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ごみ拾いの逆襲 その1

 近頃冒険者達の間では妙な噂が飛び交っていた。


 それは迷宮内で宝箱が中身をそのままに放置されているというものだった。無理やりこじ開けられてそのまま放置されている、近くには罠が発動したような形跡が残っていて、それが更に謎を呼んだ。


 そして驚く事に多くのミミックの死骸も見つかった。ミミックの上顎である宝箱の上蓋が、ぱっきりと反対側まで折り曲げられて絶命していた。油断すれば上級者でも死を覚悟し、並の冒険者では手も足も出ないあのミミックがだ。


 その不可思議な現象が各地の迷宮で起きていた。最初の内は冒険者達も幸運に飛びついて開けられた宝箱の中身に飛びついていたが、それが続けば今度は恐怖を覚え始めていた。


 一体誰が何の為に、しかも罠を解除する事もなく宝箱をこじ開けて放置する。行動原理がさっぱり分からないその現象を、奇妙に思わない事の方が難しい。


 その宝箱を開ける事だけ狙ったような行動に、冒険者達は誰も理解を示す事が出来なかった。ただ一組の冒険者パーティを除いての話だが。


 自分たちの手口を誰かが真似ている。しかしごみ拾いを殺める事なく、ただ冒険者達に施しを与えているかのようなその行為、お前たちとは違うんだと挑発されているように受け手は感じた。


 パーティのリーダーはすぐさまメンバーを招集すると対応の相談をした。しかし皆この謎の行動の真意を計りかねて、意見の集約はまとまらなかった。結局対応は先延ばしとなり、暫くは様子を見るという静観の姿勢を取ることになった。


 ごみ拾い殺しパーティが静観の立場を取っていると、暫くして別の噂が流れてきた。


 宝箱が開け放たれて放置されているのは変わらないが、今度はその中身がすべて無くなっているというものだった。よく知るごみ拾いの行動に近しいので、冒険者達は獲物を横取りされた事に憤っていた。


 しかし憤る冒険者達とはまったく逆に、ごみ拾い殺し達は思わずこみ上げてくる笑いを抑えるのに必死だった。


 この所、ごみ拾い達も自分たちを警戒しているのか、滅多に姿を見せなくなった。元々隠れるのは上手い連中だったので、隠れる事に集中されてしまうと自分たちでは見つける事が出来なかった。


 そこで考え出したのが、宝箱の中身を使った撒き餌作戦だった。儲けに釣られてよってたかるごみ拾いを、拷問の末に殺すのがそのパーティの手口だった。


 自分たちが大人しくしていると分かったごみ拾いが活動を再開した。どこの誰が宝箱を開けて放置しているのかは分からないが、自分たちが手を出すまでもなく勝手に獲物を集めてくれたのだから、労せず最良の結果が飛び込んできた。


 静観に回っていたパーティはすぐさま行動を開始した。パーティメンバーの意見も一致し、この宝箱の中身を漁るごみ拾いを狙う事で団結した。


 情報を集めて、どの迷宮の宝箱の中身がよく無くなっているかをあちこち聞いて回った。幸いな事に、自分たちのパーティは実力者揃いで名も売れている、どいつもこいつも簡単に話してくれた。


 ごみ拾いがいる迷宮に目星をつけると、さっそくごみ拾い殺し達はその迷宮へと潜って行った。今まで我慢をしていた分、たっぷりとお礼をしてやると気合は十分だった。




 俺はリュックサックを背負って宝箱の中身を漁っていた。正直こんなに宝箱の中身に触れる機会がないので、内心ではうきうきする気持ちが止められなかった。


 武器に防具、薬に巻物、色々なアイテムが様々に出てくる。これがどれくらい金になるのかと思いを巡らせていると、どれだけ気を張っていても恍惚としてしまう。


 周囲の警戒も疎かになってしまうのも分かる気がした。ごみ拾いにとって、この光景は眩しすぎる。


 だからこそこちらが使う罠としても丁度いいのだ。


「アザレアッ!」


 俺の合図でリュックサックからアザレアが飛び出した。背後にいて武器を振りかぶっていた冒険者の顔目掛けて炎のブレスを吐いた。


「ぐうおおお!!」


 顔面に不意打ちで炎のブレスを食らった冒険者は、悶絶してその場に倒れ込んだ。威力を抑えるように言い聞かせてあるが、突然顔面を焼かれる痛みはそうとうなものだろう。


 隙きが出来た瞬間俺は物陰に向かって走った。釣り出すまでが俺の仕事で、後はアルに任せる。ピィと短く口笛を吹いてアザレアについてくるように指示をした。


「待ちやがれっ!!」


 焼かれた顔を押さえて冒険者が叫ぶ、しかし待つ必要はないので俺は無視した。今はただ早く身を隠さなければならない。


 走る俺を目掛けて矢が飛んできた。正確無比に襲いかかってくる矢はこのままだと俺の首に突き刺さるだろう。


 だけど弓矢を使う奴がいる事は想定済みだ。ピュイっと口笛の音色を変えると、俺の近くで並走していたアザレアは矢の方に向きを変えて尻尾を使い叩き落とした。


 俺は物陰に隠れると飛び込んで来たアザレアを抱きしめた。


「よくやった!偉いぞ!」

「キュイキュイ!」


 アザレアは嬉しそうに鳴き声を上げた。完璧な仕事をしてくれたアザレアの頭を撫でると、一緒に物陰からアルの様子を見守った。ここからが本番だ。




 私はグランが隠れるのを見届けると、うずくまっている男を素早く制圧した。


 足で頭を踏みつけ、顔面も地面に押し付ける。痛みに呻く声をもっとあげさせる為にぐりぐりと足を捻って強く押した。


「があああ!!」


 火傷した顔を地面に押し付けられ、男は更に痛みに呻いた。仲間が痛めつけられていると言うのに中々他の連中が出てこないので、私はもっと力を強めた。このままぷちっと頭を潰してもいいのだが、それでは他を逃がす可能性がある。


「どうした?出て来ないのか?それともこいつは見捨てるか?まあこちらとしても一人居れば十分かもな、こいつが洗いざらい吐くだろう」


 それでもしんと静まり返っているので、私は影に潜んでいるであろう奴らに声をかけた。


「こちらは一人、お前たちは何人だ?何人居ようと構わないが、冒険者ってのは随分臆病者だな」


 この挑発でやっと矢が一本飛んできた。私はそれを少しだけ身を捩って躱すと、篦を掴んで止めた。


 飛んできた場所めがけて私は矢を思い切り投げた。ギャッと言う短い悲鳴が聞こえてきて、矢が当たった事を心配する声が聞こえてきた。


「そこにもう一人いるな」


 置いておいた松明を手に取ると、それに素早く火を付けて声のした方に投げ込んだ。薄暗いが明かりに照らされて人の姿を確認できた。私は足元にいる男を持ち上げると人が見えた場所に思い切り投げ飛ばした。


 ごしゃっという音と、三人分の悲鳴が聞こえてきた。これで後三人、いや二人か。


 私は振り向いてナイフを突き立てようと忍び寄っていた影の手を掴んだ。関節とは反対側に折り曲げるとボギっと鈍い音を立てて腕が折れた。痛みに騒ぐ前に、もう一方の腕も折っておく。


「気配を…完全に消してた筈なのに…」

「そうなのか?それは失礼、普通に後ろにいたから」


 小柄な女は痛みのあまり気絶した。後二人、私は気絶した女の首をつかむと飛んできた魔法の火球めがけて投げた。


 魔法は私が投げた女とぶつかって消える、しかし魔法の飛んできた方向と、火の明かりで照らされたお陰で魔法使いの場所が分かった。


 仲間に魔法を当ててしまい狼狽えている魔法使いに飛びかかり、喉を素早く潰すと腕と襟を掴んで地面に叩きつけた。受け身を取る暇も与えず強く叩きつけられた魔法使いは泡を吹いて白目を剥いた。


 あと一人だが、戦いもせずに仲間を見限って逃げた気配がした。恐らくリーダー格の人物だろう、そして帰還系の道具を持っているだろうが使わせはしない。


 この場には短時間だけの効力ではあるが、帰還系の道具を無効化する結界を張っておいた。迷宮の罠を研究して得られた王国とウィンダム家の産物だ、私の活動がこうして本当に役に立つ日が来るのだから世の中分からないものだ。


 足音が止まったのが分かった。恐らく今帰還の糸あたりを使おうとしているのだろう。私はすぐさまそちらに向かった。




「何だあの化け物!何だってごみ拾いにあんな用心棒がついているんだ!」


 冒険者殺しは焦りながら帰還の糸を取り出した。一つしかない虎の子だ。仲間の誰かがしくじった場合自分だけは助かる為にとっておいた物だった。


「悪いなお前ら、俺はとっととずらからせてもらうぜ。あばよ」


 しかし帰還の糸はうんともすんとも言わなかった。慌てて何度も使用を試みるが何度やっても何も反応しない。


「何だよこれ!不良品か!?」

「いや、帰還の糸に不良はありえない。値段が値段だからな、信用第一だ」

「じゃあ何で…」


 冒険者は全身から汗が吹き出てくるのを感じていた。今背後で声をかけてきたのは誰だ?いや頭ではもう分かっていた。仲間はもう全滅したのだから、残された選択肢は唯一つあの化け物以外に他ならない。


 冒険者は最後の覚悟で鞘から剣を抜き取った。しかし斬りかかる前に剣を両手で挟まれて止められて、そのままぽっきりと折られてしまった。


 化け物は折れた剣先をつかむと、両足の腱を切り裂いた。冒険者はその場にどさりと力なく倒れ込んだ。

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