8話 なんだか慌ただしくなってきたようですよ?
「敵襲だーーー!!敵が来たぞー!!!!!!!!」
どこからか、かなり切羽詰まった様子の叫び声が聞こえる。
「どこだ!?どこから来た!?」
「南門だ!あの化け物どもめ!よりによって修復がまだ済んでいない南門を狙ってきやがった!」
「化け物の正体は何かわかってるのか!?」
「鬼だ!それも複数!」
「至急応援を回せぇ!伝令もだ!」
最初の叫び声を皮切りに次々と怒鳴り声が聞こえる。
それに合わせて足音も、ドカドカと忙しない。かなり切迫した状況のようだった。
「なんかあったみてーだな」
「ああ。音と叫び声からして、襲撃でもされたみたいだな」
「鬼なんて言っていたけれど、本当に鬼が出たのかしら」
「鬼みたいにおっかない人達ってことでないのー?」
「そ、それはそれで怖いよ」
「足音....しなくなった...」
レイに言われ、扉の格子窓の部分から耳を澄ましてみる。
確かに何も聞こえない。みんな何処かへ行ったようだ。
「あー、アレが南門みてーだな。見てみろよ」
言われて振り返る。
ケントは扉の反対側に備え付けられた格子窓から、外を眺めていた。
「どれだ?...あぁ、あれか。派手に燃えてるな」
あたりはすでに日も沈み暗くなってきている。だというのに、格子窓から見える景色の一部が茜色に染まっていた。
「あの辺がさっき言ってた南門?なのかなー?」
「そうでしょうね、ここまで火の手が回らないといいけど」
「最悪、蒸し焼きにされるな!!」
「ケントくん、冗談でもやめてよ...」
皆の話を聞きながら透真は考えている。
ーーケントは冗談めかして言っているが、あながち冗談で済まないかもしれない...
窓から見える南門はごうごうと燃えていた。
そこまで距離的に離れているように見えないここも安全とは言えないだろう。
ーーそれに敵襲があったと言っていた。あの火が敵が放ったものだとしたら、ここの兵士たちは敵を相手取りながら火を消さないといけない。
はたして、そう段取りよく行くだろうか?いや、いかないだろう。彼らの慌てぶりからしてなかなか厄介な相手が来たようだった。
誰か1人でも残っていれば火のことを話して、移送なり解放なり、何かしら頼み込めるのだろうがそれも望みが薄そうに感じた。
何かいい案はないかと考えていた透真に不意にくいくい、と袖を引っ張るものがいた。
「ああ、ごめん。考え事してた。何か思い付いたか?」
袖を引いていたのはレイだった。
袖を引いたままレイは透真の目を真っ直ぐ見据える。そして何を考えているのかわからない表情で口を開いた。
「脱走...する?」
「え?」
突拍子もないことを言われ、間の抜けた声を出してしまう。
それをバカにされたと勘違いしたのか、レイはわずかに頬を膨らませて言い直した。
「むぅ、だから...脱走する?」
「脱走って...一体どうやってするんだ?」
思わず聞き返してしまう。何を思って脱走ができると思ったのかを。
「ワタシ...いま爆弾持ってる...」
言われて、レイの格好を見る。
ーーああ、ゲームの装備まんまなんだったか。
驚きの連続すぎて特に不思議に思わなくなりだした透真は、漠然とそんなことを考えていた。
「それ、ホントに起爆するのか?」
「多分。銃も本物っぽかったから...これも本物だとおもう...知らんけど」
ーー関西人かよ。
「本物だと仮定して、危なくないのか?」
「ゲームと同じで本物だったら...威力もゲームと同じはず...ゲームの威力範囲なら...頭に入ってる。この広さなら大丈夫...たぶん」
ーーおい、ちょいちょい自信なさげなのやめろよ。
本当に大丈夫か?と疑う透真だったが、そこにケントたちも混ざってくる。
「どうせこのままいても蒸し焼きになるか、最悪処刑なんだろ?いいんじゃね?」
「この騒ぎに乗じれば、逃げ切れるかもしれないわね」
「レイっちが大丈夫って言ってるなら、爆弾じゃ死なないよ」
「何もしないよりはマシだと思う...かな?」
みんなの視線が俺に集まる。あとはお前だけだ、とでも言いたいのか。
ーーまぁ、みんなの言い分も一理あるな。
「じゃあ、レイ。頼んでいいか?」
頭をガシガシかきながら答えると、それを見たみんなが笑みを浮かべる。
「任せて」
レイは短く答えると腰に手をまわしだした。
ーーーーーーー
「その粘土みたいなのが爆弾なのか?」
「うん、C4爆弾って言うの...別名、プラスチック爆弾」
粘土のようなものを壁に貼り付けながらレイが説明をする。
それをケントは興味深そうに眺めていた。
「え、プラスチックで出来てんの?」
「名前はプラスチックだけど...正確には違って...めんどくさいから自分で調べて...」
「なんだよ、気になるじゃねーか」
「よく、そんなに平気でいられるな」
思わず口に出してしまう。
レイが爆弾を設置しているのを興味深そうに眺めているのはケントだけで、残りの4人は反対の入り口側の壁ギリギリに張り付いていた。
「リモコン式だから大丈夫だって言ってたろ。なぁ?レイ」
「うん...大丈夫...」
「そ、それでもこわいよ!」
1番震えているセラが、声を震わせて答える。
声どころか歯もカタカタ鳴っているし、膝もガタガタ震えている。顔なんて真っ青だ。
ーーそんなにこわいのに、爆破に賛成したのか?
聞かぬが花だと思った透真はいちいち聞いたりしない。
なぜなら、自分も含めた残りの3人も似たようなものだからだ。
「設置完了」
「お!いよいよだな!」
対照的にいつも通りの2人がトコトコとこちらへ歩いてくる。
そして6人で部屋の角に固まった。
「壁の厚さがわからないけど、あのヒビ割れた部分に設置したから、たぶん大丈夫だと思う...」
レイが指さしたのは6人が固まっている角の対角線の部分だ。
そこの部分は一部が僅かに崩れていて、素人目でも1番脆そうな部分に見える。
「じゃあ点火する...」
「いよいよだな!」
女性陣に覆いかぶさるように、透真とケントが肩を組む。
ーー頼むから破片とか飛んでくるなよ。
祈りながら、点火の瞬間を待つ。
「点火3秒前...」
皆が身構えるのが、触れる肩から、腕から伝わる。
「2...」
思いっきり目を瞑る。
「1...そういえばいつも投げて使ってたから、設置して使うのは初めてかも...」
ーーおい!余計なこと言うな!!
睨みつけようと、瞑っていた目を開く。
瞬間、轟音と共にものすごい風と振動が背中を襲った。
「ぐっ!!」
思わず呻き声を上げる。
衝撃と音で頭がぐわんぐわんするのを、なんとか堪えながら振り向くと、爆弾を設置していた場所にポッカリと穴が開いていた。
「みんな無事か?」
「おう、しかしすげー音だったな」
「耳がキンキンするわ....」
「う〜、口に砂が入った〜」
「死ぬかと思いました...」
「ゲームよりリアル...」
ーー現実だからな。
ツッコミかけてやめる。はたしてゲームの装備がそのまま使えるココは、はたして現実なのだろうか?
ーーいや、今考えるのはよそう。
疑問を頭の隅に追いやり、違う言葉を口にする。
「よし、みんな外に出よう」