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迷宮ソムリエ+ごみ拾い

 街の鐘が大きく響き渡る、昼を告げる音色が広がっていき、街の人達は手を休めて昼食を取ったり、食べ物屋さんに並んで買い物を楽しんだりしている。


 俺はそんな事お構いなしに街を駆けていた。ゲイル父さんには叱られるだろうけど、それより早く行きたい場所があった。


 街外れの教会の近くに大きな家が建っている、ここはグランさんとアンナさん達の家だ、二人の実子は一人だけど、ここには沢山の子どもたちが住んでいる。


「神父様こんにちは!」

「おおアル君、今日も元気ですねえ」


 教会の掃除をしていたデイビッド神父様に挨拶する、優しくて頼りになる大好きな人だ、いたずらしてアンナさんに叱られた時こっそり匿ってくれる。


「ねえねえロジェ居るかな?」

「勿論居ますよ、また遊びの約束ですか?」

「うん!」


 今日はすごい物を見つけたから約束より早く来てしまったけれど、神父様に手を振って俺はロジェの家の扉を開いた。


「ロジェ!俺だよアルだよ!」


 俺がそう声を張り上げると、食堂からひょこっとロジェと小竜のアザレアが顔を出した。口にはまだご飯が入っているようでもごもごと動かしている、それをごくんと飲み込むとロジェが言った。


「アル君、約束よりまだ随分と早いよ?まだお昼ごはん食べてないんだけど」

「分かってる、でもすっごい物見つけたんだ。絶対お前気に入るぜ!」

「本当!?よし行こう!」


 ロジェが俺の後に続いて家を出ようとした時、背後にただならぬ怒気を感じて俺たちは振り返った。


「二人とも楽しそうね?」

「お母さん」「アンナさん」


 俺とロジェはアンナさんに首根っこを掴まれて食堂に放り込まれた。目の前にご飯が並べられて俺は手を合わせてから食べ始めた。


「どうせご飯も忘れて飛び出してきたんでしょう?二人共行くなら食べてから行きなさい」

「ありがとうアンナさん!実は腹ぺこぺこで」

「食べてからくればよかったんだ、アル君が先走るから」

「何だよ!俺はお前が喜ぶと思ったから」

「食べてる時に喧嘩しないの!」


 アンナさんに叱られた俺たちは昼食を急いで食べると、お皿を片付けてから出かける準備をした。俺がグランさんから貰ったお下がりのリュックサックを背負うと、アザレアが飛んできてその中にすぽっと収まった。


「アザレアも来る?」

「キュイ!」


 俺はアザレアの返事ににかっと笑顔を返した。玄関でロジェを待っていると、扉が開いて誰かが来た。


「おや、こんにちはアル君」

「ツバキさん!こ、こんにちは」


 来たのはツバキさんだった。綺麗で凛とした佇まいに俺はドキッとして頬が熱くなる、相変わらずの美しさだ。大人になったら絶対に告白すると決めていた。


「またロジェ君と何処か遊びに行くの?」

「そ、そうです!すごくいい物見つけたから早く見せたくて」

「そっか、危ない所へは行ったら駄目だよ?」

「勿論です!」


 美しい上に優しい、なんて完璧な女性なんだツバキさん。アンナさんも美しさでは負けていないけれど、怒ると怖いしグランさんもいるし、やっぱり愛を告げるならツバキさんだと俺は思った。


「ツバキ、玄関で何やってるんだ。早く忘れ物取りに行って来い」

「げっバルバトス!」


 外で待っていた大男が痺れを切らしたのか中に入ってきた。バルバトスはツバキさんにまとわりつく悪い虫だ。


「人の顔を見るなりげっとは何だ」

「いいんだよお前には、そんな事よりまた勝負しろ!ツバキさんは絶対お前なんかに渡さないからな!」

「またこれだ。勝負は受けてやるが、ツバキは好きにしろと毎回言っているだろうが」

「ツバキさんをぞんざいに扱うんじゃない!」

「やれやれ」


 俺がバルバトスをじっと睨みつけていると、ツバキさんがくすくすと笑った。


「アル君、この人を倒しても私は手に入らないよ?私より強い人しか私は認めないからね」

「ええ、そんなあ」


 俺はがっくりと肩を落とした。ツバキさんより強い人なんてこの世界にはいないだろう、超一流の冒険者のツバキさんは、朧月という刀一つで最高難度の迷宮をも踏破した有名人だ。


「ツバキ、それなら俺はお前からこの前一本取ったぞ」

「それまでどれだけ負けてると思ってるんですか、あの一本は見事でしたけれど、積み重なった負け星から見て帳消しです」

「ええー!バルバトスさん、ツバキ姉ちゃんから一本取ったの!?」


 自室を出て階段をどたどた下りてきたロジェが驚いて声を上げた。手には大きなスケッチブックと画材、後は沢山の本や図鑑と手帳が詰まった鞄を肩から下げている。


「遅いぞロジェ」

「ごめんごめん、図鑑が一冊見つからなくて。それよりやったねバルバトスさん!とうとう勝ったんだ」

「たかが一勝だぜ?すぐに俺が追い着くさ」

「アル君バルバトスさんにいっつも負けてる癖に」


 それを言うなと俺はロジェの頭をわしゃわしゃと撫でた。ぐちゃぐちゃになった髪の毛をツバキさんがあらあらと言いながら直していた。


「バルバトスなんて放っておいて行くぞロジェ!」

「あっ待ってよアル君!」


 俺はツバキさんに手を振ってバルバトスにべーと舌を出すと走り出した。後ろからついてくるロジェがそうそうにバテ始めたので、手を握ると引いて走った。




 街外れの森の中まで来て俺たちは疲れて草むらに倒れ込んだ。暫く息を整えた後、近くの川に行って顔を洗った。冷たくて気持ちがいい、足を川の水に浸してほとりに二人で座った。


「ロジェは本当に体力ないなあ」

「アル君が体力おばけなだけだよ、学校でも一番じゃん」

「でも勉強はお前が一番だからなあ、父さんにいっつも叱られるよ、ロジェ君を見習いなさいって」


 俺が水を蹴り上げると、飛沫が上がってキラキラと輝いた。


「それを言うなら僕もよくお父さんに言われるよ?勉強もいいけど少しは体を動かしなさいってさ」

「グランさん程とは言わないけど、確かにな。でも今度かけっこのコツ教えてやるよ、そしたらきっとグランさんもびっくりするぜ!」

「ありがとうアル君。だけど本当にアル君は僕のお父さんの事好きだよね」

「当たり前だろ、俺の目標の人なんだから!そら、休憩終わり。そろそろ行こうぜ!」


 二人で歌を歌いながら歩き始める、目的の場所まではすぐそこだ。途中からアザレアも歌に加わってきたけれど、キュイと鳴く声だけで歌が訳が分からなくなってきて、それが面白くって二人で笑った。


「ついた!」


 俺はロジェの手を引いて見せたかった物の所まで引っ張った。そしてじゃーんとお披露目するかのように手でそれを指し示した。


「すごい!宝箱じゃん!」

「偶然見つけたんだ、俺は興味ないけどロジェはあるだろ?」

「勿論だよ!ありがとうアル君!」

「あ、でも危ないから絶対に触るなよ?見るだけだからな!」


 そう言う前にもうロジェは宝箱の前に座って観察とスケッチを始めていた。まあこれくらいの事は俺に言われなくてもロジェの方が分かってるだろう、俺はロジェの隣に座ってスケッチの様子を見ていた。


「相変わらず絵が上手だなあ」

「そう?でもまだまだだよ、僕は伝説の迷宮ソムリエになるんだから!」


 ロジェは拳を高々と突き上げた。


「迷宮ソムリエねえ、グランさんの話しでしか聞いた事ないけど」

「そんな事ないよ、ちゃんと本にも残ってるんだから。著者の名前は無いんだけど、きっとすごい人だったに違いないよ。あれだけ細かく迷宮の隅々まで調べ上げてるなんて、きっと情熱的で優秀な人だったに違いない!」

「そんなもんかねえ」


 俺はどさっと寝転がった。空の上をアザレアがくるくると回っているのを眺めている、あれだけ高いところから景色が見れたらきっと綺麗で気持ちがいいだろうな。


「アル君はやっぱり清掃員目指してるの?」

「それが俺の夢だからな!でも清掃員よりごみ拾いって名前の方がよかったと思うんだけどなあ」

「そうかな?」

「うん、特に理由とかはないんだけどさ。ごみ拾いって名前の方がかっこいいよ」


 ロジェは俺と話しながらも宝箱の観察をして手を止めないでいた。夢中になるといつも一直線なのがロジェの良いところだ、それに同時に色々な事も出来るし、頭もよくてすごいやつだ。俺の最高の友達。


「じゃあさ、アル君が清掃員になって活躍して、お父さんみたいに偉い人になって名前を変えればいいよ。清掃員からごみ拾いに戻すって、そうすれば夢も叶うし一石二鳥じゃない?」

「それいいな!流石ロジェ冴えてるぜ」


 俺は起き上がってロジェの肩を叩いた。将来の目標が見えてきたと俺は立ち上がってロジェに言った。


「俺がごみ拾いでロジェが迷宮ソムリエだ!俺はロジェの興味を引く物を一杯拾って、ロジェはそれを元に迷宮の謎と魅力を解き明かせ!」

「いいね!きっと二人なら何だって出来るよ」

「そうだろ?俺もそう思う!」


 迷宮ソムリエとごみ拾い、俺たちの将来の夢が定まった。きっとこれからも楽しい世界が待っている、俺は空気を目一杯吸い込んで吐き出すと、大空に向かって両手を伸ばした。




 了

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