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出オチ

 「ヨォ」と、後ろから男の声がした。


 振り返ったらメガネ岩が立っていた。

 久々の出オチだ。


「知り合いってオーディンス様ですか? というか、そのメガネをかけて私の背後に立つのはやめて頂けませんか」

「俺も好きでかけているわけではない。色々と大変なのだ。というか普通に喋れ。お前の敬語は怖い」

「優しくしているのに怖いはひどいな」

「はははっ」


 彼がメガネを外すと、例によって王子様顔が出てきた。

 私もそこそこ面食いではあるが、これがタイプかと聞かれるとそうではない。

 金髪の王甥の顔は好きだが、人の話を聞かない時点で性格が嫌いだ。

 やはり昔の黒いカールが一番だ。黒いカールは格好良かった。


「任務でここに?」

「ああ。今日は非番だから団長が来るまでの間、案内してやる」

「それはご親切にどうも」

「先に知り合いのところへ行こう」

「え? まだいるの? 誰?」

「行けば分かる」


 案内されたのは畑だった。

 なんで畑に知り合いがいるんだよ、と思ったら本当にいた。

 長靴を履いて手袋をして、土だらけでノシノシ歩く男が「おお、来たのか」と言った。


「ヘルマン!」

「よぉよぉよぉ、ミストぉ、元気だったか?」

「元気だったかじゃないよ。どこの任務に行ったのかも分からないままで!」


 音信不通の筆頭みたいなヘルマンがそこにいた。

 彼とはずっと一緒に活動していたが、あるとき急に姿を消し、噂も聞かなくなっていた。


「何してるの、その格好」

「現在の職業は、ここの庭師長だ」

「庭師? ……あんたが土いじり? なんで?」


 有り得ない。殺し屋が庭師をやっている。

 頭がおかしくなったのかと思ったら、彼は褒賞としてここに来たと言った。

 褒賞で特務師以外の仕事をもらうなんて聞いたことがない。

 しかし、多分ほかにもそういう例はあるのだろう。皆、誰にも言わずに音信不通になって、そのままいなくなっているに違いない。


 ヘルマンと簡単な近況報告をした。

 彼の言葉が足りないところはメガネが補足をしてくれた。

 「これから時間はいくらでもある。またゆっくり話そうや」と、ヘルマンは言った。

 まだまだ話し足りないが、ここは使用人同士が自由に話せる環境らしい。


 「師匠みたいなものらしいな」と、メガネが言った。

 「ヘルマンには色々教わった。師匠というより近所のおじさんに近いけど」と、私は答えた。


 彼は殺し専門の特務師であること以外はごく普通のおじさんで、親切な人物だった。聞けば何でも教えてくれた。


「彼は面倒見がいい。ここでも良い相談相手になるだろう。部下も丸ごと庭師だ。まあ、庭師というか庭番衆だな。普段はただの庭師だが、庭をいじりながらこの屋敷の主を守っている」

「ここって誰のお屋敷なの?」


 私の素朴な質問に、メガネはひくりと顔を引きつらせた。


「まさかとは思うが、何も聞かされずに連れて来られたのか?」

「要人だと聞いただけ」

「マジか……。昔の奴隷じゃないんだぞ」

「一方的で詳しいことを教えてくれなくてさ」

「もしかして、金髪で空気読めなくて偉そうな王甥か?」

「……なにげにすごい不敬ぶちかましてるけど大丈夫?」

「直属の上司で古い友人だ。彼は周りへの配慮がいつも少し足りない。だいぶ足りない。いや猛烈に足りない」

「木になったつもりで話を聞いたよ。あとで誰かに聞くしかないなーと思って」

「正解だな。俺はいつも仕事に支障がありすぎてクソヤロウと言ってしまう」

「前から思ってたんだけど、実は口悪いよね」

「良く言われる」


 メガネはふっと笑うと「ここは神薙の屋敷だ」と言った。

 神薙と言えば生き神だ。

 私の新しい任務は、要人警護ではなくて神様警護だった。


「なんで私なんだろう……何かの間違いじゃない?」

「女性の特務師を探していた。それで俺がお前の名を出した」

「長期の仕事云々って話は意思確認だったってこと?」

「そう。で、お前に俺の代わりを頼みたい」

「天人族で侯爵嫡男の代わりなんて無理です」


 メガネが無茶なことを言った。

 魔力を持つ天人族の代わりを、私なんぞが務められるわけがない。


「俺の手の届かない場所がある。どうしてもそこに立ち入れない」

「なんで?」

「男子禁制と言われてしまった」

「あらまぁ……女装してもダメだって?」

「検討はしたぞ一応。この肩幅をどうごまかすか、とか」

「マジで?」

「しかし、こんなデカい女性はいないという結論に至り……」

「ぶっ、はははははっ!」


 王国の超エリート騎士様も、男子禁制の場所では手も足も出ないようだ。何度か中に入れて欲しいと交渉したらしいが、すべて失敗に終わったらしい。


「お前に頼みたいことが二つある」

「うん」

「まず、神薙が男を追い出した場所で何をしているのかが知りたい。本人は会議をしていると言っているが、その内容が分からない。俺がそれを知りたい理由は、危険が伴うかどうかの判断をしたいからだ」

「分かった。もう一つは?」

「会議に外部の人間が入っている。ヒト族の女が二人だ。そいつらが妙な動きをしたら」

「殺ればいい?」

「いや、神薙の前で生命のあるものを傷つけるな。草も花もだ」

「へえ?」

「警護の都合上、武力行使が必要な場合は当然ある。規則上は容認される。しかし、必要最小限に抑えろ。やるにしても神薙から見えない場所でやれ」


 ふむ……

 どうやら新しい主は慈悲深いお方のようだ。

 やっぱり神様だから?


「それって、悪者は物陰でボコれってこと?」

「得意だろ?」

「まあね、一応専門家なんで」

「俺も得意だ」

「でしょうねぇ」

「俺が入れない場所で、俺の代わりに彼女を守って欲しい」

「わかった。敵の想定がヒト族なら問題ない」

「守るというのは、物理的なことだけを言っているのではない」

「精神的な話? でも、神様の考えていることなんて……」

「お前なら彼女の気持ちが分かる」

「……どういう意味?」

「お前が戦に何もかも奪われたように、彼女はこの国にすべてを奪われた」


 私は首を傾げた。

 神様というのは何もかもを持っていて、何不自由なく暮らしている人かと思っていた。


「彼女は拉致されてここに来ている。人生を台無しにされたうえに、ここで生きていくため天人族との結婚を半ば強要されている。これ以上傷つけたくない」

「それって……」

「お前に話せるのはこれが限界だ。これでも少々マズいというか、完全に喋りすぎている」

「激ヤバな話をどうも……」

「この間、お前の激ヤバな話を聞いたからな」

「なるほどね」

「今の話は副団長以上しか知らない。ただ、お前には知っておいてほしい」

「なんで?」

「彼女の微笑みの重みが分かる者で周りを固めておきたい」

「へえ」


 メガネの話を反芻した。


 拉致された挙げ句、結婚しろなんて。

 私だったら発狂している。


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