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友達との悪巧み その1

 俺は改めてアレックス・ウィンダムと本当の友達となった。利用し利用される形ではなく、互いに協力し合うと認め合う関係となった。


 そして早速、俺たちは目的の為の大仕掛に奔走していた。表立って動き回っていたのはアルだが、俺にもやる事が一杯あった。


 まずごみ拾い達の心をまとめる為に、掃き溜めにて大規模な集会を開いた。マスターに協力を仰いで、スラムにいる人達に声をかけて回り、集められるだけのごみ拾いを集めた。


 その為に使う現金はアルが都合をつけてくれた。先行投資、そして協力を約束させるのに金というのは大きな力になった。何の見返りもなく協力をしてくれる人はそういない、掃き溜めのマスターとドルンが声をかけてくれたブレットの弟子達が協力してくれたが、ごみ拾いを一所に集めるだけでも苦労した。


 しかしアルとも話していたが、ここでごみ拾い達に未来について変えていかなければ、いつまで経ってもごみ拾い達の未来は暗いままだ。迷宮に関わる新たな勢力として、どれだけやれるかを示す為にも数の力が必要だった。


 掃き溜めに集まったごみ拾い達の顔は、控えめに言っても暗く沈んで死に体だった。そもそも集まりたくもないと思っている者が殆どだろう、互いの繋がりが弱いのが俺たちだ、仕方がないと割り切ると俺はぐっと腹に力を込めた。


「皆集まってくれて感謝する。俺は一介のごみ拾いグラン、もしかしたら名前を知ってくれている人もいるかもしれない、ここで顔を合わせた事のある人も言葉を交わした事もあるかもしれない。ただ縁としてはそれまでだ、皆にも覚えがあるだろう、俺たちの繋がりの弱さを」


 俺の言葉でごみ拾い達はお互いの顔を見合わせた。覚えがあるからこその反応だと思い俺はもう一歩踏み込む。


「皆自分たちが犯罪者である自覚はあるだろう、迷宮に巣食うゴミ虫と、冒険者達になじられた事もあるだろう。暴力を受けたり、身内のごみ拾いが殺された人もいるのではないだろうか、そしてそれに手も足も出ず口を噤んでいたのではないか?仕方がないと諦めていたんじゃないか?」


 皆困った様子でざわめいていた。ごみ拾いなら誰でも一度は経験している事だ、俺の言葉を否定出来る者はいない、他ならぬごみ拾いの俺がそう思っているからだ。


「その現状、変えたいとは思わないか?」


 ここでやっと俺の言葉に異を唱える者が現れた。


「そんなの無理だ!」


 人数が多いので誰が言ったのかは分からない、でもこの言葉を皮切りに口々に言葉を上げ始める者達が続いた。出来ない、現実的じゃない、いや出来る、変えないと一生このままだ、色々な意見が飛び交った。誰が誰に向かって言うでもなしに、皆が皆抱えていた不満の種を打ち明けあうようだった。


「皆聞けえええ!!」


 俺は声を張り上げて皆を一喝した。次々に声を交わし合っていた者達は俺の大声に驚いて目を丸くした。


「聞け!確かに今のままでは夢物語だ!だれ一人として成功するとは思っていないからだ!俺たちの現状は変わらないと心の底ではそう諦めているからだ!だから敢えて言ってやる!ここで変えるか変えないか!道はどちらか一つ!そう考えてもらいたい!」

「何故そんな事が言える!」

「もうこんな機会は訪れないからだ!ここに俺が立っている事は偶然の積み重ねだ!この偶然がいつまで続くかは誰にも分からない!俺と俺の協力者である四貴族が一つウィンダム家を信じてごみ拾いを改革するか、それともこのまま停滞を望むか、選べ!」


 偉そうに宣言をしているが、俺だって立場が改革側でなければ無理だと諦めていたと思う、荒唐無稽だと吐き捨てていたと思う、俺は俺だけが助かればいいと考えていただろう。でも、この先ごみ拾いが貴族の後ろ盾を得られる機会など訪れないだろう、そしてアルという理解者が見つかる事もないだろう。


 だからこそ、ここで踏ん張らないと変わらない。説得できなければ悪巧みは無に帰す。それはブレットの死が無駄死にだったという事だ、それだけは絶対に嫌だった。


「僕は賛成です」


 俺の宣言の後、静まり返った掃き溜めで手を挙げて発言をしたのは、俺にごみ拾いに起きている異常を教えてくれたミックだった。立ち上がってミックは話し始めた。


「僕は迷宮内で獅子の牙が行った残虐な行為を体感しました。明確な悪意を持って殺されるのを見て、僕は恐ろしくなった。そして、今まで冒険者に見つかったごみ拾い達が虐げられているのをおかしいと感じるようになった。確かに僕らがやっている事は倫理観からずれているのかもしれないけれど、だからってこんな仕打ちを許容していていいんですか?」


 ミックの実感の籠もった言葉に、皆はより押し黙った。今まで発露出来なかった怒りを、どう表現していいのか分からないのだ。


「変えられると言うのなら変えたいです。僕がごみ拾いをやっているのは僕の責任だけど、無意味に死んでいくのは怖くて堪らない。真っ当に生きろと外野は言うけれど、言うだけで何もしちゃくれない。僕らの身は僕らで守らなきゃ」


 握りしめた拳を震わせながらミックはそう言った。その言葉に突き動かされたのか、他のごみ拾いからもまた声が上がり始めた。


「確かにそうだ。俺だって大手振って迷宮に潜れるってならそうしてえ」

「ああ、生き死ににビクビクするのは変わらなくても、殺される心配がなくなるってのは大きいぜ」

「でも、そんな簡単に仕組みなんて変わるのかよ」

「馬鹿野郎!だから団結しろってグランは言ってるんだろうが」

「ここで俺たちがバラバラのままだったら、現状は何も変わらない、それなら…」


 皆の口から漏れ出す言葉は、後ろ向きな事から前向きな事に変わっていった。誰もが変革を望む訳じゃあない、だけど、少しずつ未来についての話し合いが始まっていた。現状に甘んじるのではなく、少しでいいからよりよい未来へと進みたい、そんな気持ちで皆は一緒になり始めていた。


「皆もう一度俺の話しを聞いてくれ」


 俺は更にお腹に力を込めた。


「変える変えると口では言っていても、現実はそんなに甘くない。成功する保証はない。でも皆も気がついてくれたように、ここで俺たちが変わらなければ一生このままだと俺は思う。ごみ拾いを取り巻く環境は大きく変わる、それを許容できると言ってくれる者は挙手して欲しい」


 俺は皆に見えるように大きく手を伸ばした。ミックが我先にと手を挙げた。続いてブレットの弟子だった人達が、そして掃き溜めのマスターも、皆次々に挙手をしてくれていた。


 掃き溜めに集める事の出来たごみ拾い達の意見は満場一致した。これだけの人数を集める事が出来たなら、数で訴えかける策が現実味を帯びてきた。


 俺は頭を深々と下げて改めて皆に言った。


「ありがとう皆、これだけの賛同を得られたなら俺も自信を持って動く事が出来る。皆の期待を絶対に無駄にしない、俺に出来る限りの事を行うと約束するよ」


 誰かは分からない、頭を下げていたから見ていなかったから、だけど大きな拍手をしてくれた人がいた。それに続くように一人また一人と拍手が重なり合い、いつしかそれは音の雨のように俺の体を打ちつけた。


 盛大な拍手に押され、俺はもう一度頭を下げた。そしてお礼を述べると、目から涙が零れないように前を向いた。しっかりと皆の方を見据えて、できる限りの事をすると心に固く誓った。




 俺が壇上から下りると、そこに買取屋の姿があった。滅多に店の外に出る所を見ないので俺は驚いた。


「買取屋、お前もここに来ていたのか」

「おうよ、ごみ拾い相手に商売している身としちゃあ見過ごせないからな」


 それはそうだが、買取屋にはもう別の形で話をつけていた。ごみの買い取りと流通販路を担う為の要となってもらう為に、多額の現金を用意して仕事を依頼していたのだ。


「ごみ拾い達の集まりにまで顔を出してくれなくてよかったのに」

「馬鹿言うな、俺が見たかったのはお前さんの覚悟だよ。本当に仕組みを変えるってんなら、必要なのはちゃちな現金じゃあねえ。覚悟だよ。お前さんが本気で現状を憂いているってんなら俺も話に乗ってやろうじゃあねえか」


 買取屋は吸っていた煙草の煙をふーっと空に向けて吐き出した。


「ブレットがお前さんを連れて俺の店に来た時にはどうにも胡散臭え餓鬼が来たと思ったもんだ。腹の奥を探れない妙な奴ってなあ。しかし案外あいつも見る目だけは確かだったのかもしれねえな」


 買取屋はもう一度空に向かって煙を吐き出した。それを見て思い出したのだが、買取屋が吸っている煙草の銘柄はブレットが生前吸っていた物と同じ物だった。


「貰った金の分、仕事してやるよ。持ち逃げする事も考えたが、付き合ってやろうじゃねえか」

「金を持ち逃げ?そんな事お前がするかよ」

「何でだ?俺はやると決めたら躊躇しないぜ?」


 俺はふんと鼻を鳴らした。


「金を持ち逃げるなんて一時だけ得られる利益に、お前が価値なんか見出すかよ。今まで色んなごみに価値をつけてきたお前は、もっと長い目で物を見ている筈だ。これから先金になるかならないかってな」


 俺の言葉を聞いて買取屋は機嫌良さそうに大笑いした。俺は取り敢えずごみ拾いとその周辺の人たちを抱き込む事に成功した。アルの方は上手くやっているだろうか、あまり心配はしていないがどうなっているかだけが気になった。

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