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魔王が魔王である理由

「イデデデッ!?」

「勇者だろう?少しくらい乱暴に扱っても死なないよな?」


 ウサギとの死闘を繰り広げた俺は迎えにきたクソメイドに担がれて魔王城裏門まで運ばれてきた。が、物凄く穴に響く移動の荒さだった。

 

 そのまま俺の部屋に運ばれて寝かされる訳もなく。


「はうっ!?もう少し配慮ってもんを……身体中に穴空いてる怪我人投げるかフツー」

「怪我人は黙って寝てろ」


 担がれていた俺を雑にベットに投げ飛ばしたクソメイドは何やらポケットを某猫型ロボットのように探り始めた。そして、お目当てのものが見つかったのだろう。動かしていた手を止めて何やら紫色の液体の入った瓶を取り出した。

 毒だ、毒に決まってる。髑髏マークこそないがあの色は人体に悪影響しか及ぼさない物の色だ。

 それの蓋を開けクソメイドはこともあろうに俺の口まで運んできた。

 飲みまいと口を窄めて抵抗………など死にていの身体で敵うはずもなく瓶ごと口の中に押し込められた。


「ぷはっ何すんだ死にかけたぞ!?」

「回復薬で死ぬ奴とかいるわけないだろ」

「回復薬……?アレが?」


 確かによく見ると身体に開いていた穴が無くなっていて細かい傷も綺麗さっぱり消え去っていた。


「あ〜その、ありがとう?助かった」

「礼とか要らない、在庫処理だからな」


 在庫処理の意味はよくわからなかったがあのままだと死んでたから迎えにきてくれたのは本当に助かった。取り敢えず物凄く眠いので寝ることにする。おそらく血を流し過ぎて貧血になってるんだと思う。


 次に目が覚めると外は既に真っ暗だった。

目が冴えてしまって寝付けないので少し歩き回ることにした。

 相変わらずボロボロで廃墟に近い様相の城だがよく見ると蜘蛛の巣などは見つからない。なんて言えば良いのか……リフォームしたくても出来ないからせめて掃除だけでもって感じだ。

 

 歩き回っていると小さな庭のような場所を見つけた。ガーデニングとかそう言った装飾も無い本当にただの庭。強いて言うなら空から月の光で照らされて綺麗だなくらい。


 そんな庭に人影を見つけた。月明かりに照らされキラキラと輝く長い黒髪、黒い露出の高い服。

 魔王だ。


 魔王は俺が近づいてきたことに気がついたのか振り返って話しかけてきた。


「シキか。ウサギごときに死にかけたそうだな」

「ウサギじゃねぇだろアレは。で、お前はここで何してんだ?」

「墓参りだ。父上と母上のな」


 魔王の両親。つまり先代の魔王か。魔王の奥には確かに二つ寄り添うように置かれた石があった。もっとも墓石なんて物では無いが。


 ちょうどクソメイドが居ない。ならば聞きたかったことを今聞くのは無粋だろうか。


「なぁ、魔王はなんで魔王やってんだ?」

「なぜ、か……」


 魔王は少し悩んだ後に話はじめた。


「父上の跡を継ぐという気持ちもないわけでは無い。ただ、この地位に固執しているわけでも無いのだ」


 魔王を辞めても良いと考えてるのか?そもそも仕事のように辞められるのかは謎だが。


「だが、我の目的のためには魔王であることが重要なのだ」

「目的って世界征服でもしようってのか」


 世界の半分でもくれてやろうとか言い出すんじゃないかとワクワクしながら俺は魔王の言葉を聞く。


「それも良い。だが、支配などでは意味がない。我は人間が好きだ。魔族が好きだこの世界が好きだ。だから魔族と人間が共存する世界にしたいと思っている」


 少し恥ずかしそうにだが、はっきりとした覚悟を持った言葉で答えた。でも、そんな事は可能だと思えない。

 みんなで手を繋いで仲良く、なんて出来るわけがない。そんな事はゲームの世界くらいの話だ。


「シキにはまだ話していなかったがこの魔界には我以外に魔王が四人いる。我らがいるのが魔界の中心、その四方にそれぞれ領地を持ってな」


 それは初耳だ。で?そいつらぶっ飛ばせば解決なのか?


「魔王が魔王たる証、【魔王の王座】。それを所有する魔王たちはここにある【大魔王の玉座】を求めている。それぞれにはなんの効果もないが全ての証を集めたものは魔族への絶対命令権が与えられるのだ。我は大魔王となり人間との和平交渉をする」


 つまり、魔王から大魔王にジョブチェンジして魔族に対する抑止力を持って世界平和を目指すってか。お偉い事だが上手くいくのか?

 第一他の魔王が大人しく王座を明け渡すとは思えない。負け戦に巻き込まれるのはごめんだな。


「そうか、なら俺も手伝うよ」

「そうか!そう言ってもらえて我は嬉しいぞ!」


 子供みたいに笑う魔王に少しの罪悪感を覚えながらどうやって泥舟から脱出するか考える。

 魔王と話してボロが出てもいけないと思い庭から出て廊下を歩いていると視界が急に切り替わった。

 辺りを見渡すと先ほどの庭だ。


「まぁ待て待て。もう少し話をしようではないか〜」


 上機嫌の魔王が隣にいた。

 確実に俺は庭から出た。だが現に俺は庭にいる。つまり、


「お前、何した……?」

「我限定ではあるがシキを呼び出せるのだ!【魔王からは逃げられない】ぞ?」



 俺はこの魔王に首輪をつけられていた……らしい。


 




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