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お許し

 ユミールさんを庇いたいのか、ヴィルさんは彼の隣、つまりわたしの正面に座った。

 「お隣にいてくださらないの?」と思ったけれども、ヴィルさんがそういうつもりなら、わたしは絶対的な味方を隣に置くだけだ。

 ソファーの隣の座面に軽く触れ、アレンさんに座ってもらうよう促した。

 彼も何か言いたげな顔をしていたけれど、言葉を飲み込むように「ん……」と頷いて腰かけた。


 ユミールさんはヴィルさんサポートのもと、王都での住まいを整え、長らく会えなかったご家族との対面も果たしたようだ。

 長距離を移動して、さぞ大変だっただろう。しかし疲れた様子もなく、穏やかな微笑みを浮かべていた。そればかりか、山の中での不便な暮らしをネタに冗談を言う余裕すらあった。


「今後は王都でどのような研究をされるのですか?」と尋ねると、少し困ったように「いや……それは……」と口ごもる。

 ユミールさんはヴィルさんの様子を窺うように視線を逸らした。

 ヴィルさんのほうも、なんとなく答えに困っている様子だ。


「彼の今後の活動については、リアのお許しが出るかどうか、というところだ」

「わたしの許し? どうしてですか?」

「彼はもともと魔導効率、つまり少ない魔力で大きな効果を出す魔法の研究が専門だから、当面は騎士団で指導を頼もうかと思っている、の、だ、が……」

「はい??」


 騎士団で教えることに対してわたしの許可は必要ない。

 この宮殿の外で行われている訓練は「物言わぬ鬼」と呼ばれている短髪の超硬派マーク・マーリス副団長が管理している。わたしは団員の皆が鬼にしごかれたと愚痴るのを「ほむほむ、大変でしたねぇ」と聞いてあげる係であって、何の権限も持ち合わせていないのだ。


「ヴィルが研究所を立ち上げてはどうかと言ってくれているのですが、小規模とは言え、魔導師団に似たような組織を作ることになるものですから……」と、ユミールさんは申し訳なさそうに言った。


 はっは~ん。なるほど。

 問題を起こした魔導師団と似たような組織を作る。しかし、被害者である神薙の許可なしに立ち上げたとあっては、また問題になるかも知れないし、世間の風当たりも冷たいということですねぇ?


「リア、前にも話したが、奴らのような組織にはさせない。本当に研究を目的とした『王立魔導研究所』という組織になる予定だ」

 空気を読んだヴィルさんが慌ててフォローを入れた。


「その研究所は、神薙を召喚する権限も持つのですか?」と、アレンさんが確認してくれた。

「いいや、持たない。その権限だけは絶対に持たせない」

「そのほうが良いですね」

「今後、召喚は王家でやることにした」

「なるほど」

 アレンさんはわたしのほうを見て頷いた。超スーパーアシストだ。


「俺はユミールに神薙の力についての研究も進めてほしいと思っている。リアさえ協力してくれれば、それができる」

「具体的にどんなことをするのですか?」と訊いた。


「例えば『花の香り』について調べるとしよう。俺がユミールに情報提供することを許可してくれるだけでも、それは十分な協力になる。あと、たまに彼の質問に答えてくれたなら、もう完璧だ」


 あの変態軍団の再来にならないのなら全然構わない。

 この国の魔力は、前の世界の電力に相当する重要なエネルギー源でもあるので、研究が進むことは良いことだ。それに天人族の人口が急激に増えるわけでもないので、魔力効率を研究することも大事だろう。もちろん、わたしのワカランチンな神薙パワーについても何か教えてくださるのなら助かる。


「では、時々こうして皆で一緒にお茶を頂くというのは? 質問にもお答えできますし、情報提供もできますし」


 ヴィルさんは「それは最高の提案だ」と言った。

 彼は今日のノルマは果たせたとばかりにフゥと吐息をつき、ユミールさんと握手を交わしていた。


 場が和やかになったこのタイミングで、わたしの心の中でグズグズしている思いを口にしても大丈夫だろうか、と思案した。

 初対面で失礼かな、やめたほうがいいかな……と、指をこねこね、もじもじする。しかし、どうしても気にかかる。次に会ったときでも良いけれども、やはりできるなら早いうちがいい。

 少々迷った末、勇気を出して切り出すことにした。


「あのぅ、わたしからもユミールさんにお聞きしたいことが……」


 彼は優しい口調で「なんなりと」と言ってくれた。本当に物腰が柔らかで美しい人だ。「たおやか」という言葉は、彼のためにあるような言葉だ。お転婆にはムリかも知れないけれども、生まれ変わったらわたしもこんな感じの人になりたい。


 ヴィルさんはキリリとした顔で「遠慮なく何でも聞いてくれ」と言った。

 隣をチラリと見ると、アレンさんだけは少し複雑な表情で「何を言う気だ」とでも言いたげな顔をしていた。

 一緒にいる時間が長いせいか、彼にはわたしの頭の中がまるっとバレている気がする。監視カメラのようにこちらを見ているので、わたしの視線の先を読んでいる可能性もあった。

 彼は微妙な表情のまま、小声で「どうぞ?」と言った。

 よし、聞いてしまおう。もし叱られたら謝ろう。


「初対面で不躾なことをお聞きして大変恐縮なのですが」

「はい」

「そのぅ……」

「お気遣いなく、なんなりとどうぞ」

「か……髪のお手入れはどのように?」


 ヴィルさんとユミールさんが、ズコーッとソファーからずり落ちた。

 アレンさんは項垂れて「やはりそう来ましたか」と言った。


「ご、ごめんなさ……」

「さっきから彼の髪ばかり見ていて、おかしいと思っていました」

「だ、だって、だって、あんなに綺麗だからっ」

「二人は大変な覚悟であなたに研究所の話を切り出したのですよ?」

「だから聞きづらかったのです~」


 やっぱり叱られた(笑)

 結局、その場で答えは聞けなかったものの、ユミールさんは帰り際にコソッと魔法植物成分配合のおすすめシャンプー情報を耳打ちしてくれた(いい人です♪)


 翌週の新聞で、王立魔導研究所の発足と研究員の募集が発表になった。所長はユミールさんだ。不正防止のため、ヴィルさんを含む数名の騎士団長が監査役に就任するとも伝えられた。

 ヴィルさんは満足そうだった。

 わたしと侍女三人組も、ユミールさんに負けないくらい髪が艶々になっていて満足だった(ふぉふぉふぉ♪)


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