魔王は賢者を仲間にしたい
魔王が着替えている間さっき取ってきたウサギをクソメイドに渡す。嫌そうな顔をしそうな物だが意外と普通に受け取ってくれた。
ただウサ耳を掴んで厨房に歩いて行くのはやめて欲しい。
ふとクソメイドが振り返って、「血抜きをしたのは感心だな。よくやった」と言って去っていった。
「アイツ……変なものでも食ったのか?槍でも降るんじゃないか?」
ドMと言うわけではないがアイツが褒めると変な感じだ。
「んで?あの鳥人間どもは何だったのか教えてくれるんだよな?」
円形の大テーブルに座って昼飯を食べながら俺は魔王に質問する。
服を着替えた……いや同じ服だな、何着あるんだ?
まぁそれは良いとして。魔王はクソメイドを横に侍らせ反対側に座って食べながら話し始めた。
「アレは獣王の手下だな。ん、うまい。おおかた勇者の召喚に合わせて偵察しに来たのだろう」
「俺に?」
「うむ。魔界では四方魔王達がお互いに睨みを利かせて均衡が保たれていた訳だが」
「勇者が現れれば魔界が揺れる、か」
確かに人間側に呼ばれていて魔王を倒してくれと言われたら……………いや、倒しに行かないで異世界満喫しに行く気がする。
とはいえ相手側は攻めてくると思うよな。
「だが、勇者はこの手にある。背後から刺されるような事にはならん」
「ちなみに魔王の中で一番強いのは誰なんだ?」
「勿論、我……と言いたいが北の魔王【龍王】だろうな」
獣王じゃないのか。どうやっても獣止まりってことか。
「龍王は北の領土から出てこないから気にしなくても良い。問題は獣王だ。国柄というか、喧嘩っ早い種族でな〜〜脳筋というか何というか」
「ストッパーが無くなったからすぐに攻めてくるかもってことか」
確かにそれは怖い。
アレが偵察隊、しかも相手は国を作ってるとなると戦力の次元が違う。だってこっち二人しかいないし?
俺?役に立たないって。多分あの偵察にも負けるね。
「そんで魔王様の次の目標は?」
「仲間を集めるぞ!既に手は打ってある」
意外。
俺がウサギ狩りしている間に何してんのかと思ったら仕事してたのか。
魔王の自信満々な顔を見て余程いいリクルートが見つかったんだろう。
「こちらが今朝届きました」とクソメイドが書状を魔王に渡していた。
書状を受け取った魔王は次第に目が泳が始める。それはもう盛大に。
「あ〜何となく察したがどうした」
「べ、別に大したことないぞ?」
魔王の慌てよう、絶対に何かあったな。一体どこに送ったんだ。
「魔王様はエルフに書状を書き、見事に惨敗したのだ。もっと言えばドワーフ、小人などにも送ったが相手にされなかった。魔王様、今更隠す必要もないでしょうに」
主人の秘密をバラす従者は良いのか?コイツ意外と魔王に敬意とかないよな。
「皆揃って【負け戦に挑む事はできない】しか言わん!父上の恩を忘れよって〜!」
(いやぁ流石に誰も協力とかしにくいだろ)
「もっとお前自身の知り合いはいないのか?流石に恩だけで動くには戦力が足りな過ぎるぞ」
「それでいるなら苦労は」
「アンドラス様は如何でしょうか。あの方ならもしかしたら話を聞き入れてくれるかもしれません」
「確かにな、アンドラスは父上の側近だった男。奴ならば必ず役にたつ!今、使い魔で連絡するのは獣王に勘付かれる。我自ら向かうしかないな」
何やらアテがありそうな雰囲気がしてきた。だが、一つだけ気になることがある。
「そいつどこに居るんだ?城を放置したらそれこそヤバいと思うんだが」
「問題ない。城には結界がある。そう簡単に壊れる代物ではないからな」
「母上が張った結界だ。獣王の攻撃も弾くだろう。問題ない、今夜出発するから準備しておけ」
「気持ちいい〜!さいっこう!」
「暴れるな、落とすぞ」
魔王の案内の元、俺は今、空を飛んでいる!
なぜ夜出発なのか、それは魔王とクソメイドの種族が【吸血鬼】だったからだ。
何でも夜ならば闇に溶けるように隠密移動が可能だとか。
コウモリのような羽根をはためかせクソメイドに掴まれる形で俺たちは東に飛ぶ。
「なぁそのアンドラスって奴も吸血鬼なのか?」
「そうだ、大魔王様が魔王になる前から支えてきた古株だ。大魔王様の統治していた時代には参謀として活躍されていた」
そんな奴も離れて行ったんだろ?余程人望がないな、うちの魔王様は。
しばらく飛ぶと屋敷が見えてきた。
ここが大魔王の参謀の家、か。大物の家にしては装飾は豪華でないし思ったより広そうでもない。補修に手の回らない魔王城じゃあるまいし。
「何用だ、大魔王の愛子よ」
「「「!?」」」
何もない空間から声が聞こえてきたと思ったら突然老齢の男が現れた。雰囲気でわかった、コイツがアンドラスだ。
「勇者が召喚されたのはお前も感じているはずだ。我は父上の成し遂げられなかったことを成し遂げたい。手を貸してくれアンドラス」
魔王は手を出して返答を待つ。
だが、
「断る。亡き大魔王様に忠義は尽くしているが貴方には何の思い入れもない。まして忌々しい血も流れるような者にはな。立ち去るが良い」
「ッ……………」
地雷でも踏まれたのか魔王は顔を強張らせて俯く。
「アンドラスだっけか。どうしてだ?大事な奴の娘、それだけでも気にかける価値はあるんじゃないのか?」
「勇者か。魔王と勇者が共にいるとは驚いた。我ら吸血鬼は血こそが重要とされる。そこの娘はあろうことか人間の血が流れている。これで良いか」
は?コイツが大魔王と人間の娘ぇ!?
マジかぁ〜そりゃヘイトも高いよなぁ。
「魔王、ここは引くぞ」
「待て、待ってシキッ我はもうここにしかッ」
「大丈夫、何とかなる方法を見つけた。クソメイド、頼めるか?」
暴れる魔王を抱えて俺は屋敷の窓を見て屋敷から飛び去った。