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9話 そう、なにもかもが順調というわけではないようですよ?

 

「すげーなC4爆弾」


 空いた穴を眺めながら、ケントが感嘆の声を上げる。


「いいから、それより外の様子はどう?」


「おう、巻き込まれたやつも聞きつけて様子を見にくるやつもいないみたいだぜ」


 その言葉を聞いて、全員空いた穴から外へと出る。

 爆破された部分はきれいに穴をあけていた。おかげで難なく外へと出ることができる。


「うわーここまで熱風が来てるよー」


「うん、顔がポカポカしてくるね」


 カオリとセラが南門を見ながら話す。

 確かにここにいても少し熱い。脱走していなかったらホントに蒸し焼きになっていたかもしれない。


「だれも来ない....みんないないみたい」


「ああ、やっぱり全員出て行ったみたいだな」


 あれだけの音を立てたのに様子を見に来るものはいなかった。兵士たちは全員出払っていて、付近の住人たちはおそらく避難しているのだろう。


「俺たちにとっては都合がいいな、よしみんな逃げるぞ」


「逃げるたってどこに行くんだ?」


 ケントに聞かれ、立ち止まる。


「とりあえず、あの南門と逆...北の方に行ってみようと思う。」


「南門が攻められてんならあそこは確実に開いてんじゃねーのか?」


 ケントに問いかけられる。


 ーーーケントの言うことももっともだ。でも....


「たしかに開いてはいると思う。でも大勢の兵士と『鬼』なんて呼ばれてた物騒な化け物相手に、あの炎の中を隠れていけるとは思えないんだ」


「オレとレイがいればいけるんじゃないか?」


 拳を突き合わせて、ケントがアピールしてくる。


「相手のことがわからないのにそんなこと言ってると足元掬われるぞ。それにレイの銃は俺たちの切り札だ。なるべく温存しときたい」


「なるほどね、わかったぜ。そうしよう」


 ケントが納得したところで、さらに女性陣の方を振り向く。


「みんなもそれで大丈夫か?」


 全員がそれぞれ肯定的なリアクションをしたのを確認して、最後にレイをみる。


「レイ、そういうことだ。弾はいざという時まで温存しておいてくれないか?」


「わかった」


 レイからも了承をもらったところで、再び全員に向き直る。


「よし、全員出発だ」




 ーーーーー


「おい!北門の警備は万全なんだろうな!」


「南の方は大丈夫なの!?」


「火を消さないと俺らの家が燃えちまう!」


「北門は十分に警備隊が配備されている!南門もじき片付く!火も順次消していくので、皆さん慌てないで!!」


 門の付近にいる兵士が必死に、詰め寄る住人たちを安心させようと説明を行なっていた。

 北門付近までやってきた透真達は、その騒がしさに多少なり驚く。


「すごい人だね」


「南の方の住人たちがこぞって逃げてきているんでしょうね」


「これだけ騒がしいと、ウチらも隠れなくても大丈夫かもよ?」


「そうだな、こそこそしてる方が逆に目立ちそうだ」



 カオリの意見ももっともなので皆で姿を現す。

 確かに俺たちを見ても、特に怪しまれることもないようだ。


 6人はそのまま周りの人たちに溶け込むように、人だかりに混じる。


「上手くいった...」


「おう!だな!」


「今の所はな。でもレイの格好は流石に違和感があるな....」


「1人だけ格好が違うものね」


「じゃあ、ケントの後ろに隠れておく...」


 ススっとレイがケントの背後に隠れる。それを見たキョウコが僅かにピクリと眉を上げた。


 ーーうん?何に反応したんだ?


 キョウコの視線の先を追う。

 先にはケントと、その背後に隠れるレイがいる。


 何かあったか?と問おうと再びキョウコの方へ向き直ると、すでに何事もなかったかのような表情だった。


 ーーあれ?気のせいか?


 気のせいならそれでいいかと、考えることをやめる。

 ケントたちの集団から少し離れ、話を聞きやすいところへ移る。意識は周りの住人の話し声へ向かっていた。


「なんだってこんなタイミングなんだ」


「全くだ。明日になればアイリス様と近衛軍が到着するというのに」


「ということは明日まで待てば我々は助かるな」


「そうは言うが、今のアルデーアには最低限の警備兵しかいないんだぞ。明日までもつのか?」


「定期的に掃討してるんだから、大した数じゃないだろうし平気だろ」


 住民たちの話を少し離れたところから聞く。

 ふと、隣に人の気配が感じたので見るとセラとカオリがいる。


「なんだ2人とも、あっちでみんなと話しててよかったんだぞ?」


 言うと、2人はお互いに顔を見合い、それから言いづらそうに口を開いた。


「そうしたかったんだけど...」


「キョウコっちがレイっちにジェラシーしてていずらいんだよ!大会の時くらいからキョウコっちはケントっちのことが大すきなの」


 ーーちっちちっち多いな。


 余計なことを考えてしまうが後半は聞き捨てならない。


「え!!キョウコちゃんってケントくんのことがすきなの!?」


 言いたかったことを先に言われ、開きかけた口を閉じる。


「そうだよー。好きなくせに恥ずかしくて意地悪なこと言うの、子供みたいでしょ?」


「確かにな」


 思わず吹き出してしまう。

 だからさっきは不機嫌そうに見ていたのかと納得した。


「どうしよう、今度から2人の口喧嘩見たらニヤニヤしちゃうかも」


 この手の話が好きなのか、セラはニヨニヨと口をまごつかせたようににやける。


「大丈夫だいじょうぶ、ウチもニヤニヤしてみてるから」


 ーー面白いことを聞いたな。


 思わず透真もニヤける。3人で顔を見合いながら悪い笑みを浮かべるのだった。


「おう、3人で何やってるんだ?」


 ギクリ、と肩が跳ねる。

 声のした方を向くと、先ほど会話に出ていた2人と、後ろにレイがいた。


「い、いや、なんでもないぞ?住人の話を聞きながら情報を整理してたところなんだ」


「情報って?」


 ケントの隣にいたキョウコが聞き返す。心なしか不機嫌そうに見えるが、今日会ったばかりなので気のせいかもしれない。


「あ、ああ、いくつかあってな」


 他人に聞こえないよう、さりげなく6人で円陣を作る。


「まず、ここの村?町?まぁなんでもいいか、この集落の名前はおそらくだがアルデーアという名前らしい」


「アルデーア?聞いたことねーな。てことはここは外国か?」


「おれも聞いたことがないが、それだと向こうが日本語を話してるのに説明がつかないんだよな」


「言われてみれば、かなり流暢な日本語を話してたわね」


「ハワイとかなら...喋れる人いるかも...」


「ハワイにアルデーアって地名は無かったと思う」


「まあ、それはひとまず置いといてだ。次に、明日になればアイリスなる人物が兵を率いてここへ来るそうだ。それでおそらくこの騒ぎは収束するらしい」


「そんなにすぐ兵隊さんがくるの?もしかしてウチらが関係してる?」


「無いとは言い切れないが、他に聞いた話と合わせると化け物を定期的に掃討してるみたいなんだ、で その時期がたまたま明日。そんなニュアンスで言ってたと思う」


「ということはここでは定期的に化け物が出てくるってことね」


「確かに、そうなるな」


 ーーならば、ここは一体どこなんだ。


 まるで底無し沼に呑まれるような、得体の知れない感覚に陥る。


 ーーいっそ、異世界やゲームの中です。なんて言われた方が納得がいくかもな。


 1人で益体もないことを考えていると、ケントが口を開いた。


「んじゃ、これからどうするよリーダー?」


 透真を見ながら言うケントに、透真は思わず言い返した。


「なんで俺がリーダーなんだよ」


「オレは自分より弱い奴には従う気はねーの。でもオレだといい考えが浮かばぇ。だからオマエだトウマ」


「むっか....その言い方ムカつく」


「確かにムカつくわね。でも、私はトウマさんがリーダーなのには賛成するわ。ケントさんはムカつくけど」


「...っ!!....っ!!」


 セラはキョウコの言動にニヤニヤしている。


「せらっち落ち着いて!ウチもいいと思う!」


「んじゃ、多数決で決定な!トウマ!よろしく!」


「な...!」


 トントン拍子でリーダーにされ、透真は絶句する。


 ーーあとで絶対抗議してやる。ここから逃げ出してからな!!


 精一杯納得いかない顔を浮かべたあと、透真は深く思案する。


 ーー明日には事態は収束すると考えて...そうなると、俺たちが逃げたことがバレるな。ならどうやってここから出る...北門は人が大勢いるから防衛の為に開けないだろう。東や西には門はないのか?いや、あったとしてもここと変わらない状況だろうな。ならやっぱり南門...火の手が上がっているということは侵入されたと考えるべきだろう...


 皆の視線が集まる。しかし集中した透真はそれには気づかない。


 ーーやっぱり南門か。だけど、ここにいる連中はおそらく南門の方から避難してきた奴らだろう...ならば事態が収束してない今の段階で戻ろうとすれば怪しまれる....そうか!


 考えがまとまり、顔を上げる。

 みんなが自分の言葉を待っていることを確認して、透真は口を開いた。


「住民らの話を鵜呑みにすれば、明日にはこの騒ぎも解決するはずだ。そうなれば必ず住民たちは、我先にと自分の家は無事かと見に行くだろう?その人だかりに紛れて脱出する」


「今...はさっきダメだって言ってたな」


「騒ぎが収まっちゃうと、門も閉まっちゃわない?」


「そこはまあ、賭けになるな。化け物が派手に扉を壊してるのを祈るしかない」


「南門の方に行く前に脱走したことがバレないかな?」


「今は最低限の人員しかいないらしい。その人員で化け物の相手と消火活動だ。明日援軍が来たとして、ここでただ待ってた住人達が南門まで急いで家を確認しに行くのと、徹夜で仕事した鎧を着た兵士たちが詰所に戻るのを比べれば、住人が早いか、少なくとも同じくらいにはなるだろう」


「同じタイミングなら.....ワタシたちを探してる間に出れる...」


「そうね、門が開いてるかは賭けだけれど賭けてみる価値はあると思うわ」


 おおむね全員から了解を得たところでホッと息をつく。


「よし、ならば決行はおそらく明日になる。今は体を休めて.....」


 休めておこう。とは言えなかった。


 言い切る寸前。かなりの轟音と悲鳴が透真の口を止めたからだ。


 ーー 一体何が....っ!?


 振り向いた透真は絶句する。


 そこにはさっきまで門があったはずだった。

 しかし今は何もない。ポッカリと大穴が開いている。


 それは先程、レイがC4爆弾で開けた穴よりもさらに大きい。

 それが意味するところを理解した透真は、ゴクリと唾を飲む。


 穴の向こう側は土煙で見えない。

 どうにか穴の様子を知ろうと、凝視していた透真は()()にいち早く気付く。


「おい、なんだありゃ」


 横からケントの声がする。しかし、視線は穴から離せなかった。


 大きな、ともすれば丸太のような手が穴の縁を掴む。

 徐々に煙が晴れると、そこにいたのは大きな大きな体躯をした、鬼だった。


「オオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」


 地割れでもするのではないかと錯覚するほどの唸り声が、地響きを伴い響く。


 ーーーまじかよ。


 吠えたモノの姿を確認し、透真は苦笑いを浮かべた。


「チッ...!くそったれ...そう上手くはいかねぇよな」



 誰にともなく呟いた言葉は、周囲の喧騒に一瞬で飲み込まれ、聞こえなくなった。



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