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癒し効果

「さっき、とても重要なことをドサクサ紛れに言ってしまったので、改めて伝えておきたい」と、ヴィルさんが言った。


「はい、なんでしょう?」

「愛している」


 ぐはっ!


 ……わたしは一生こうやって彼に振り回され、フェロモンをぶっ掛けられながら生きていくのだろうか。

「わたしも愛しています」と、どうにか絞り出した。無性に恥ずかしい。

「うれしくてニヤけてしまう。格好悪いな」と、彼は口を押さえた。


「ついでに叔父上に自慢話もしよう」

「恥ずかしいので、ほどほどにしておいてくださいね」と言ったけれども、耳に入らなかったようだ。彼はそのまま支度部屋を出ていき、アレンさんたちに「リアを頼む」と言った。

 相変わらずせっかちな人だ。彼は従者を連れてサッサといなくなってしまった。


 一人になった支度部屋で吐息をついた。

「大丈夫ですか?」と、アレンさんが顔を出す。

「存分に苦情を言うそうです。陛下の前で」

「捕らえないのですか?」

「捕らえたら彼があっという間に殺してしまう気がして」

「……あなたはなぜそんなに冷静なのでしょうか」

「冷静というか、これは単に慣れかも知れませんねぇ」


 わたしはアレンさんに学生時代の話をした。

 仲間で集まるたびに問題を起こす変な女子がいた。

 彼女には目当ての男子がいて、呼ばれてもいないのに毎回どこかで聞きつけて強引に入り込んできた。

 目当ての男子がほかの女子と話しているだけで泣いて騒ぎ、髪を引っ張ったりするような、成人しているとは思えない困った人だった。

 半年にも満たない期間ではあったけれども、トラブルが絶えない濃厚な時間を過ごした。


「行動は違っていても、心理は彼女と同じでしょう? 成人女性の子どもっぽい癇癪(かんしゃく)

「それは好かれた男性も周りの人々も、大変な災難でしたね」

「あれに比べたら実害がないのでラクです。ひどい経験がこんなところで役立つとは思いませんでしたけれど」

「すべての経験は無駄にならないと言います」

「今日の経験もきっと何かの役に立つでしょう。頭に来たら粉雪を降らせるとかね?」

「はははっ、あれは簡単そうに見えて実はすごい技術を駆使しているのですよ?」

「フィデルさんは天才だって、彼も言っていました」


 笑いながらドレッサーに置いてあったグラスを取り、二人で支度部屋を出た。


 ふとアレンさんの手元を見ると、小粒のイチゴが山盛りになったお皿を持っていた。

 皆の所に戻りながら「イチゴが好きなのですか?」と聞くと、彼はニコリと笑顔を見せた。

「これは特別なイチゴなのですよ。今もらってきたところです」


 毎年この舞踏会の特別室にだけお目見えする特別なイチゴは、天人族の農家が魔法を使って生産した超高級品らしい。

「さすがのリア様でも、これはめったに口に入りません。大抵、陛下が贈答品として国外へ出してしまいますから」

「外交用ですか? それにしては意外と小粒なのですねぇ?」

「最初は握りこぶしほどの大きさらしいのですが、魔法で処理している間に縮んで最終形はこうなるそうです」

「ぎゅっと濃縮した感じなのでしょうか……楽しみです♪」


 わたしたちのために用意されていた特別室は、自宅にあるサロンを小ぶりにしたような感じだった。大勢で座っておしゃべりができるようソファーやリビングチェアがたくさんある。

 くまんつ様は三人がけのソファーに一人で座っており、その周りを囲むように護衛や侍女が座って話をしていた。

 わたしを見ると皆があいさつしようと一斉に立ち上がるので、慌ててそれを制止した。

「そんなことしなくてよいのですよ。座ってくださいっ」


 くまんつ様の近くのソファーに腰を下ろし、アレンさんが隣に座った。

 ふと向かいにいる侍女長の顔を見ると「聞いていただきたいことはすべて聞いていただけました」とでも言いたそうな、スッキリした顔をしている。

 イルサもいつものホンワリしたかわいいご令嬢に戻っていた。

 フィデルさんの頭上に居座っていた雪雲は消えていたし、マークさんもカタギの硬派イケメンに戻っている。


 さすがだ……。

 くまんつ様のデトックス&癒し効果は素晴らしい。


「巻き込んですみません。皆の愚痴を聞いていただいたみたいで、ありがとうございます」

「とんでもない。こちらこそ大変な時におそばにいられず申し訳ありませんでした」

 ヴィルさんが家族にしか懐かないオレサマ柴犬なら、くまんつ様は世界に優しいゴールデンレトリーバーだ。アレンさんは言うまでもなくドーベルマン(笑)


 身内しかいないので、くまんつ様にも気楽に過ごしていただくようお願いした。

 晩餐会、ダンス、地獄の砂漠に三角コーンの暴走と、いろいろあり過ぎて、わたしもこれ以上はがんばれない。

 くまんつ様に癒されたい……。

 そんなことを考えていたら、横からにょきっとイチゴが出てきた。


「ん?」

「リア様、あーん」

 アレンさんが小さなフォークに刺したイチゴを出し、口を開けろと言っている。

 先ほどアレンさんの口から、突如「イチゴを食べさせたい」という話が飛び出したのはこの特別なイチゴが理由のようだ。

「あーん」で彼の闘病中を思い出し、思わず笑いがこぼれた。


アレンさんはリア様が何かいけないことをしたときに「お膝の刑」をしようと心に決めています(ただイチャイチャしたいだけ)

いつもお読み頂きありがとうございますm(_ _)m


活動状況は下記のURLで発信しております。

https://note.com/mutsukihamu

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