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大噴火

 サロンの外がざわついたと思ったら、ヴィルさんが息を切らして入ってきた。どうやら馬止めから走ってきたようだ。

 皆が一斉に立ち上がったので、わたしもゆっくりと立った。


「リア! 避難するぞ!」

「あ、いいえ、大丈夫です。わたしはここに残ります」


 わたしの返事が予想外だったのか、彼は一瞬キョトンとした顔をした。そして、黒板の前に集まって会議をしている様子を見て、「ここで何をしている」と言った。


「作戦会議ですねぇ」

「何の!」

「アレンさんを元気にするための?」

「何を言っている。アレンは、もう……」

「彼は助かります。皆で助けます」

「気持ちは分かるが、ヘルグリン病では治療が受けられない」

「今、わたしが上位浄化をできないかと話していたところです」


 ヴィルさんは「上位浄化……」と言って固まってしまった。カチコチのイケメンになってしまっている。

 もしもーし、大丈夫でしょうか?


「リア様なら適性を持っている可能性が高い」


 フィデルさんが補足するように言うと、彼の顔色が見る見る変わった。上からザーッと青ざめた後、今度は下からグワーッと真っ赤になった。

 ……なんか、怒っている、かも? と思った瞬間、彼の手がわたしの肩を強く掴んだ。


「きゃっ」


 力が強い。ちょっと痛い。

 何? わたし、何か変なことを言いました??


「魔法はダメだ。いいか、神薙は魔法なんか使わない」


 彼は悪いことをした子どもに言い聞かせるような口調で言った。

 わたしが戸惑っていると、フィデルさんが彼に離れるよう促してくれた。しかし、彼は離れてくれない。


 神薙は魔法なんか使わないと言っても、魔力があるのだもの。魔力というのは、魔法を使うためにあるのでしょう? なのに使わないというのは、どういうこと?


「どうしてですか? わたしは高魔力者なのでしょう??」

「それとこれは話が別だ。魔法は駄目だ」


 どうも彼の言うことが要領を得ない。

 どう別なのか、何がいけないのか、全然分からないのですが、わたしがバカなのかな?


「ええと……なぜ駄目なのですか?」

「リア、頼むから魔法はやめてくれ」

「あ、では、ヴィルさんがアレンさんの浄化をしてくださいますか? 上位浄化なら治るかもと本に書いてあって」

「俺に上位浄化はできない」

「あ、そう、なのですね。えーと……」


 天人族には『魔法属性』と呼ばれる適性のようなものがあり、それに合う魔法しか使いこなせないそうだ。高魔力者であっても、上位浄化と同じ属性を持っていないとダメなのだとか。

 フィデルさんいわく、異世界から来たわたしは『色んな意味で型破り』なので、できるか試してみる価値があるとのことだった。これはマークさんも同じ意見だった。しかし、それをここで口に出すと、ヴィルさんがもっとピリピリしそうなので少し様子を見ることにした。


「上位浄化という魔法があるのは確かなのですか?」

「それは間違いない。歴史を紐解けば何度も出てくる魔法だ」

「では、上位浄化を使っている人を見たことは?」

「いや、ない……」


 できる人なんていないのでは? という疑惑はますます濃厚になりつつあるものの、わずかでも可能性があるならば、それに懸けたい。


「魔法を教えてくださる方を紹介して頂けないでしょうか」

「リア、俺を困らせないでくれ」

「どうしてヴィルさんが困るのですか?」

「それは……今は関係ないし言う必要はない」

「アレンさんの命よりも大事な理由ですか?」

「リア、ヘルグリン病は助からない。死の病だ」

「わたしは治ると思います」

「何を根拠に……」

「死の病だと断言するだけの根拠がないからです。回復している例があります。致死率が百パーセントではないものを死の病などと呼ぶべきではありません」

「しかし、大勢が死んでいるだろう」


 肩に置かれた彼の手が、妙にずっしりと重く感じる。彼がアレンさんを見捨てて逃げようとしている事実が切なくて悲しい。


「病人を放って逃げるから亡くなっているのでしょう? 放っておかれたら力尽きるに決まっているではありませんか。家に監禁された状態で家族に逃げられて亡くなっていく人の無念を想像したことがないのですか?」

「それは……」

「なぜブロックル先生を寄越してくださらないのですか? 一度でもヘルグリン病患者に対して手を尽くしてみたことがあるのですか?」

「リア……」

「この宮殿の皆は『逃げて良い』と言っても誰一人ここを出ませんでした。皆、アレンさんを助けたい一心で残ってくれています。わたし達は諦めずに手を尽くそうとしています」


 周りは時折頷いたりしながら、固唾を飲んでわたし達のやり取りを聞いていた。

 アレンさんは従業員の男性達からとても信頼されている。女子達は漏れなく彼が長細い岩に見えるらしいけれど「この国で最もリア様に忠実な岩」だと言っている(ミストさん談)

 誰もが当たり前のように「助けたい」と言ってくれた。


「頼む。魔法はダメだ」

「なぜですか? わたしでは役不足ですか?」

「なぜそんなに分からないことを言う」

「分かりたくて先程から何度も理由を聞いています。わたしを無視して、頭ごなしにダメだと言わないでください。分かるように話して頂けませんか? なんでも話し合おうと約束したでしょう?」


 ヴィルさんはイラついた様子だったけれど、わたしはお天気問題があるのでカッカするわけには行かない。

 とにかく冷静に冷静に……いつもどおり話していた。

 ところが、ヴィルさんは何かの頂点に達したようだ。


「ダメだと言っているだろう!!」


 彼の大きな声に、部屋にいた皆の体がビクリとした。

 感情的になって大声を張り上げるなんてヴィルさんらしくない。一体どうしちゃったのだろう……。


「よせ! 誰に向かってそんな大声を出している!」


 すかさずフィデルさんが間に入り、彼の肩を強く掴んで押し戻した。

「フィデル、頼む。リアを止めてくれ」と、彼は苦しげに言った。


「お前の事情は察した。しかし、リア様の可能性に賭けたいというのが総意だ。アレンの命と何を天秤にかけているか分かっているのか? 大事な友を見殺しにする気か? 頭を冷やせ! 今、リア様が何を守ろうとしているのか考えろ! あいつはお前の代理で王宮へ行ったために感染したのだぞ!」


 フィデルさんの話の内容から察するに、ヴィルさんが反対している理由は、アレンさんの命ほど大事な事情ではなさそうだった。


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