ってもらうとしたら贈る相手が違う。

 もし、わたしが贈る側の男性だったならば、お見合いの場で別れ際に渡すけれどなぁ……と思う。


 イケ仏様は手にしたクリップボードを見ながらメガネの位置を直した。

 わたしもそれを覗き込んでみると、荷物の大きさと重さ、それから差出人名が書かれたリストが挟まっていた。


「これらは『申し込みましたよ』という知らせも兼ねているのです」


 彼は指でトントンと軽くリストを叩いた。


「申し込み者数の目安になりますよ。今、二百人弱くらいでしょうか」

「へっ? わたし、そんなにお見合いをするのですか?」

「ははっ、数十人で済むと思っていましたか?」

「十数人が王宮でふるいにかけられて、数人になるのかと……」

「あなたの謙虚さは私の庇護欲をひどく刺激します。しかし、これからまだまだ数は増えますよ?」

「そんな……」

「ほら、予想通り親子で申し込んでいる家があります」


 彼はリストの真ん中あたりを指差し、上に書かれている名前が伯爵で、その下の行が嫡男の名前だと説明してくれた。

 過去に神薙の夫になったことがない天人族は、子どもの有無に関わらず夫になる権利がある。

 先代から『生命の宝珠』をお金で買った人の場合、親子で申し込んでくるのも有り得ない話ではなかった。


 男性しかいないうえ卵のようなものから生まれる不思議な種族であるせいか、皆さんの考え方や制度が個性的で、時々わたしを混乱させる。

 彼らにとって、神薙の夫に申し込むことと後継ぎとなる子どもを得ることは、まったく別の手続きなのだ。

 これは極端な話だけれど、わたしとお見合いをした日に跡継ぎが誕生している、ということも起こり得る。

 ただ、父と息子がライバル関係になることに対しては王宮も懸念があるようで、お父さんに辞退をオススメしていく方針を打ち出していた。


「これが王宮のフィルタリングで半分まで減ったとしても百人ですか……」


 一日一人とお見合いをしても三か月以上かかる計算だ。


 「確か、お見合いって緊張する催しでしたよね」と、わたしは呟いた。


「まあ、人によってはそうかも知れませんね?」


 イケ仏様はくすりと笑う。


「三か月も続けたらストレスでハゲませんか? 十円ハゲができるかも」

「エン?」

「母国の硬貨です。そう言えば、オルランディアは硬貨がないですね。わたし、昔、このくらいのハゲができたことがあるのです」

「オルランディアも地方ではまだまだ硬貨が現役ですよ? ちょうどそのくらいの大きさの硬貨もあります」

「旦那さんが決まった頃にはハゲハゲですよぅ」


 彼はクスクスと笑いながら「お見合いは数年続くと思っておいたほうが良いですね」と恐ろしいことを言った。

 そして、さらりと髪をかき上げた。

 彼はお披露目会を境に撫でつけ髪を卒業し、サラサラヘアの仏像へと進化していた。


 ひどい。わたしはハゲてゆくのに、彼は髪を自慢しているのだ(違)


 じと……っと睨むと、彼はまだ笑っていた。

 髪は進化していたものの、お披露目会の会場にいたキラキラの彼は一体なんだったのかと聞きたくなるほど仏像風味だ。

 当初は撫でつけた髪とメガネがセットで石化効果をもたらしているのかと思っていたけれど、やはり彼がかけている度なしメガネ単体の仕業だと思って間違いないだろう。

 貢物よりも彼のメガネを鑑定して欲しい。絶対にすごい値が付くお宝だ。

 むぅぅ……暴きたい。イケ仏の謎。


 運ばれてきた花束が机に置かれていき、さらにバスケットに入った果物などの食品類がドッサリと入ってきた。

 こんなにたくさん、一体どうするのだろう……。


「腐るものは優先的に鑑定しろ! 食品は厨房近くの空き部屋へ持っていき、料理人を交えて調整。花は一か所に集めてメイドに任せる!」

「はいっ!」


 隊長の指示通り、騎士の皆さんは「鑑定」という魔法を使って一つずつチェックしていた。

 良からぬ魔法がかけてないか、食べ物に毒がないかなどを調べているらしい。王宮でも同じことをしてから転送しているそうだけど、念には念を入れて、ここでもう一度やる。


 鑑定魔法を使うと中身もある程度は分かるらしい。彼らは台帳に品名を書き加えていた。

 ただ、箱や袋の外からだと「布」か「服」かの判別まではできないようだ。「布類」とか「陶器」とか「紙類」など、ざっくりした内容が書かれていた。

 贈り物すべてに対してこの作業をするのは大変だ。それに、騎士が本来やるべき業務とも違う気がする。


 ヴィルさんが隊長との話を終えて戻ってくると、またカメレオンの舌のように手が伸びてきた。それをイケ仏様がべしっと叩き落して「気安く触るな」と言った。


「リア、もう少し離れていろ」

「離れるのは団長です」

「何かあったら大変だろう」

「何かしているのは団長です」

「アレン、お前は……」

「いいから、一歩離れろ」

「……」

「そう、その距離です。よくできました」

「……遠い」

「そこが普通の距離です」


 わたしは口元を押さえて笑いをかみ殺した。

 イケ仏様によるヴィルさんへの指導が、仔犬のしつけとほぼ同じプロセスを踏んでいるのは気のせいだろうか(笑)


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