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厄払い §1

 ランドルフ邸の呪符が解呪されて以降、ヴィルさんのお父様が体調不良を訴えるようになった。

 この情報が入った時、誰もが「解呪をしないほうが良かったのか?」と狼狽(うろた)えた。しかし、どうやらそういう話ではなさそうだ。

 お父様は長年、複雑な不快感や苦痛を抱えながら暮らすのが当たり前になっていたらしい。身の周りにあった呪符が三つ消えたことにより、それが少しずつ和らいでいった。

 最終的に残っているのが、頭痛と倦怠(けんたい)感、眩暈(めまい)といった症状で、要は「やっと人に症状を説明できるレベルまで調子が良くなってきた」という前向きな話だった。

 ブロックル先生が治癒魔法をかけたものの、効果は十五分程度しか続かず、すぐにぶり返してしまうようだ。今までもそうだったと言う。

「ほかにもどこかに呪符があるのでは?」と、ユミール先生は眉をひそめた。

 どうやら行動範囲を片っ端から調べたほうがいいようだ。


 呪符の中には、体に染み込ませるように作用し、呪符そのものが消滅した後も効果を持続させる悪質なものが存在するという。そうなると、直接本人を解呪しなければ取り去ることはできない。

 王都には解呪の専門家がいるけれど、王兄が長年呪われていたとうわさになるのは困るらしく、陛下は解呪師の介入に反対した。完全プライベートでどうにかしたいそうだ。

 そうなると必然的にわたしが「救急箱」として出動することになる。ヴィルさんは大反対だ。彼はわたしをお父様に会わせたくないのだ。


 人体に対する解呪でも、場合によっては反発作用が起きると聞いた。大きな反発が起きれば、そのダメージでお父様の体が傷つくおそれがある。解呪と同時に治癒魔法も必要になるのだ。

 解呪ができて、治癒魔法ができて、王族と完全プライベートな人物……イコールわたしだ。ヴィルさんも渋々ながら了承せざるを得なかった。

 わたしのお役目は、お父様の身の周りを洗って、完全に解呪することだ。


 ☟


 陛下のプライベート用のサロンに入ってから、念のためアレンさんに魔力残量を測ってもらった。

 解呪はわたしの謎パワーで行うので魔力は不要だけど、【治癒】には消費する。

「二回は確実に使えそうですね」と、アレンさんは言った。

 毎日欠かさず飲んでいる激マズ魔素(シンドリ)茶のおかげだろう。


 五メートルの距離までお父様に近づかなくてはならない。この有効範囲はユミール先生と一緒に実験をして確認した距離だった。

 当初予定では、わたしがお父様に近づいていくことになっていたのだけれど、それだと反発作用が起きた場合にお父様が逃げ遅れる可能性がある。お父様にご自分のペースで近づいてきていただくやり方に変更した。


「リア、大丈夫か?」と、ヴィルさんが言った。

「はい? 大丈夫ですよ? お茶を頂いているだけですので……」

 彼は朝からずぅーっとソワソワしている。立ったり~、座ったり~、ウロウロ歩き回ったり~……と、まるで飼い主の帰りを待つ子犬さんのようだ。

「本当に大丈夫か?」

「それはわたしのセリフです」

「怖くないか? 我慢をしていないか?」

「んもぅ……」

 彼はわたしが怖がっていることに気づかなかったことを猛省しているらしく、あれ以来、ひっきりなしに「怖くないか」と聞いてくる。


「ヴィルさん、今日はわたしよりもお父様を気遣ってあげてください」

「うーん、そう、だろうか」

「わたしのことはアレンさんに任せて」

「ねー?」と言うと、アレンさんがクスッと笑って「ねー」と言った。

「そうだよな。アレンがいるしな」

 彼は腕組みをしてうなずいている。

「お父様、きっと不安な気持ちだと思いますよ? もういらっしゃるのでは?」

「遅いよな」

「お迎えに行ってみては?」

「そうだな。そうしようか」


 わたしは一番奥のソファーに陛下と並んで座り、お父様の到着を待っていた。

 ヴィルさんが部屋を出ていくと、しばらくして二人の話し声が聞こえてくる。ドアが半開きだったせいで会話が丸聞こえだ。


「あれ? お前も来たの?」

「それは来ますよ」

「リアちゃんに申し訳ないことをしたな」

「それ、私にも言っていただけませんか」

「嫌われていないだろうか……」

「嫌われていたら連れて来ませんよ」


 知らぬ間にヴィルさんのお父様が「リアちゃん」と呼んでくださっている。

 話し声が近づいてきて、ドアが開いた。

 陛下が「遅いぞ兄上」と声をかける。わたしは立ち上がって軽く頭を下げた。


「ところで父上、その箱は?」

 お父様が小脇に抱えていた箱を指さし、ヴィルさんが首をかしげている。

「ん? さっき届いた」

「まさか……」

「これ、またルアランから届いた」とお父様が言いかけたとたん、ヴィルさんが目をひんむいて、むしるように箱を奪い取った。

「私が持ちます。また調子が悪くなると困るのですよ!」

「おっ、優しい息子」

「リアには絶対に変なことを言わないと誓ってください」

「私がいつ彼女に変なことを言った」

「長年ずっと変でしたよ!」

「調子が悪かっただけで変ではない。むしろお前のほうが変だ」

「いいから誓ってください」

「まるで子どもだな。わかった。誓うよ」

 ぷりぷりするヴィルさんに、お父様は両手を上げて面倒くさそうに降参のポーズを見せた。


「待たせて申し訳ない。ルアランから新しい贈り物が届いた。先にこれを見てもらえるだろうか。ヴィル、それをリアちゃんの所へ」

 陛下が立ち上がり「まさかまた呪符か?」と言った。


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