表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど  作者: 睦月はむ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/248

アレンの降格 §2[ヴィル]

episode順入れ替えのため再upです。

 アレンは学生の頃から真面目な後輩だったが、そのまま生真面目な部下になった。

 相変わらず姿勢が良く、背中に棒でも入れているのではないかと思うほど、背すじが真っすぐに伸びている。


「報告か? 今日はずいぶんと早いな」と、俺は声をかけた。

「団長……」と言った彼の表情が暗い。

「どうした? 何かあったのか?」

「リア様をナンパするのは、やめていただけますか」

 彼は恨みがましい目で言った。

 ぶばぁっ!と、クリスが茶を噴いたせいで、向かいに座っていた俺に飛んできた……。


「ヴィル! どういうことだ!」

 クリスの鼻息が荒い……。

「たまたま神薙が負傷した現場に出くわして『俺が助けた』という肝心な部分を、今まさに話そうとしていたところだ」

「ぬぁんだと……このやろう」


 クリスは嫉妬をするようなつまらない男ではない。ただ、根掘り葉掘りしつこく聞いてくる奴ではある。

「お前、リア様に何をした!」と、彼は俺をにらみつけた。

「助けた」と言っているのに、ひどい言いがかりだ。

「断じて不埒(ふらち)な真似はしていない。ましてやナンパなどでもない」

 そうは言ったものの、少し不安になってきた。……何もしていないよな?


 ゴロツキから救った。

 真っ赤になった手首を冷やしてやった。

 荷物を拾い、大通りまで送った。

 ……大丈夫、俺は無実だ。

「宮廷(なま)りの小リスが、ゴロツキに絡まれていたから追い払った。負傷して困っていたから少し助けた。それだけだ」と、俺は胸を張った。


「現場はどこだ?」と、クリスが聞いてきた。

「商人街から横道に入ったところだ」

「危ないな……淑女が一人で歩く場所ではないぞ」

「俺もそう思う」

「なぜ護衛とはぐれた?」

「それは側仕えの騎士に聞いてみろ」と、俺はアレンに話を振った。


「おい書記、最初から説明しろ」

 アレンは一瞬「うっ」と喉を詰まらせた。

 ナンパなどと言いがかりをつけられた俺は、ここぞとばかりに反撃を試みる。


「クリス聞いてくれ。彼は神薙を傷つけられたことで激昂(げっこう)し、派手に魔力漏れをやらかして玄関で突風を起こした。その結果、エムブラ宮殿の調度品を壊したのだ」

「マジか。やっちまったな」

「しかも、陸将に向かって、犯人を捕らえなければ首を斬ると脅迫もしたのだ」

「なんだなんだ、お前らしくないぞ」

「俺が代わりに謝りに行ったのだ。いやあ、大変だったなぁ……」


 アレンは鋭い眼光で俺をにらみつけていたが、すぐにいつもの呆れ顔に戻った。

「デタラメを言うのはやめてもらいたいですね。代わりに謝るどころか、団長が畳みかけに行ったと聞きましたよ」

 彼は冷静に反論してきた。せっかく反撃したのに、ブーメランで戻ってきてしまった。

「チッ……バレていたか」

 舌打ちをしているとクリスにも呆れられた。


 アレンは事の詳細を知っていた。おそらく父親から情報提供があったのだろう。

 総務大臣を務めているアルベルト・オーディンスはアレンの父で、俺の父や叔父とは学生時代からの友人だ。

「まあ座れよ、書記クン。何にそんな腹を立てたんだ?」

 クリスは彼に説明を促した。


「——うちの団員が、警ら隊員から賄賂をねだられたのですよ」

 アレンは不満そうにぶすっとした顔で、その日のことを話した。


 アレンは神薙から聞き取った特徴を王都陸軍の傘下にある警ら隊に伝え、緊急手配を要請していた。

 彼女を襲った犯人はずいぶんと目立つ容姿をしていたのだが、それにもかかわらずなかなか捕まらない。

 うちの団員が状況を聞きに出向くと、警ら隊の態度はひどかった。

 金品でもくれれば捕まえてやるが、何もくれないなら見つからないだろう、と平気な顔で言ったらしい。


「いい(うわさ)は聞かないよな。特に西側の警ら隊は態度が悪い」と、クリスは顎をなでた。

「まさにその西側なのですよ、今回の現場が」と、アレンは嘆くように言った。


 商人街西側の治安は以前から問題視されており、改善策がいくつも打たれている。

 警ら隊の意欲を高めるために給金も引き上げていたが、少しもそれらの効果が出ていなかった。

 それもそのはず、組織が腐敗していたのだ。

 西側の庶民街を担当する一隊は賄賂まみれ。金を受け取って罪人を見逃す一方で、罪のない民から金品を巻き上げていた。


 その上層組織である陸軍をまとめる大将(俺たちは略して陸将と呼んでいる)に至っては、警ら隊に上乗せされた給金をくすねていた。

 横領した金は彼の身内に分配されており、一族の収入を(はる)かに超える大金を、湯水のごとく使っていたことが判明。

「さて、どいつから罰するか」と相談していた矢先に、神薙の事件は起きていたのだ。


 彼女を襲ったゴロツキどもは警ら隊に金を渡し、西側の庶民街へ逃げていた。

 王命によって捜索が騎士団に一任されると、奴らは瞬く間に捕らえられた。

 賄賂に関与した警ら隊員も全員捕らえられたが、組織の頂点にありながら悪事に手を染め、組織を腐敗させた陸将の責任は重い。


 叔父は激高していた。

 今にも陸将を捕らえて殺す勢いだったが、宰相が別の提案をすることで思い留まらせた。

 陸将本人だけでなく、妻の実家筋と親戚まで徹底的に追跡し、財産を差し押さえることになった。すべてを売り払って現金化し、強制的に返済させる処分だ。全額は無理だろうが、それでもかなりの金額を回収できる。


 ところが宰相が提案した刑には、陸将の地位や身分を落とす処遇がなく、身柄を取り押さえるような要素もなかった。体面だけはそのままに、財産をすべて差し押さえたのだ。

 それは「無一文で家がないにもかかわらず今までどおりに働くこと」を強いられる恐ろしい刑だった。

 宰相ビル・フォルセティーは敵に回したくない。温厚そうな顔をしているが、静かに激怒していたのだろう。


 叔父は俺に「ちょっと陸将のところへ行ってきてくれ」と言った。

 それまでに集めていた証拠の数々を渡され、使えるものがあれば持って行けと言う。俺は王が決めた処遇を伝えるのが役目だ。


 陸将は自ら職を辞すべく、上司である兵部大臣に申し出たが、刑の執行中であることを理由に却下された。

 しかし家族や親戚も無一文で家から放り出されており、彼は一族からの報復を恐れて王都から逃げ出した。

 職務放棄は重大な軍規違反だ。彼は王都陸軍の頂点に立つ者であり、その重責を担っている。瞬く間に追っ手がかかり、彼が安全な場所まで逃げ切ることは不可能だった。


 現在、陸軍全体の組織改編があり、警ら隊は立て直しの真っ最中だ。落ち着くまでの間、騎士団も活動範囲を広げて治安維持の一端を担うことになるだろう。


「諸々の顛末(てんまつ)を彼女に教えてやれば?」

 アレンに提案してやると、彼は「言えるわけないでしょう? 馬鹿じゃないのか」と怒っている。

 以前の俺ならば「なぜ?」と思っただろうが、今は彼がそう言うのも理解できる。

 当代の神薙には、あまり生々しい話は聞かせたくない。


「そんなことより、なぜリア様に家名を明かさなかったのですか? 良からぬ意図を感じます」と、アレンがまた俺をにらんだ。

 おかげで、またクリスの矛先が俺に向いた。

「お前が身分を隠してどうする。なぜ名乗らなかった」と彼は俺を問い詰めた。

「あの日は隠密行動で、そのために全体訓練にも行けなかった。大っぴらに言えなかっただけだ」と、俺は言い訳をした。


「なんだよ隠密行動って」

「例によって叔父上のお使いだ。訓練をサボる理由としてはあまりにくだらない内容で、口に出すのも恥ずかしい」

「相変わらず陛下の便利屋か。不憫(ふびん)だな」と、彼は同情してくれた。

 しかも無給だから泣けてくる。俺は常々「街の便利屋のほうがよほど実入りがいいのでは」と感じていた。

「いっそ便利屋を開業するか?」

 クリスはニヤニヤしながら言った。

「やれるものならな。戦に出ても褒賞がペン一本だったのを知っているだろう?」

「わははっ! そう言うな。当時の給料では買えない高級品だぜ」

 自慢にならないが、世界で貧乏な王族を順に並べたら、俺が絶対に世界一だ。


「まあ、そんなわけで、苦情は叔父上まで頼むよ」

「言えるかよ、ばーか」と、クリスは笑った。

 俺が彼女に名乗らなかった理由はほかにもあったが、名乗れるものなら名乗っていた。


 俺の事情を察してくれたのか、アレンは小さくため息をつき「リア様から、お礼の品です」と、手にしていた小さな籠を差し出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ