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護符師 §2

「それでは発動させてみますね」

 本には『なるべく周りに障害物がない場所で』と書いてある。机から離れ、部屋の真ん中で試すことにした。

「念のため、近くにいましょう」と、アレンさんは隣に立ってくれている。


 まずは少しだけ魔力を混ぜた息を護符に吹きかけた。

 わたしが書き上げたばかりの防犯の護符は、魔力を少しだけ流してやれば発動する仕様にしてある。

 護符師の息を吹きかけるのは「完成」させるために必要なアクションで、何も指定しなければ完成したと同時に発動してしまう。

 自分の好きなタイミングで使い始めたい場合、護符の中で発動方法を指定する。トリガーにできるアクションは複数あれど、ほんの少し魔力を流すやり方は書くのも使うのも簡単だった。

 発動キーワードを設定することもできるから、好きなアニメや映画の呪文を拝借して使えば、それっぽい気分が味わえるかも知れない。


 指先で護符に触れ、わずかな魔力を流す。

「魔力操作が上手になりましたね」と、彼が微笑みながら褒めてくれた。

 それもこれも練習に付き合ってくれた彼のおかげだ。いつぞや彼の部屋で【浄化】を暴発させ「【浄化】はそういうのじゃない」と(あき)れ笑いをされた頃が懐かしい。

 護符が発動し、わたしが書いた模様がうっすらと青く光り始めた。

「わあ、光りましたよ」

「これは美しい」

 彼は感嘆の息を漏らした。

 わたしたちは顔を見合わせてニコニコとしていた。


「あの入門書はとても親切なのですけれど、発動するとどうなるかがあまり詳しく書かれてないので興味深――」

 言い終わらないうちに、護符から「ヴゥン!」と、振動を伴う大きな音が出た。

「きゃっ!?」

 突然の音に、思わず身をすくめた。

「リア様、護符から手を離して!」

「はっ、はわ……っ」

「部屋の隅へ!」

「は、はいっ」

 急いで護符から手を離すと、ヒラヒラと床に落ちていく。大慌てで部屋の隅っこへ逃げた。アレンさんが護符との間に入り、わたしがすっぽり隠れるよう守ってくれている。

 爆発するのではないかという恐怖で彼にしがみついた。

 ――どうして防犯の護符が爆発するの? もしかして何か間違えた? 少しの間違えで「家内安全」が「家内爆発」に変わっちゃったりするの?

 スマートフォンのバイブ音を千倍くらいにしたような、ヴゥゥーという音がお腹に響く。

「ど、どうしましょうっ。大失敗してしまいました」

「いや、発動したということは失敗ではないと思うのですが……しかし、何も起きませんね」

「どこを書き間違えたか、確認しなくちゃ」

 アレンさんに守られたままションボリと肩を落とした。


「リア!」

 打ち合わせをしていたはずのヴィルさんが、バァーンと音を立てて書斎に飛び込んできた。部屋の外にも音と振動が伝わったのだろう。しかし、わたしは彼の立てた音のほうにも驚いて飛び上がった。

「大丈夫か! 魔力は切れていないか! 具合は!? 誰か魔力計を持ってこい!」

 彼は血相を変えて大騒ぎしている。わたしが魔力操作に失敗して、最大出力で何かやらかしたと勘違いしているのだ。護衛が次々と部屋に入って来ていた。

 慌てて経緯を説明している間も、護符はヴヴヴ……と奇妙な音を出し続けている。しかし、心なしか次第に音が小さくなっているように思えた。

 爆発もしなかった。


「リア、いったい何を見て護符を書いた?」

 ヴィルさんは片方の眉を上げた。怒っている、かも。

「こ、これです……」そっと両手で本を差し出した。

「むぅ、この間の古書か」

「ハイ」

「これは、なんて書いてあるのだ?」

 彼は本のタイトル部分を指さし、トントンと表紙を軽くたたいた。

「ええと……『初心者必読 ドハマり確定! 真・護符の世界 ~超入門編~』です」

 わたしが小さな声で本のタイトルを読み上げると、彼とアレンさんはビックリしたニワトリのような顔になっていた。

「こんなに分厚くて歴史がありそうな古書なのに、そんなノリなのか……?」

 ヴィルさんの顔が引きつっている。

 先生には話してあったのだけれど、実は陛下から頂いた古書の大半は、このような軽ぅ~いノリのタイトルだった。


「あんなに大きな音が出るとは書いていなくて、わたしもビックリしてしまって……」

「可哀想に。驚いたよな。怖かっただろう」

「ごめんなさい。お仕事中にお騒がせして」

「そんなことはいいんだよ」

 ヴィルさんにギュムギュムと抱き締められていると、ふいにアレンさんがメガネを外して窓のほうを凝視した。


「団長、外……!」

 彼は外を指さし、絶句している。


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