「猫」
「完結」です
最後迄、御読みいただきありがとうございます
すみません
少し加筆しました
集合住宅の外階段
二階の角部屋(自室)目指し足を踏み出した
少女は思い出したのか、徐に見上げる
外階段の天辺
其処に座り込む、「影」の姿はない
と、咄嗟に振り返る背後
其処から自分を追い越して行く「影」もない
小さく息を吐く
当然だ、少年の行動は頗る心臓に悪い
だが
丁度良い
敢えて時間を掛けて外階段を上る間
此れから先の事を今一度、考えよう
Uターンする旨を前言撤回した後
「同棲」だが
「同居」だがする羽目になる
其れで良いの?
其れで彼奴は良いの?
真性の「屑」相手に其れで彼奴は良いのか?
鉄骨の外階段を靴音を鳴らす事なく
一段一段、上る
彼奴は良い、と言う
彼奴は「其れ」が良い、と言うに決まってる
彼奴の「恋心」に付け込む
自分が何れ程、「屑」だろうが
彼奴は「其れ」が良い、と言うに決まってる
自分も「其れ」を望んでいる、途方もない「屑」だ
愈愈、辿り着く「角部屋」の玄関前扉
考えても煮え切らない
考えても考えても煮詰まらない
結果、考えるだけ無駄という結論に至る
「第二 釦を目印代わりに括り付けた
「鍵」を鞄から取り出すと鍵穴へと差し込む
ぐるりと回した瞬間
手応えのない感覚に思わず舌を鳴らす
此処は「片田舎」じゃない、と口を酸っぱく言ってるのに(怒)
一間集合住宅
靴箱を積み重ねた下駄箱 擬きの上に置いた
小物入れに自室の鍵を放り込む
知られた以上、コソコソ隠す意味がない
見れば
縦、横、奥行も窮屈 此の上ない廊下 台所に立つ
件の「猫」は一口 焜炉に掛けた鍋の火を消した所だった
「只今」
安定の無視
かと思いきや珍しくも少年が其の顔を向ける
如何いう風の吹き回しだ?
少女は当然、訝しがるが「片田舎」の習慣を正すべく声を上げた
「鍵、閉めて」
「此処は隣近所、」
皆まで言わせる気はないのか
少年が気怠そうに遮る
「牛乳」
「ん?」と不思議顔になる少女が
「ん!」と手にした鞄の中、携帯電話を取り出す
鮮明になる液晶画面に少年 差出のメッセージが表示される
[牛乳]
受信時刻は退社直後
途端、「回れ右」をする少女が
放り入れたばかりの鍵を取る也、其の腕を掴まれた
足音も立てず
何時の間にか背後に控える
少年の行動は頗る心臓に悪い
結果、容易く
鍵を奪われた少女が慌てて少年を引き留める
「、御免」
安定の無視
自身の靴を突っ掛けるように履く
外出から帰宅した人間に
お使いは頼まない、此れも少年の独自規制だ
「、本当に御免」
少年の背中に謝罪する
少女は自分自身、何に対して謝罪しているのか分からなくなった
「今日は色色、考えてたの」
金曜日に「別れ話」をして
土曜日に「片田舎」に帰って
日曜日に「片田舎」から帰って来た
然して月曜日の「今日」
努めて普段通りに挨拶を交わす
努めて普段通りに会話を交わす
合間
「退職願の書き方とか」
「退職願の出し方とか」
検索すれば解決する事を現実逃避の如く、考えていた
「其れに」と、一呼吸置く也
出勤前に言われた少年の用事を思い出し急いで付け足す
「貴方に頼まれた」
「雉猫の世話は忘れずにしたから」
今少し手懐けて「家猫」に迎える
貴方の意見には賛成だ
「片田舎」程、此処は彼岸( ひがん)ではない
「其処は安心して」
然うして安堵させた所悪いが爆弾を差し出す
「其れに」
「其れに「上司」が転勤するんだ」
「上司」という爆弾を見事、受け取り
振り返る少年が玄関扉に其の背を凭れて腕を組む
「転勤?」
若干、顎を刳り少女を見下ろす
少年の「目」が問い質してくる
「然う、「にし」さん転勤するんだ」
で、如何するの?
自分は?
自分は如何したい?
「だから」
「だから、じゃないけど」
「やっぱり会社、辞めない」
「やっぱり会社、辞めたくない」
此のまま「片田舎」に帰りたくない
貴方は?
貴方は如何したい?
何時しか外方を向く
少年の横顔を窺うも感情 等、読める筈もない
似た者同士 故に
付かず離れずなのか
似た者同士 故に
憎たらしくて愛おしいのか
其れは当たり前じゃない
然うじゃないと貴方を大事に出来ない
然うじゃないと貴方を大切に出来ない
嫌われても仕方がない
貴方に嫌われても仕方がない
然う思わせてよ
内心、自分勝手な言い分に嫌気が差すも
情けなく縋る思いで目の前の少年を見詰めれば
自分を見詰める目と目が搗ち合った瞬間、少年が宣う
「嘘 吐きは閻魔大王に舌を引っこ抜かれるぞ」
肩透かしもいい所だ
多少、否
大いに呆れながら断言する
「貴方」
「前回の仮病で舌、引っこ抜かれるね」
心做し胸を張る、少年
「其れは覚悟の上、お前は?」
何が「覚悟の上」だ
何処ぞの「武士」だ
兎に角
自分には「其の覚悟」はないが
「嘘じゃない、本当」
到頭、上がり框に座り込んだ自分に次いで
屈み込む少年が深靴に手を伸ばす
「「牛乳」ないと駄目?」
「「牛乳」ないと細底幼が作れない」
「咖喱にしない?」
と、提案した所で咖喱粉がない
「、然う」
「、然うだね」
自分の深靴を
玄関 三和土に揃えて置く、少年を盗み見る
若しかして貴方なりに気遣ってるの?
若しかして貴方なりに誤魔化してくれてるの?
自分の足元で
自分の持参した猫缶の残りに舌鼓を打つ
素知らぬ顔の雉猫の姿を思い浮かべる
「素知らぬ顔」と言うのは
知っているのに知らない振りをしている表情だ
「猫」の十八番じゃないか
屹度、嫌だよね
屹度、貴方は嫌な気持ちよね
御免
本当に御免
然うして垂れた前髪の隙間から覗いた
目と目が合った少年が笑う
其れは滅多に御目に掛かれない、事もなく
近頃は度度、御目に掛かれる
「笑う猫」に良く似た、微笑み
「寝ても覚めても「お前」と一緒なんだな、僕」
等と
余りにも無邪気に笑うものだから自分も笑うしかなかった
其れなら其れで良い
取り合えず深靴を
普段使いのバレエシューズに履き替えて「牛乳」を買いに行こうよ
「一緒に買いに行こうよ」
相手の腕を取る也( なり)、勢い良く立ち上がる
誘いを掛ける自分の前で何故か、そわそわし出す少年
「、なによ?」
努めて冷静に訊ねるも
慌てて少年の腕を放す、其の顔を覗き込まれる
「、どうしたのよ?」
案の定、安定の無視
本の少しだが身を退く自分に構わず
自身の顔を寄せてくる少年の行動に心臓の鼓動が忙しい
少年の息が
少年の熱が
近い!
近い!!
近い!!!
と、身構える自分の横っ面を掠める
少年の唇が耳元で訊ねた
「此処、本当に事故物件なのか?」
「?はい?」
心做し期待したが
心做し期待通りだった
何せ相手は得体の知れない「猫」だ
期待「外し」はお手の物
て、何を期待したんだ?、自分
其れは扨措き
拍子抜けの頭に浮かんだ疑問を投げ掛ける
「なんで小声?」
一層、声を調子を落とす少年が囁く
「聞かれたら困るだろ?、お化けに」
「!!困らねえよ!!」
盛大に突っ込みたいが
長嘆を(ちょうたん)吐いて堪えた自分に気付いた
少年が首を傾げる
「お化け」といい
「閻魔大王」といい何処迄、お子ちゃまなの?
抑
「んな訳ないでしょ?、嘘よ嘘」
否定しながら(軽く)胸を押し返せば
気怠そうに玄関扉に背を凭れる
少年が、にこりともせずに吐き捨てた
「お前、本当に閻魔大王に舌を引っこ抜かれるぞ」
「はいはい」
「嘘を吐いた自分が悪うございました」
「もう二度と嘘は吐きません」
海外法廷映画 宜しく
右手を挙げて宣誓する
自分に半目を呉れる少年が執拗くも聞き返す
「本当か?」
「本当なのか?」
「I do」(英語?)
「I do」(何故、英語?)
大袈裟に頷けば
「けっ」と笑う少年が悪戯にも問い掛ける
「僕の事、好き?」
開いた口が塞がらない
然うくるか
然うくるなら自分は「切り札」を切るしかない
「「猫」は好き」
「寝ても覚めても一緒に居たいと思ってる」
此処ぞとばかり少年の「主張」をお返しした
途端、自分の言葉に気怠そうに項垂れる
少年が其れは其れは照れ臭そうに笑うと
「にゃー」
と、鳴いた(可愛いかよ!)
自分は死ぬタイプの死神、須永の兄貴が大好きです(唐突)