盟約と命約
死ねって何!?
いつの間にか魔王の隣に黒騎士っぽいのが立ってるしマジでかっけぇ!じゃなくて!
まず話を聞いて欲しくて魔王に話しかけようとした瞬間、目の前から黒騎士が消えた。
「あれ、さっきのやつどこ行っ ぐぇっ!?ちょちょ首に剣が当たってる!マジで殺す気かよ!?」
「当たり前だ、殺すつもりで呼んだからな」
やばいやばい、一瞬で首チョンパされなかったのは良かったけどこのままだといずれそうなる……!
色々諦めてきた人生だったけど命だけは諦めたことはないぞ!?
「待ってくれ!な、なんで俺は殺されるんだ?死ぬ前にそれくらい教えてくれないと死にきれねぇ!」
「そんなもの、教える必要はない」
自称魔王のこの女、意外と会話してくれるぞ?黒騎士はどうだか知らんがこの女の命令でやってんなら魔王を懐柔すればこの場は乗り切れる!
「いやいや、無念すぎて毎晩お前の枕元に出てやるよ。お化け、ゴーストなんでも良いけどいるよな?」
「ぴッ……仕方ない。冥土の土産に教えてやろう」
「魔王様!?」
おい、こいつ今お化けにビビらなかったか?魔王なのに?それに黒騎士喋れるんかい!
「女神の決めた約定で勇者召喚は五百年に一度となっている。そして、今がその五百年目であった。人類は毎度毎度『今こそ魔王に抗う時!』と召喚するわけだが……」
ん?という事は召喚したのはこいつではない?だって召喚陣的なものは人類にあるんだろ?
「そこで我は召喚に割り込む方法を五百年かけて見つけ出しお前をここに呼び出したわけだ」
「んなアホな」
「おい、魔王様を馬鹿にしたか」
「違うって!あ、いや違いますからその剣を首に押し当てないで!」
危ねぇ、こいつの存在忘れてた。薄皮一枚切れた気がする。つまり、この魔王は禁断のレベル1の勇者をラスダンに呼び出して殺そうとしてるわけか。しかも殺したら五百年は勇者は現れなくて安泰。詰んでね?
「………アイツらに攻め込まれるだけでも胃が痛いのに勇者まで相手にしてられるか」
今ボソッと何か言ったな。《《アイツら》》か。つまりコイツ、俺以外に何かあるな。
「なぁ、俺は魔王を倒せるだけの力があるんだろ?つまり、お前を倒さない安心が取れたら俺を殺さなくても良いんだよな?」
「勇者など信用などできん、今死ねすぐ死ね霊体すら残さずさっさと死ね」
断崖絶壁だがまだ会話は成り立つ!なら社畜時代の交渉スキルでなんとか!
「正直、俺は人類だとか魔王だとかどうでも良いんだ。生きれるなら魔王の側でも良い。別の世界のことだからな。死にたくねぇ、せっかくの異世界だ満喫するのは悪いことじゃないだろ?」
「人間、首を飛ばされたくなければ黙れ」
くそ、黒騎士の方は殺る気か……!だが、魔王が命令するまで首を飛ばせないはず!魔王の方がちょろいから懐柔するならこっちだ!
コイツだって魔王が絆されそうだから黙らせようとしてんだ。
「なんなら魔王のために働いたって良い。絶対にお前を殺す事はないと誓う。魔法かなんかでそういうのを誓っても良い。死にたくないんだよ、俺は!まだ何も見てない、世界の何も!こんな真っ暗な城で終わりたくない!」
せっかく異世界なんて場所に飛ばされて第二の人生だ、今まで諦めたことを全部やりたい。彼女だって欲しいし旅をするのも良い、美味しいものを食べて綺麗な景色を見るのも。こんなわけわからんうちに死んでたまるか!
「……本当に、我を殺さないと誓うか?」
「!あぁもちろん誓うぜ」
「魔王様!?」
よし、黒騎士は怪しいが魔王はなんとかなりそうだ!
「もし、元の世界に戻れると言われてもか」
は?あんなクソな世界死んでも嫌だね。ハゲのために働くより美女な魔王の方がいいに決まってる!あ、よく見たら俺の好きなタイプだな。
「ハッ死んでもお断りだね、元の世界に戻るより魔王のために働く方が何倍もマシだ」
「そうか……!ならば勇者よ、我と共に生きると誓え!!」
「おう!俺、識長十郎は魔王と共に生きてやるぜ!」
なーんかプロポーズみてぇだな。まぁ良いか。
「ここに盟約が交わされた。我が死ぬ時、汝もまた死ぬ」
「ぇ」
「如何なる困難も共に立ち向かおうではないか!ふははは!」
俺と魔王の右手に赤い牙のような紋様が浮かぶ。まるで焼きごてで焼き付けられたような痛みと共に魔王と繋がりができた事を感じた。
共に生きるってそういう意味!?コイツ自分の命担保に保険かけやがった!