サバイバル開始!?
スズメの鳴き声が鳴き太陽が上り差し込める光で穏やかにベットから起き上がるーーーなんて事はなく。
「いつまで寝てるつもりだ、起きろ!」
ゴキッ、と首から音が鳴ったような気がしながら俺は床に落下する。
目が覚めたら元の世界。なんて心配は激しめのモーニングコールで俺の身体ごと吹き飛んだ。
ラノベでしかあり得ない兄を起こしに来た妹なんて生優しいものでなく「早く起きろ、さもないと殺す」なんてヤクザのように起こしにくる女なんて一人しかいない。
「クソメイド……てめぇ何処に優しさと思いやりを何処に置いてきた?」
「そんなもの野良犬には上等過ぎるだろう?さっさと起きて主人の元に行くぞ」
「コイツ……いつかぶっ飛ばす…!」
一張羅のシャツを手でシワを伸ばして立ち上がる。元の世界だとしばらく動けないくらいの衝撃だった筈だがすくっと立ち上がれたのは勇者スペックのおかげだろうか。ネクタイ?あんな息苦しいものする必要ないだろう。そもそも来た時にはつけてなかったし。
廊下を歩いている間城を見渡してわかった事だがクソメイド以外に人がいない。見えないとかではなく人気がしない。喋り声とかならまだしも俺とクソメイドの足跡以外物音すらしなかった。
ここまでくると魔王城というよりおんぼろ城の方がピッタリなくらいだ。
初めて来た時はラストダンジョンみたいだと思ったがどちらかと言うと「勇者との戦いのその後」という感じ。
「着いたぞ」
クソメイドが俺に話しかけてくる。やはり魔王の部屋にも護衛なんかは居なくてただ立派な扉があるだけだ。
「ここが魔王の部屋か。この中にいるんだろ?」
「言っておくがお前はただ魔王様の慈悲で生きている野良犬に過ぎないからな。使えない駄犬だと分かったら殺処分だと肝に銘じておけよ?」
「……そうだな」
今更ながら綱渡りな道にいることを自覚しながら唾を飲み込む。
あぁそうか、こういう時に気を引き締める目的で命綱があるんだな。持ってくれば良かった。
「魔王様、入ります」
「へ?」
扉越しに声をかけたクソメイドは勢いよく扉を開け放った。
中の奴が返事してから開けるだろ、ふつー。まぁ魔王の側近っぽいから良いんだろうけど。
だが、俺とメイドが部屋に入った瞬間見た景色は相当に反応しにくいものだった。
おそらく仕事をするデスクであろう物の前で大量の本や資料に押しつぶされる形で仰向けで床に寝転んでいる魔王がそこには居た。
召喚された時のような威厳はそこには無く、おそらく寝巻きだろうもこもこした服で目をパチクリさせる姿はまるでただの少女のようだった。
「な、な、な……ナニゴトだ!?もしやまた襲撃か!?」
「違います。はぁ……また夜通し本を読み漁っていたんですか?」
「う……だって、興味深い資料を見つけたから……」
魔王は下を向いて申し訳なさそうに言い訳を並べていく。
「だってじゃないです、ほら、勇者も驚いて放心してるんですからさっさと魔王モードになってください」
うわぁうわぁ、うわぁぁあ!何今の!
人前だと見栄を張って偉そうにしてるのに気が抜けた時だと普通の女の子みたいになるとか可愛すぎかよ。
それに、女子のあんな無防備な姿とか初めて見た。クソメイドが愛想がないぶん余計に可愛く見えたぞ。
魔王、いや、まおー様は本で雪崩を起こしながら這い出てきて奥の方に走っていった。おそらく着替えをしに行ったのだろうが今更繕える面が残っているのだろうか。なんとなく顔面真っ赤で着替えてる姿が目に浮かぶんだが。
色々準備があるとのことで俺は一旦外に追い出され魔王の準備を待つことになった。
それから十数分、クソメイドの声が扉越しに聞こえてきた。
「入れ」
俺が扉を開けて入ると先ほどまで散らかっていた本は綺麗に片付けられ偉そうに机でふんぞりかえる魔王とその側に仕えるクソメイドがいた。
「よく来たシキよ。昨日はよく眠れたようで何よりだ。さて、今日からお前の仕事を」
「そんなことより耳が赤いが大丈夫か?」
「なんでもないッ!」
無かったことにしたいらしいので主人の言うことは聞くようにしよう。さもないと隣の首狩メイドが動きかねん。
「シキには食糧を確保してもらいたい。言っておくがこれからは自分が食べる分は自分でとってきてもらう。働かざる者食うべからず、だ」
「はぁ?無理に決まってるだろ!?」
「勇者ならば問題あるまい。我らとて暇ではないからな。外は危険だが食糧も手に入り勝手に強くもなれる、いい案だろう」
この魔王、人のことをなんだと思ってるんだ。勇者か。いやそうでは無く。
そこら辺の草なんかは手に入るとしても肉は何か動物を倒さないといけないだろう。人が何日肉なしで生きられるか知らないが早めになんとかしなければ。
「駄犬では無くせめて番犬くらいはあると示してみせろよ野良犬」
「黙れ、クソメイド」
そんな訳で魔王城の裏門までやって来た。
案内役としてクソメイドが来た訳だが説明するまでも無く眼前に広がる光景で察しはつく。
「ここには魔界でも有数の大森林が広がっている。当然、食材の宝庫だ。私に持ってきたら料理を作ってやらなくもない。ただし、火が沈んだら作らない。だから死ぬ気でやれ」
「早すぎて驚いても文句は言うなよ?」
「せいぜい生で食ってろ野良犬」
お互いを罵り合いながら俺たちは背を向けて歩き出した。
その瞬間、身体に異変が起きた。
「なん………だ!?これ!」
身体が石のように重い!重力とかでは無く身体が硬直したように動かない。
この森の特性なのかそれともあのクソメイドが何かしたのかそのどっちかだ。
今もどっかでほくそ笑んでいるであろう奴の顔がチラついてしょうがない。
「アイツ知ってて教えなかったなァ!」
「ただいま戻りました」
「おかえり、プロル」
魔王は威厳のある雰囲気を解き、家族のようにメイドに話しかける。
しかし、メイドは変わらず同じ態度で話し出す。
「魔王様、あまりその名は好きではありません」
「そうかな、私は好きだよ。で?シキは」
「森に入りました。今頃、一歩も動けずにいるかと」
魔王は苦戦しているだろう識を思い浮かべる。
「この魔王城の結界に阻まれた魔力。それが吹き溜まっているあの森は入るだけで魔力の圧で動けなくなる。ましてや魔力の使い方もわからないシキなら尚のこと」
「ですが我々には悠長に野良犬と話している暇はなさそうです」
「そのようだな」
魔王とメイドは識とは逆方向、正門に向けて歩き出した。