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昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど  作者: 睦月はむ


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聖地巡礼

『呪兄』

 日本に比べて温暖な冬が終わり、季節は春。ぽかぽか陽気が続いていた。

 王宮の庭園は芝が青々としていて、かわいらしいリスが追いかけっこをしている。

 ガゼボで美味しいお茶を頂きながら、ホウッと幸せのため息をついた。

 ヴィルさん、くまんつ様、アレンさんの三人は、目の前に並んだチョコレートの話で盛り上がっている。

 素晴らしいお天気、最高のお茶、ご褒美のお菓子、大好きな人たちとの楽しい会話……幸せだ。

 くまんつ様のおヒゲは相変わらずモシャモシャしていて、頭部のクセ毛と見事な接続を果たしていた。

 ヴィルさんから「眉毛がつながったら絶交だからな!」と理不尽なことを言われ「どこに友情を感じているんだよ」と言い返している。


 マッタリしていると、イケオジがパタパタ走ってきた。

「呼んでおいてすまんな。遅くなった!」

 皆で立ち上がってご挨拶をしようとすると、陛下は「やめやめ! こんな身内ばかりで堅苦しいのはナシだ!」と制止した。

 かなり忙しかったのだろう。シャツの袖をまくり、お茶の前にグラスの水をグイッと一気に飲み干している。

 お付きの人を払うや「ちょっと個人的な頼みがあって来てもらった」と声を下げた。


「兄のことで少しばかり気になることがある」

 陛下のお兄様といえば、ヴィルさんのお父様のことだ。

 ヴィルさんと一悶着(ひともんちゃく)あった後、陛下のすぐそばでお仕事をしていた。同じ部屋で仕事をして、食事休憩の時間もずっと一緒だと言う。

 これは陛下に拘束されて嫌々そうなっているわけではなく、もともと同じ部屋で一緒に仕事をしたほうが効率的だそうで「ちょうど良かったので本来あるべき形にしただけ」と陛下は話していた。


「――兄の家を調べてもらいたい」

 陛下はさらに声を低くした。

「家とは、どの家のことですか?」と、ヴィルさんが目を丸くして尋ねた。

「すぐそこの住まいだ」

「はあ?」

 ヴィルさんは素っ頓狂な声を出した。


 陛下の話はこうだ。

 お父様が自宅に戻って翌朝出勤してくると様子がおかしい。小さなことでイラついたり、行動や言動がやや乱暴になったり違和感があるそうだ。

 しかし、王宮で寝泊まりしている分には何ら問題はない。毎日そこそこ調子が良さそうで、周りの人たちとも普通に接しているらしい。


「普通は逆だろう?」と陛下は言う。

「そう言われてみると……」

 ヴィルさんは何か思い当たるふしがあるようだ。

「戦が始まった直後で、何日も家に帰れていない状態の父に会ったことがあるのですが、ひどく疲れた様子なのに気味が悪いほど機嫌が良かったのです。話は普段どおり一方的でしたが、表情や話し方に関して言えば、昔の父のようでした」

 陛下はあごヒゲをさすりながら「やはりそうか」と眉間にシワを寄せた。

「しかし、それが屋敷とどう関係あるのですか?」ヴィルさんは口をへの字に曲げている。


「わからん。ただ、屋敷が怪しいとしか言いようがない。四人で行って調べてきてもらいたい」

 陛下のお願いにヴィルさんは抵抗した。どうも「四人で」というのが気に入らないらしい。

「実家なのですから、私一人で十分でしょう」とプリプリしている。

「ダメだ。お前にまで何かあると私が困る」

「何かあると……って、何もないですよ!」

「わからんから言っておるのだ。内密に調べたい」

「ならば、リアは置いていきます」

「いや、リアと一緒に行け」

「はああ? なぜですか」

「リアには安全な場所でオーディンスと一緒に待機してもらい、お前に何かあった際は……」

「リアは救急箱ではありません!」

「お前のことを心配して言っておるのだ!」


 例によって二人は言い合いを始めた。「嫌だ」「言うことを聞け」とワンワンキャンキャン()えまくる。

 アレンさんは慣れた様子で

 見かねたくまんつ様が「お二人とも、女性の前ですからそのくらいで」と止めてくれた。


 どうやらわたしのお役目は救急箱のようだ。

 アレン師匠との自主トレのおかげで魔力操作にも慣れ、もう以前のような暴発はしない。魔素たっぷりのシンドリ茶(※魔素茶)も愛飲しており、治癒魔法を使える程度には魔力が回復していた。

 それに、ヴィルさんファンとして、実家は是非とも巡礼しておきたい聖地の一つだ。


「あのぅ、ヴィルさん?」

 おずおずと手を挙げた。

「わたしもご一緒したいです」

「リア、叔父上を甘やかさなくていい!」

「ヴィルさんの生家を見てみたいな~、なんて思っておりまして♪」


 陛下は優しげに目を細め、ニッコリと微笑んだ。

「クランツ、巻き込んですまないがヴィルの支援を頼む」

「はっ、御意のままに」

「オーディンス、引き続きリアを守ってくれ」

「命に代えましても」

 くまんつ様とアレンさんが答えると、ヴィルさんは頭を抱えてため息をついた。

「まったく、なんて過保護な叔父上だ!」

 異世界人のわたしから見ても、過保護はこの国の文化だ。


 わたしたちは早々に王宮を出ると、商人街で差し入れを買い、そこからヴィルさんの実家へと向かった。


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