第三話 壊
「…ッ…!!!!!」
大量の鮮血。
それは、壁、床、トイレの扉に至るまで飛び散っていた。
つい先程までは何も感じなかった嗅覚もいつの間にか鉄の臭いが支配していて、それが血である事を嫌でも証明してくる。
止まらない嫌悪感、脚がすくむ。
目を背けよう、目を瞑ろう。そう心では思っているのに、「非日常」(イレギュラー)に対する処理能力がバグっているのか、その視線はやがて鏡の向こうの血の量が多くなっていく『元』へと集約されていく。
それは、
「……や…」
それが、何なのかは見なくても分かっていた。
「…いや…」
赤と白の色合いの学校規定のスリッパ。黒色の靴下、肌色。
そこから先はもう、見ることが出来なかった。
「いやっ!!!!!!!!」
女子生徒。誰かは分からない。膝から上がどうなっているかもわからない。
怖くて彼女は振り向く事が出来なかった。
頭がパニックになりながら、彼女はその場から逃げ出した。
(これは夢、これは夢…悪い夢。私は多分まだ教室で寝てるんだ。そうだ、そうだよきっと)
階段を降りて、彼女は校舎の玄関へと来た。
靴を履き替える事すら忘れて彼女は玄関の引き戸を開けようとしたが、そこで彼女は初めて二つの事実に気づく。
一つ、引き戸が開かない。鍵が閉まっているとかではなく、純粋にびくともしない。
二つ、現在の時刻は午後5時半。夕焼けが刺していたはずの空が、今は何故か真夜中であるかのように真っ暗なのだ。
「なんで…なんでよ!!」
イレギュラーが次から次へと押し寄せるこの現状に、彼女の繊細なメンタルは耐えられなかった。
いきなり全てが歪み、常識では考えられない事の連続で心臓が爆発しそうなぐらい鼓動が響いている。
「あああああああああああっ!!!!!」
普段の彼女からは考えられない腹の奥からの叫びと共に、ボサボサの髪が更に歪むくらい彼女は頭をガシガシと掻いた。
極度のストレスを一度に叩き込まれたようなもので、精神的に歪んで壊れてしまった彼女には耐えられるものでは到底なかった。
最早考えることができず、放心状態になってしまった彼女の傍、カツ…カツ…カツ…と廊下に響く誰かの足音が段々とこちらに迫って来ていた。