第一話
(そろそろ…帰ろうかな)
ぼうっと夕焼け空を横目で眺める事一時間。
部活には入っていない。別に家に帰りたくないわけでもない。ただ、毎日同じ事を繰り返している事に疲れたのだ。
機械的に日常が過ぎていく、真っ当に生きれるとしたらあと六十年ぐらい残っているのだから尚更嫌になる。
だからいつもならすぐに帰っていた所を今日はこの時間まで残ってみた。
と言っても帰りのHRからずっとこうしていたわけではない。人目が怖かったのでまずトイレに篭って、ある程度の生徒が帰ったのを見計らってからここに居座っている。
人目が怖いというのは厳密に言えば、『他人から注目を浴びるのが怖い』『他人の談笑や笑い声が自分の行動を嘲笑っているように聞こえて怖い』という二つの理由から来ている。
考え過ぎ、そんな事を言われるのは目に見えているし、自分でもそれは分かっている。
だがそれを踏まえても尚、心の奥に刻まれたものがそれを良しとしなかった。
「どうにも出来ないんだよ…」
夕焼けと夜空が攻めぎあう頃、鏡原はようやく重い腰を上げた。
人気のない校舎を、私の上履きのコツコツとした音だけが反響する。少しだけ気持ちが良い。自分だけの世界かのような感覚が味わえる。
勿論教師や部活動のある生徒達は残っているだろうが、この階に少なくともその気配はなかった。
誰か来る前にさっさと帰ろう。私は少し歩調を早め、突き当たりの右手にある階段を降りようとする。
「…その前に…トイレ行っておこう…」
私はもう一度来た道を辿った。