糸口
「放せシキっ我は戻る!もうアンドラス以外にアテがないのだ!」
「ちょっお前暴れるなって。わかってるから」
俺は今、暴れる魔王を何とか抱えながらクソメイドに魔王城まで運んでもらっている。アンドラスは勇者である俺にも魔王にも敵意は感じなかった。もしあるのならば姿を見せる前に俺は死んでいる。
それにーーー
「私としてもあの場は引くべきだと感じたが駄犬、何か策でもあるのか?」
「あぁ勿論。ただちょーーっと時間がかかるかもしれないけどな」
「そんな時間はないッ今からでも戻っ」
「はい、魔王様少しお静かに」
クソメイドは両手で魔王をヘッドロックして瞬時に魔王の意識を刈り取った。「キュウッ」とか言ってた。
そして、俺はというと魔王を奪い取りクソメイドが離したことで自由落下中。
「少しは待遇改善を要求するーーーッ」
魔王城よりも高い位置を飛んでいたがために地面に直撃するのには猶予がある!
とは言え30メートルは超える高さから普通に落ちたら死ぬぞ!?クソメイドは何やってる?
このままだと魔王諸共世界平和エンドに持っていくぞ!?
「魔力を纏うイメージッ剣が折れないようになるなら身体だって守れるはずッ」
もうあと10メートルない!一回も成功させてないがやれるか!?いや、やるしかない!
「いや無理ッ時間が足りねぇ〜〜ッ」
もう考える暇すらない程に地面は俺に迫っていた。何故か助けに来ないクソメイドは呪うと決意しながら衝撃に備える。
しかし、身体が激突する寸前身体が上に引っ張られた。
「どうだ?死の際で助かった気分は」
「はっ最高だね」
強がりは言ってみたものの正直死んだかと。心臓が早鐘を鳴らして破けそうだ。
「人は死に瀕した時こそ得るものもある。魔力、纏えるようになったな?」
「え、あ、ホントだ……」
間に合わないと思っていた纏う事は出来たらしい。
「で、本当に策があるんだろうな。嘘だったら……」
「ある、あるから手を離すな!まだ上手く魔力を操作できないんだから!」
意識の失った魔王を連れ、俺たちは帰還した。
「はっ交渉は!?アンドラスは!?」
魔王城に着いた後、魔王は目を覚ました。そして、恨めしそうにじ〜っとこちらを見てくる。
「あのまま居ても交渉どころか話も聞いてもらえそうになかったろうが。それに運んだのも意識から取ったのもそこのクソメイドだ、あっちを恨めって」
「だがもはや我らには奴以外に仲間になりそうなものはいないのだぞ!?何としてでも奴の力をッそれを貴様は〜〜〜!」
俺が何言っても聞く耳持ちそうにないなこれ。
「駄犬、私も貴様が策があるという顔をしたから撤退に協力した。その策を話せ」
「あぁ交渉なら俺の得意分野だからな。いい交渉材料が手に入ったんだ」
あの時、アンドラスってやつがどんだけ強いのかスキルで見てよかった。でなきゃこの泥舟ごと沈むところだった。
「アンドラスって奴は大魔王に心から忠誠を誓ってる奴なんだろ?」
「あぁ。あのお方ほど大魔王様の配下として忠義を尽くす人はいない。屋敷での言葉に嘘はないはずだ」
クソメイドの情報は大方正しい。ある一点を除けば。
何故なら、俺のスキルは隠した情報の全てを覗き見る。そいつが隠した真実さえも。
「いや、あの場でアンドラスは嘘をついてた。俺のスキルはそういうのを見破るのが得意でな」
「そんな事はないッアンドラスの言葉には重みがあった……何より我は、確かに人間との子供だ………」
魔王は大魔王の腹心に拒絶されたのがさぞショックだったのだろう。もしかしたら親交でもあったのかもな。だけど、嘘はそれじゃない。
「あいつがついた嘘は二つ。一つは魔王に何の思い入れもないって奴。あいつは大魔王がただの魔族だった時から一緒なんだろ?そんな親友兼戦友みたいな奴がその娘を気にしないわけない」
俺の言った言葉で少し落ち着いたらしい魔王は目に見えるくらいに安堵していた。クソメイドも珍しく「良かったですね、魔王様」と背中を撫でながら優しい声で話していた。
それを俺にも少し分けてくれよ。
「で、もう一つ。これが奴を引き入れる事ができるかも知れない嘘。魔王の誘いを断った理由だ。魔王が人間との子供だからなんて理由で断ったりするか?大魔王の娘を気にかけている奴が?」
クソメイドと魔王はハッとし顔でお互いを見た。
自分の屋敷にまでやってきた魔王どころか勇者だと見抜いた俺ですら見逃した奴が今更魔王の血筋でとやかく言うわけもなく。
理由は別にあった。
「大魔王の腹心が他の魔族すら連れてこないで一人で出てきた。何でだと思う?」
「あのお方なら我らなど一人で十分だと」
「違う。奴は俺たちと話しながらも屋敷に意識を割いていた。屋敷に奴が守る何かがあったんだ。何だと思う」
屋敷から飛び去る直前、俺は屋敷の窓からスキルで見た。アンドラスの宝物を。奴が何としてでも守りたい宝をどうにか出来れば俺たちの勝ちだ。
「アンドラス様は大魔王様の腹心でありながら人気の無い屋敷で暮らしていたらしい。それこそ、大魔王様の遺産戦争にすら参加しなかったという」
うわ、何だそれ。そんな血みどろなことしてたんかい。
「つまりアンドラスが守っているものは宝物の類では無いということか?」
「いや魔王ある意味では宝なんだろうよ。亡き娘の残した孫娘だからな」
「「!」」
そう、俺が見たスキルの結果はこうだ。
アンドラス
大魔王の腹心
孫娘の治療薬を手に入れるため鬼王と協力関係にある。亡き娘の残した孫だけは何としてでも助けたい
エティア
アンドラスの孫娘
夜光病に罹っている
陽光草中毒に陥っている
「なぁ、陽光草って普通のやつが食べるものなのか?」
「陽光草だと?他の種族はどうか知らないが我ら吸血鬼には毒だ。少しずつ体を蝕み死に至る程だ。まさか!?」
「あぁ、奴の孫娘はそれの中毒になってる。しかも夜光病とやらも発症中だ」
二人はこのあり得ない状況を飲み込み始めた。犬がチョコレートを食べられないように、生き物には毒となるものがある。
吸血鬼にとっては陽光草がそれに当たるらしい。そんな物を普通食べるわけがない。
「アンドラスは鬼王から夜光病の治療薬を手に入れるために協力関係にあるらしい。魔王の頼みを断ったのはこれが理由だ」
「鬼王……まさかこんな陰湿な真似をするとは。ならば孫を助ければ我らについてくれるかもしれないな!」
「貴様がそんな力があるとは知らなかったがどうやって助けるのだ。陽光草の中毒の治し方も夜光病の治し方も私も魔王様も知らないぞ」
「それに関しては俺に任せろ。ただちょっと時間がかかる。それまで他の魔王からの攻撃には耐えてくれるよな?」
最終的に裏切るとしても魔王との契約を破棄してからでないと逃げられないし死なれては困る。
「勿論だ。駄犬にしてはよくやった」
「任せろ、シキ!」
よし、これから忙しくなるぞ。魔王のお使いクエストの開始だ。




