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王が語る その4

 国王から語られたすべてを聞いて、俺たちは下を向いて青ざめていた。


 世界を滅ぼす?国王がアルと同じ存在?迷宮で起きている出来事はアルの力?どれもが信じられないが、現実だと思うと寒気が止まらなかった。


「アレックスはな、ほぼ完成したよ。だけど儂の思い通りとはいかなかったな」

「え?」


 俺が顔をあげると王は言った。


「最後の迷宮探索で奴を回収し心を完全に砕いて記憶には憎しみだけを残そうと思ったのだが、残念ながらそれは叶わなかった。それでも心は壊れるだろうと踏んでいたのに、助かった原因はグランお前だろうな」

「俺が?」

「お前との思い出がアレックスの心の瓦解を防いだのだろう、まさかアレックスと絆を育む存在が現れるとは思わなかったと最初に言っただろう?今ならその意味がお前にも分かるんじゃないか?」


 王の話を聞く限りは確かにそうだ。アルにまつわる秘密と正体を聞くと、今までの行動すべてが恐ろしく思えてきた。


「しかし計画に狂いはない、もうアレックスの意思で力を止めることは不可能だ。迷宮を統合してその力のすべてを得る。アレックスは人間の形をした迷宮になるのだよ。それは世界を手にする力だ、いずれ迷宮外もすべてアレックスに取り込まれて、世界は迷宮に変わり、生き物は魔物に置き換わる。これが儂の目指した滅亡だ」


 迷宮に起きている変化はその前兆にすぎなかった。王の計画通りに事が進んでいたのなら、俺たちがしてきた事はその片棒を担がされた事になる。


「今話した事実をお前達がどう受け取るかは任せる、どうするかもな。儂はもうじき死ぬ。世界が滅亡する事に賭けているが、どうにかしたいのなら止めはせんよ。儂も好きにしたんだ、お前たちも好きにするがいい」


 王はそう言うと出て行けと言って眠りについた。話すべきことはすべて話したということだろう、俺たちは部屋を出て王城を後にした。




 これからどうするべきかを話し合うような雰囲気じゃなかった。ゲイルさんもエドムントもこの世の終わりかの様な表情で真っ青になっていた。


 無理もない、聞かされた話しはどれもこれも二人にとって受け入れ難い事ばかりだろう。しかし俺は二人が立ち直るまで待ってはいられない、早速行動に移らないといけないからだ。


「ゲイルさん、アルは迷宮にいるって言ってましたね。何処の迷宮ですか?」

「何処って、グラン君何を考えているんだ?」

「決まってます。アルを助けに行くんですよ。会って話をして家に帰るんです」


 俺の発言にエドムントが取り乱したように言った。


「お前は何を言っているんだ!?話を何も聞いていなかったのか!?もう終わったんだよ全部!私達は所詮王の掌で踊らされていた道化だ、アレックスを救うだなんて世迷い言を言うんじゃあない!」


 情けない事を言うエドムントの襟首を掴むと、俺は額をがちっとぶつけて叫んだ。


「聞いていたし、理解した上で言ってるんです!アルに会いに行くって!世界の滅亡だとか人体実験だとか知ったこっちゃない!俺は、友人を、助けに行くって言ってるんですよ!」


 俺はエドムントにそう啖呵を切ると、手を放した。腰を抜かしたのかエドムントは地面にどさっと座り込んだ。


「お二人の気持ちは俺には察することは出来ても理解は出来ません。でも腑抜けていたいのならそれでも結構です。王も言ってたでしょ?好きにしろって、なら俺は好きにさせて貰いますよ。ついでに世界の滅亡とかいうのも止めてきます」


 ゲイルさんの怯えた顔を睨みつけると俺は言った。


「俺は友達を助けに行きます。あなたはどうしますか?家族を助けに行きますか?」

「それは…」

「即答できないならそれで結構、俺は行きます」




 一刻も無駄に出来ない、俺は二人を置き去りにして走り出した。肝心のアルの居場所が聞けなかったけれど、それは何とか自分で調べをつける。


 早くアザレアとツバキと合流しよう、そう思っていた俺を呼び止める声が聞こえてきた。無視しようかと思ったが、その人は必死になって叫んだ。


「あの!ゲイル様の!言いつけで!ごほっ来たんです!」


 走っている俺の後を追っていたからか、その人は苦しそうに咳き込みながら叫んだ。ゲイルさんの名前が出たので俺が足を止めると、ぜえぜえと息を荒らげて自己紹介をしてきた。


「ぼ、僕は、フォルテって言います。エルダー家の人間で、アレックス様の居場所の調査を、ゲイル様に依頼されてしてました」

「じゃあ、あなたはアルの居場所を知っているんですか!?」

「は、はいい、知っているから揺らさないで…」


 俺は早く情報を聞きたくてフォルテという人の両肩を掴んで揺すった。走って息が整わない時に揺らされたせいか、フォルテは顔色がみるみる悪くなって、口からびちゃびちゃと盛大に吐いてしまった。


 近くのベンチまで運んで、俺は謝った。


「本当にごめんなさい、急いでいたとは言えあんな事を」

「気にしないでください、僕の運動不足のせいですから」


 フォルテさんは自嘲気味に笑った。


「それで、何であなたがアルの居場所を?」

「ああそうですね、まずはもう一度自己紹介を。僕はフォルテ・エルダー、四公爵家の一つエルダー家の三男です。エルダー家は主に迷宮前の警護や街の警察組織を担っています」


 そんな大物だったとは、俺は改めて深々と頭を下げた。


「ご、ごめんなさい!俺はグランって言います」

「いえいえ、いいんですよ。それより本題に入りましょう」


 フォルテさんはそう言って話を始めた。




 俺に貴族間であった会議の内容と、その時の主旨について手短に分かりやすく教えてくれた。フォルテさんは、その会議の後秘密裏にゲイルさんから接触があったらしい。


「ゲイル様はご自分が動きにくくなる可能性も考えておられてまして、僕にこう頼んできたんです。兵にあなた達が無事に迷宮から帰ってくるか見張らせてくれと、そのお陰であの時迅速に対応できたんです」


 フォルテさんは異変を察知してすぐゲイルさんに報せを出したそうだ、そしてそれを聞いたゲイルさんがいち早くアルを連れていった。王が回収が間に合わなかったと言っていたのはこの事だったのだろう。


「僕はそれからただ事じゃない何かが起きていると思い、迷宮の警備兵を増員しました。どんな変化も備に見つけられるように厳重にしておきたかったんです」

「そうだったんですか」

「ええ、それで兵たちの報告の中に違和感を見つけました。とある迷宮の警備に当たる兵だけ常に異常なしと報告してくるのです。調べてみると、催眠魔法がかけられていました。記憶も消されていましたが、持たせていた物が役に立ちました」


 そうしてフォルテさんは一つの魔石を取り出した。


「それは?」

「催眠魔法がかけられると、それを検知して術者を記憶する魔石です。ゲイルさんから大量に買い付けておいてよかったです。万が一の備えって大事ですね」


 フォルテさんが魔石を指でとんと叩くと、光の粒がぶわっと舞い、それが象られて空中にアルの姿が映し出された。


「兵に催眠魔法をかけたのはアレックス様です。ここから迷宮に入った事は間違いないでしょう」


 アルの居場所を掴んだ。俺はフォルテさんに頭を下げると心から御礼を述べた。


「ありがとうございまず!手掛かりが見つかりました」

「いえ、僕は大した事はしていません。言われた事をやったまでで、どうやら蚊帳の外みたいですし。ああゲイル様から伝言です。決して無茶はしないでくれと言っていました」

「蚊帳の外だなんてとんでもない、あなたのお陰で色々と助かりました。俺から言うのもなんですが、ゲイルさん達の事よろしくお願いします」


 俺はフォルテさんに短く別れを告げるとまた急いで駆け出した。どの迷宮にいるか知れた事は大きい、早くアルに会いにいく必要があった。




 急いで駆け出す彼の背中を見送って僕はふうと溜息をついた。


「こんなに走ったのは久しぶりだ、日頃の運動って大切なんだなあ」


 まさか嘔吐するとは思わなかった。僕は毎朝の走り込みを真剣に検討し始めていた。


「それにしてもゲイル様達をよろしくか、確かにあんなエドムント様の姿は初めて見たな、一体二人に何があったんだろう」


 考えても想像の域を出ないので、僕はよしと膝を叩いて立ち上がった。こんな時には他の誰かの力を借りるに限る。そして適役な人がいるのを僕は知っていた。


「ベアトリス様会ってくれるかな、あの人僕はちょっと苦手なんだよなあ」


 僕は年齢が離れているので直接の関わり合いがないが、あの三人は別だ。仲良くしている所はあまり見たことがないけれど、幼少期から付き合いがあったのは間違いない、それに何だか胸騒ぎがしていた。


 四公爵家の力を一つにする必要があるかもしれない、そんな予感が僕の中にあった。ゲイル様もエドムント様も、様子が明らかにおかしかった。何かが起こっているのは間違いないだろう、僕もグラン君のようにベアトリス様の元へと駆け出していた。

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