死闘から見出す死線
「こんな事なら魔剣とか凄そうな装備ねだるんだったッ」
落ち着いて自分を倒す算段を考える暇すら与えないと言わんばかりにウサギは再び俺に狙いを定めて突進してくる。
ここが開けた平原とかでなくて良かったと心から思う。何とか木を盾にして視界を遮断してギリギリ避けられるから。
白い槍はそんな俺の考えすらお見通しだった。回転した体をまるでドリルのように木に突撃して風穴を開け自分の身体くらいある木を折って見せた。
「マジか、コイツ!」
狙いをつけられないよう横に移動しながらどうしたらコイツを倒せるのか考える。
一つ、時間切れを狙う。
血を流しながら凄い運動をしまくってるウサギは大量出血で死ぬのか。おそらくNO。あんなに回転してるのに血を撒き散らしてないから止血されてしまったと考えるのが妥当。
二つ、この解体ナイフでどうにかする。
ボロ剣は次使ったら折れる。そもそも剣の役目を果たせるのかすら疑問だ。ウサギに攻撃を当てられたところでその瞬間に折れたらカウンターで死ぬ。
三つ、魔法的な何かで倒す。
魔法の使い方を知らないから却下。
「あぁ〜もう!八方塞がりかよ!何かないか何か!」
(異世界ならスキルとか魔法とかありそうなもんだが……そうだまだ定番のやつ言ってなかった)
「ステータス!」
俺の声に反応して正面に透明な画面が現れた。それはゲームで見たことのあるものだった。
識 長十郎
勇者
【スキル】
スキルの文字が見えた瞬間、俺の視界は真っ暗になった。精神的にではなく物理的に。
ウサギから目を離しすぎたのだ。
「〜〜〜〜ッ」
声にもならない悲鳴を放ちながらのたうち回る。幸いツノは身体に刺さらなかった。木を貫通してきた奴の体が腹に直撃し、俺は吹っ飛ばされたらしい。
ウサギは再度突進するために前傾姿勢になって自身を装填する。激鉄が弾かれて発射されるまでもう数秒。
痛む腹、霞む視界、動かない手足。
その全てがもうお前はここまでだと告げてくる。
心の中にいる屍人のような俺が「もう諦めろ」と語りかけてくる。
だけど。
諦めてたまるか。
きっと魔王は俺が死にかけたら自分だけ契約を解除して助かるだろう。クソメイドはやはり俺を見て笑うだろう。
でも、まだ死んでいない。まだ生きてる。
諦めて死んだように生きてきた人生とはもうおさらばだ。
俺は強欲に全てを手に入れる!
「ずでー…だ…ず…」
上手く呼吸すらおぼつかない喉で精一杯言葉を搾り出し、スキルを確認。そして、勝機は正気ではない方法でしかないことで見出せる事を知った。
「キュキュキュ……ギュァッ!!」
止めと言わんばかりに最高最大の威力の突進を繰り出してきたウサギを俺は一瞬も見逃さないように目を見開く。
《《さっきよりよく見える》》視界で俺は自分の腕を前に出してクロスさせる。その腕にツノが刺さった瞬間左肩に引っ張る。
(奴の体は軽い!それに空中なら簡単に誘導くらいできるッ)
腕2本と左肩を貫かれブラックアウトしかける意識を何とか保ちながら解体用ナイフを右手に握りしめウサギの首に突き立てた。
(《《スキル》》が言うには回復なんてされてないッ筋肉で無理やり止めているだけ、しかも今奴は狙いをずらされて驚いている状態……なら傷口の筋肉も緩むだろッ)
真っ赤な血華を咲かせ遂に俺たちは倒れた。
そう、勝ったのだ。
「どうだこのやろー倒したぞー!くそ、血が止まらねぇ。ここまでか」
少ししょぼいかもしれないが俺にしては頑張った。屍人だった俺が最期は少しだけ生き返ったと思う。
少しずつ指先から体温が抜けていく感覚を感じながら仰向けで空を見上げる。
「なんだお迎えか……」
「あぁ迎えにきた。どうやら少しは成長したようだな、番犬にするには弱すぎだが」
死神にしては白いし口が悪いな、まったく……。