爆弾発言
二人目の夫はアレンさんだと、根も葉もないうわさがひとり歩きをしている。
相手が誰であろうと二人も旦那さんを持つことは有り得ない。わたしに一妻多夫生活なんて無理だと思う。ここはきちんと否定しなくては。
ところが、ヴィルさんはわたしよりも先にこう言った。
「少なくても、あと二、三人は夫が欲しいですね」
は……?
スクナクテモ アト ニサンニン?
「欲しいですね」って、ヴィルさんが欲しいという意味?
はいぃぃぃーーッ???
夫は一人と約束したはず。大好きな人を選び、ようやく婚約をした。
『生命の宝珠』をたくさん作らなければならないので、それを成し得る旦那様であることも重要なポイントだった。
世の中に完璧な人などいない。彼の良いところ悪いところ全部ひっくるめて、良い人を選んだと思っていた。
なのに、まさか彼が別の夫を欲しがるなんて。この世界はどうなっているのだろうか。
「いや、ヴィルさん、何を……」
「例えばケンカになってしまったときにリアを慰めてくれたり、仕事で帰れない夜にリアが寂しがらないようにしてくれたり、俺がいない間にリアが何をしていたか教えてくれたり、リアの好きなものなどを情報共有してくれる同志は多いほどいい。アレンやクリスなら大歓迎」
こっ、こっ、こっ……(※ニワトリではない)この人は何を言っているのだろうか。
ケンカの仲直りや朝帰りのフォローはご自身でお願いしたい。
まさか彼は頻繁に朝帰りをするつもりなのだろうか? むしろそっちをやめてもらいたい。家に帰ってこない夫に妻が腹を立てるのは世界共通なのだから。
だ、誰か、誰か……宰相様っ、助けてください!
すがるように目配せをすると、フォルセティー宰相はニッコリと微笑んだ。
「最初にも申し上げましたが、やはり夫は二、三人は持たれたほうが良いですよね」
そうだった。一番最初に「二、三人」発言をしたのは、ほかでもない宰相だった。
ヴィルさんのせいで外堀が埋まりかけている(号泣)
人前で彼とケンカをするわけにはいかない。でも、この状況でなんと答えれば理解してもらえるのだろう。
取り急ぎ大雨洪水波浪警報を発令してもらったほうがいいかも知れない。感情がぶっ壊れて泣きそうだ。
「恐れながら陛下、リア様はそのようなことを望んでおられません」
アレンさんのスーパーアシストが発動した。
はっと隣を見ると、彼はこちらを見てわずかにうなずいた。
「大丈夫ですよ、お任せください」と言ってくれるときの落ち着いた表情だった。
アレンさん……。
う、うわーん、アレンさぁぁん。
ううっ、号泣してしまいそう。
ナイスフォローです。さすが隠れイケメンです。いつもありがとうございます。ステキすぎます。
しかし、ヴィルさんはまたもや指についたチョコをなめながら言った。
「俺はリアのかわいいところを話せる相手が欲しい。同じ立場でないと、ただの自慢話になってしまうだろう? お前はそれに適した人物だと思っているのだが」
うおー、ヴィルさんのワカランチン!
そんなものは胸の内に留めておくのが常識なのですよ。他人と話し合わなくてよいのですよーっ。
「それは団長の都合です。リア様の気持ちを優先してください」
神様、イケ仏様、アレン様。
わたしは生涯あなた様を拝んで生きてゆきます。格好良すぎです。
「なんだ? リアがそう言ったのではないのか?」と、陛下が怪訝そうな顔をしている。
「わ、わたしは何もお話ししていません。急にこんな話が飛び出して驚いています」
陛下のこめかみにお怒りマークが浮かび上がる。
「ヴィル、お前というやつは……!」
まったく、なんて婚約者だろう。
やはりあのナントカ伯令嬢(また忘れた)の淫乱発言なんて全然大したことなかった。夫を二、三人持てと言われることに比べたら、蚊に刺されたようなものだ。
「私は協力してリアを支えられたらと思っているだけですよ」
ヴィルさんがシレっと言う。
「今それを言うのは団長のワガママです」と、アレンさんが言い返した。もう本当にカッコイイ。
「お前はまたリアを振り回す気か!」
陛下はおかんむりだ。顔を真っ赤にして鼻を膨らませている。今にも頭から湯気が出そうだ。
対照的にアレンさんは涼しい顔でチョコをつまみ、ゆったりと珈琲を飲んでいた。こちらを見て「やはり美味ですねぇ」と目を細める余裕まである。
さすが十三億円の男……大物すぎる。
「私は彼女の長期的な幸せを考えて言っています。夫が一人では足りませんよ。足りるわけがないでしょう?」
「まだ婚約を発表したばかりなのですよ? もう少し自重してください」
「自重も何も、俺は彼女のために……」
「オーディンスの言うとおりだ! またリアの気持ちを無視しおって、このッ……」
陛下が噴火しそうだ。
すぐ近くに座っている宰相が軽く耳を押さえている。
隣からスッと腕が伸びてきて、アレンさんがわたしの両耳を手で優しく塞いだ。
「大ばか者ぉッッッ!!」
雷鳴のごとく、陛下の怒鳴り声が響く。
サロンの天井に描かれた金色の龍が驚いて落ちてくるのではないかと思うほどの音量だ。部屋のどこかがビィィーン……と鳴っていた。
陛下のお説教が始まると、宰相が部屋から逃がしてくれた。
わたしはアレンさんに手を引かれて馬車に向かい、ヴィルさんを置いてとっとと帰ったのだった。
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