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それぞれの歪み その4

 ゲイルさんからの情報が届いた。アルク・ハウザーは最近過激な思想に傾倒して、新聞社を退職させられたらしい。最後に書いた記事は掲載される事はなかったが、破棄される前にゲイルさんが手に入れたらしい、それを俺とアルは二人で見ていた。


「クローイシュ王国から迷宮を廃絶すべし、迷宮によって生み出される格差をゆるすな。無法者冒険者と迷宮に巣食うごみ拾い共に正義の鉄槌を」


 この大きな見出しにすべてが詰め込まれていた。ハウザーは王国の迷宮頼りの経済の仕組みを悪とし、その結果生まれた社会の歪みを是正すべきと主張していた。


 その為には迷宮への出入りを禁止し、入り口を誰も入れないように塞いでしまい、冒険者ギルドは解体し冒険者達を犯罪者として裁くべしと書いてあった。そしてごみ拾いはスラムごと焼き払い浄化するべきだと主張していた。


 元から少し過剰な物言いをするようだったが、ここ最近人が変わったように過激になったらしい、ハウザーに何があったのかそこまでは分からないし興味もないが、やはりこの男が関わっている事は間違いないらしい。


 今回の作戦が失敗した時はゲイルさんが即座に動くと言っていた。失敗が許されないのはギルド長だけでなく俺たちもだ、俺たちがハウザーに関われるチャンスも一度きりということだ。


 今日はその為の打ち合わせに冒険者との顔合わせに来ていた。ギルド長が選んだ冒険者は五人だった。


「二人とも紹介しよう、彼らが私が選んだ冒険者達だ。順に自己紹介してくれ」


 ギルド長から促され、端から順に紹介を始めた。最初の人は矢筒を背負い弓を担いでいる狩人と呼ばれる職業の人だ、背が高く短髪で爽やかそうな見た目だ。


「ロビン・ポールだ、見れば分かると思うが狩人だ。斥候や囮とかもこなすぜ、今回は魔物を引き寄せる役目で呼ばれた。よろしくな」


 爽やかな物言いで爽やかに握手を交わされる、何かちょっと苦手なタイプだ。次に挨拶をしてきた人は、小柄な男性だが立振舞いに隙が一切ない感じの人だった。服の上からでも筋骨隆々なのが分かる。


「ウルフ・クラーク、ヒーラーだ。ヒーラーだが前に出て戦う、体術と三節棍を用いる、回復より攻撃が得意だ」


 握手こそ交わさなかったが、胸の前で拳と掌を合わせて礼をした。よく分からないがこれが礼儀らしい。次の人は女の人だった。魔法使いがよく被っている帽子を目深に被り、長い赤毛は床にまで付きそうに伸びている、ローブこそ着ているものの冒険には向かないような露出度の高い格好をしている。


「…ドロシー・パープルです…。魔法使いです」


 それだけかと肩透かしを食らった。どうやら人見知りをするらしく、帽子を更に目深に被ってしまった。見た目と性格がちぐはぐな人だ。それに比べて次に自己紹介をした女の人はすごかった。美しい顔立ちだが、背に二本の戦斧を背負い、軽防具で急所こそ守りを固めているものの、装備の間から覗く肌に傷跡が多く残っている、髪の毛を後ろでまとめていて動きやすさを体現しているような人だった。


「ジル・ダウン、戦士だ。戦闘では両手に戦斧を持って戦う、今回の作戦を聞いて参加を決めた。君が立案者だと聞いたが?」


 俺は指差されたので答えた。


「そうです。俺が提案しました」

「そうか、実にいい作戦だと思う。こういう派手な事が大好きなんだ私は、危険な役目は任せておけ、期待以上の働きを約束しよう」


 がっしりと握手をされて少し手が痛かった。しかし触っただけでも分かる、この人の手は幾度も訓練と戦闘を重ねた歴戦の戦士の手だ。固くもあるが柔らかくもあり、戦斧を握る為に洗練されている。


 最後の男の人はロビンさんより背が高くがっちりとしていた。短くて棘々した髪の毛をオールバックにしている、そして背には大剣を一本背負っていた。防具は胸当てと籠手だけとなんとも潔い。


「バルバトスだ、俺はお前たちと一緒に行動する。そこのアレックスと一緒にな」

「うん?私か?」

「そうだ、足手まといにはならない。巻き込んだ魔物の相手をする、問題あるか?」


 アルはバルバトスの事を上から下まで眺めると、頷いて答えた。


「うん、いいだろう。共に戦う事を認める」

「そうか」


 今の一瞬の間に一体どんなやり取りがあったのか分からないが、アルが認めたのなら俺から何か言う事もなかった。全員の紹介を聞いた所で俺は自分の紹介をした。


「俺はごみ拾いのグランです。ごみ拾いに協力する事に嫌悪感があるかもしれませんが、皆さんの力が必要です。よろしくお願いします」


 俺はそう言って頭を下げた。


「待て待て、俺たちは別にごみ拾いに何か思う所はないよ。冒険者のすべてが君たちとわだかまりがあると思わないで欲しいな」


 意外な反応が返ってきた。この発言をしたのはロビンさんだった。


「そう…。そもそも私、あまりごみ拾いに会った事がない…。だから気にしないで」

「その通りだ。我々は納得してここに居る、あまり自分を卑下するのは失礼に当たるからやめなさい」


 ドロシーさんもウルフさんも思ってもみない事を言ってくれた。そんな風に思っている冒険者もいるとは、考えたこともなかった。


「話を進めなよグラン、私はお前に期待しているよ」


 ジルさんに促されて俺は作戦の説明を始めた。


「今回の合同作戦で重要なのは、如何にして反ギルド派の心を折るかにかかっています。自分たちの行為がどれ程危険だったのか知らしめる必要があります。そこでなすりつけて巻き込みを狙う以上の魔物をおびき寄せて、反ギルド派を無理やり魔物の中に巻き込みます」


 アルが用意してくれた迷宮の地図を広げて、俺は何処に誰が位置取るかを説明した。


「相手が狙いやすいパーティをギルド長が用意してくれました。反ギルド派が釣れたら彼らにはすぐに帰還の糸を使って退去してもらいます。合図についてはドロシーさんにいい方法があるそうなのでお願いします」


 ドロシーさんは小さなコルクのような物を取り出した。それを皆に手渡して話始める。


「これを皆には耳につけてもらう、私が作った魔法道具で、これをつけている人にしか聞こえない音魔法を発動する、それが合図」

「音は俺たちにしか聞こえないから、恐らくなすりけが成功して反ギルド派は油断しきっている。その隙にロビンさんとジルさんで魔物を挑発してこの場所に誘導してください」


 俺が指さした先は、アルとバルバトスが戦闘待機している場所だ。大量の魔物を相手取るのに十分なスペースがあり、尚且つここに繋がる通路は狭くて分散していた。入ってくる魔物の数を絞る事が出来る。


「ウルフさんとドロシーさんは自分の行動が終わったら、印をつけたこの四箇所に向かってください」

「何故その場所なんだ?」


 ウルフさんの質問に俺は答えた。


「この場所は俺が考えた最も隠れてやりすごしやすい場所です。魔物をなすりつけて巻き込んだ後、残された物の回収の為には迷宮に留まる必要がある、なら俺なら何処に隠れるかって考えれば場所は絞り込めます」


 ごみ拾いの知識と経験に基づいた提案だ、自信もあるしアルの迷宮データも検討材料に入れた。恐らく縄張りにしている反ギルド派と似たような考えが出来たと思う。


「成る程ねえ、私達は魔物を蹴散らしながらここへ向かい、一人でも当たりがいたら合流して護衛にあたる訳だね」

「そうです。反ギルド派は頭数がいても所詮ごみ拾い、大量の魔物を目の前にしたら絶対に動けません、死ぬか息を潜めるか二つに一つです。ごみ拾いならば後者を選びますので、隠れている所を保護してください」


 話を聞いた四人は分かったと口を揃えて言ってくれた。作戦の内容に納得してくれたようでほっと胸を撫で下ろす。


「予備の候補地も三箇所程印をつけましたが、これは余裕があった時だけで、本命にいなかった時は諦めてもらっていいです。ただでさえ危険な皆さんをそれ以上危険に晒したくはないですから」

「じゃあその辺の判断はロビンに任せるよ、私は戦闘にしか能がないし、リスク管理に一番優れてるのはあんただからね」


 ジルの言葉にロビンは頷いた。早速四人は集まって、自分たちの役割について話合い始めた。この場合はどうするかとか、誰と誰が合流するのが生存率を高めるだとか、すぐに連携についてのやり取りが出来る。冒険者のプロとはこういうものかと俺は圧倒された。


「グラン、私とバルバトスはただ暴れるだけでいいんだよな?」

「うん、一番危険な役目だからな、怪我するなよ」

「いやあ正直一番安全な場所だと私は思うがね、してグランはどう動くのだ?」


 このまま黙って誤魔化せるかとも思ったが、やっぱりアルには通じないかと俺はため息をついた。この作戦を発表するに際して、敢えてどう動くかの明言を避けていたのが俺の行動だった。


「俺は皆が魔物を引き付けてくれている間にアザレアと一緒に動く、俺の考えが当たってるなら、きっとそこに奴がいる筈だからな」


 俺は別の目的で一人動くつもりだった。迷宮内の殆どの魔物は皆が相手してくれているし、俺一人とアザレアだけなら身を隠して動くことも容易いからだ。


 そして俺たちは作戦を更に詰めて決行の日を待った。史上初の冒険者ギルドと特掃ギルドの合同作戦、冒険者とごみ拾いが協力し合う大作戦が始まろうとしていた。

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