ふれあいパーク
身体が思うように動かない事をどうにかしなければ食糧調達ままならない。
「ぬぐぐぐぐぐ……!動けぇぇえ!」
まず、考えたのはクソメイドの策略。
だが、アイツからもらったのは剣とナイフだけ。そんな俺の身体をどうこうすることができるとは思えない。
だとするなら考えられる二つ目の要因。
「この森が変な力でもあるって事……!」
よくあるファンタジーだと重力が何倍とかそういう奴だ。魔王城の周りが始まりの街みたいに生優しい環境な訳ねぇもんな。
幸い、重力ではない。どっちかって言うと五月病みたいな身体がダルい感じの究極系ってイメージ。こう言う時は大抵魔力で何とかなる、小説ではそうだった。
身体を無理に動かす事をやめ、俺は身体の内面に意識を向けた。仮にも勇者だ、魔力くらいあるだろう。
(魔力、どこだ……きっとある絶対に)
自然と目をつぶって瞑想していたその時、腹のあたりに炎のような何かを感じた。それは今にも消えそうな蝋燭の火。しかし、確かに存在していた。
「これか魔力……!火だって言うなら薪をくべるイメージでやれば」
体感だが、少しだけ炎の勢いが強くなった気がする。
すると、途端に身体のダルさが消え失せた。
「ハハッ身体が軽い!コレなら森に入っても大丈夫そうだ」
◆◆◆
森に入ってから少し経って食べられるものを探していたのだが、まるで見たことのない動植物に俺は世界の壁を感じていた。
「食糧調達って言われても何が食べれるかわからないっつの。まぁ、動物なら食べられるよな」
俺は植物集めを諦めて動物狙いに指針を決めた。
幸いなことに剣は魔王からもらってあるから何とかなるだろう。
実物なんて初めて見るがロングソードとか言われる奴だ。意外と重いし長い気がする。よくもまぁアニメやらゲームのキャラはこんなのを軽々使えるよな。
解体用ナイフを使って邪魔な位置にある枝を切りながら森を進んでいくとガサガサと茂みから音がしたのを感じ取って急いで木の影に隠れる。
(アレは……ウサギ?)
動物園で見たことのある日本と同じくらいの大きさのウサギが飛び出してきた。
ただ一つ違うことがあり、
(額にツノ。コレはアレか!異世界名物ツノ付きウサギ【ホーンラビット】とか色々別名ありそうな奴だな)
異世界知識を思い出して標的が決まった。今日の晩飯はウサギ肉だ!
(ウサギだからな、勝負は一瞬。逃げられたら追いつくのは無理。魔法なんて使えないからあのツノで刺されるとほぼジ・エンド)
鼻をピクピクさせているウサギをよく見て背中を向けるタイミングを測る。剣を握りしめてゆっくりゆっくりと近づいていく。
(あと5メートル、4、3、2……今だッ)
渾身の力でウサギの首あたりに剣を横薙ぎする。縦に切るより横の方が当たるだろうと考えてだった。
「よっし!」
ウサギは赤い血を出しながら左に吹っ飛んでいって…………くるっと一回転したのち着地。そしてこちらを見た。
「キュキュ?」
その様子からは「何かしたか?お前か?」と言う意志を感じた。確かに身体からは血が出てその白い毛皮を染めているが致命傷になったかと言われるとそうではない気がした。
嫌な予感がしたので剣の方を見ると刃にヒビが入っていた。
「うっそぉ。そんなに硬いのかよコイツ。いや、よく見たら刃こぼれが凄い。ボロ剣よこしたなアイツ!」
縦に切っていなかったことを今後悔した。
奴の身体は軽いからおそらく横に切った時に衝撃を殺されたのだ。それがウサギによる物なのか剣によるものなのかはわからない。
ただ一つ言えること、それは。
「やっべぇ、死ぬぞ俺」
動物園でふれあいパークに居るような愛くるしい鳴き声を発しながらその見た目に反する鋭い一角を俺に突きつけて睨んでくる。
(落ち着け……!異世界産とはいえウサギはウサギ。どう考えても奴のメインウェポンはあのツノだ。動きさえ見えれば避けられないことはねぇ!)
まるで銀行強盗に銃をつきつけられたような気分になりながらウサギの動きを観察する。
後ろ足を「俺は牛だ」と言わんばかりにタンタンさせて突進の準備を始めたウサギはその後何故か身体を少し斜めに傾けた。そして、
「キュキュキュ………ギュアッ」
気がついた時には左肩に穴が空いていた。
「ぐぁあああ!?速ぇ!」
(クソ、突進した瞬間しか見えなかった……!迎え打つなんて考え自体、間違ってたんだ!)
ウサギは傾けた身体を突進と同時にさらに傾けた。そして一直線に俺の方に向かって白い槍のように回転しながら飛んできたんだ。
「回転しながら飛んでくるとか流石異世界……」
右手で肩を押さえながら次の一撃をどう躱すかを考える。間違いなく剣で受けようものなら折られる。さらに最悪なのは折られた上に貫通してまた風穴が開くこと。
足なら逃げる選択肢すら失われ腹に穴が開けば死につながる。
だが逃げることも出来そうにない。背を向けた瞬間奴は俺の事を殺す。確実に生き延びるにはアイツを倒して森を脱出。
コレしかない。