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山積する課題 §3

 お兄ちゃん組のテオとショーンが、第三騎士団の紋章を見て急に興奮し始めた。

「テオ、虎のワッペンだ。第三騎士団だよ!」

「すげえ! ス~ッゲエ!」

 テオとサナ以外の子どもを護衛の団員に任せ、わたしたちは教会の中で第三騎士団の幹部に状況を説明した。

 くまんつ様の表情は終始険しかった。子どもたちが治安の悪い地域でタフな状況にあることはもちろんのこと、それ以外にも何か懸念があるようだ。

「東四区の教会は、とっくの昔に取り壊されたことになっている」と彼は言う。これには皆驚いてしまった。

 こちらから呼びに行った連絡係が、もう存在しないはずの教会にわたしたちがいると言ったため、彼らも驚いて皆で出てきたそうだ。

「教会が残っているばかりか、管理人のように振る舞っていた人物までいるとなれば、入念に調べたほうがいい」という彼の意見には全面的に賛成だ。


「今後のことを、彼と二人で相談しに行こうと思っているのですが……」

 詳しく話そうとしたものの、わたしは口ごもった。

「どなたに?」と、くまんつ様がわたしをのぞき込む。

「え、ええと、義理の……叔父様と、そのお友達にご相談しようかと」

 くまんつ様、陛下と宰相様のことです。どうか察してください。

「あ、ああー、なるほど! あのお二人ですか。それならば早いほうがいい」

 わかってもらえて助かった。身分を伏せていると、思っていた以上に言えない単語が多く、説明が大変だ。

「わたしに代わって、彼らのお世話をしてくださる人を探しています。先日のお申し出に甘えるようで恐縮なのですが、ご検討いただけますか?」

「そういうことでしたら、お任せください。我々以上の適任者はいないと断言できます」

 彼は自信に満ちた笑顔で、こぶしを胸に当てた。

「この場で引き継ぎます」と、副団長をはじめ幹部の皆さまもニッコニコだ。

 治安の悪い東四区内であることと、少々うさん臭い教会であることを踏まえ、団員を常駐させてくださるそうだ。警備はニッコリさんの隊が担当し、一日三回の交替制になることが決まった。

 憧れの騎士様が二十四時間一緒にいてくれると聞いた子どもたちの喜びようは大変なものだ。彼らのうれしそうな顔に目を細めつつ、わたしたちは急いで引き継ぎをした。水のこと、燃料のこと、食事のこと、開かない金庫があること……。


 最初は泣いてばかりだったディーンも、気がつけば楽しそうに遊んでいた。ところが、滞りなく引き継ぎを終えて帰り支度をしていると、いつの間にか彼がスカートにくっついている。

「リアお姉ちゃん、帰っちゃうの? また来るよね? 次はいつ来る?」

 かわいらしい瞳が今にも泣き出しそうに潤んでいた。どうも彼の涙には弱い。

 わたしは長椅子に腰かけると、ディーンを膝の上に乗せた。

「みんなをわたしのお家にご招待しようと思っているの」

「リアお姉ちゃんのお家?」

「そう。でもね、準備に一週間くらいかかると思うの。なるべく早く会えるようにがんばるから、待っていてくれる?」

「うんっ!」と、彼は元気に返事をしてくれた。ええ子や……(涙)

 わたしは一人ひとりと言葉を交わしてハグや握手をした。


「テオ君とサナちゃん、自分たちだけでがんばろうとしないで、騎士様をどんどん頼ってね」

 テオは「んー」と(うな)った。サナも少し困惑しているようだ。

「明日、簡単な本を届けるから、もし良かったら読んでみて? 空いた時間を楽しいことにも使ってほしいの」

 またテオが「ウーン」と言う。ずっと薪を割って水を運び続ける毎日を過ごしてきたせいで、あまりピンと来ないのかもしれない。

 なんて言えば伝わるのだろう。それとも、本ではないほうがいいのかしら……。モニョモニョ悩んでいると、くまんつ様が「もしや二人とも、本を読んだことがないのか?」と聞いてくれた。

「あるけど……」とテオが濁すと、サナが「孤児院にあったけど、数が少なくて」と補足してくれた。

 青空市場で見たかぎり、テオは商品名と値段は読めていた。字が読めないのではなく、本に触れる機会がなかっただけのようだ。この子たちの性格からして、小さな子たちに譲っていた可能性もある。

「なるほどな。それなら、初めは大人が読んで聞かせるから、まずはそれを聞いてみるといい。難しいことが書いてあるわけではない。ハラハラする勇者の大冒険、悪い奴を打ち倒した英雄の話、友情や恋の物語、本には種類がたくさんあって、夢が詰まっている。聞いているうちに先が気になり、自分で読まずにはいられなくなるだろう」

 すると二人の顔がパッと明るくなった。

 テオが「騎士様の話もある?」と聞くと、くまんつ様は「もちろん、あるとも」と答えた。

「伯爵様との恋物語は?」サナがそわそわしながら尋ねると、彼は笑いながら彼女の頭をなでた。

「伯爵なんかでいいのか? 本の中では誰もがイケメン王子に見初められて結婚できるのだぞ?」

 二人の目は、新しい世界への好奇心で輝いていた。

 くまんつ様の優しさと細やかさには救われてばかりだ。わたしがお礼を言うと、彼は軽く首を振り「馬車の準備ができています」とエスコートしてくれた。


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