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7話 本格的に意味が分からないことになってきたようですよ?

 


「なんだ、やっぱりお前たち知り合いだったんじゃないか」


 和やかな雰囲気が流れていたところに聴き慣れない、しかしいつか聞いたような声が聞こえる。


「まぁ、わかりきっていたことだがな。おい、誰か1人扉の方に来い。夜食を持ってきてやったぞ」


 その男は透真をここまで連れてきた男だ。

 透真が他の者たちと楽しそうに話しているのをみて、侮蔑の込もったような顔を浮かべる。


 それが良くない感情を含んでいるのに気づいた透真たちは眼光鋭く睨み返す。


「なんだその反抗的な目は。俺はわざわざ飯を持ってきてやったんだぞ」


「ごめんなさい!今行きますから」


 険悪な空気が流れる中、セラが手を上げながら扉へ駆ける。


「ふんっ、最初からそうしていれば良いのだ。それと、お前たちの処遇だが、明日の朝領主様の御息女がいらっしゃる。その時に沙汰は告げられるはずだ。精々懺悔でもして残りの時間を有意義に過ごすんだな」


 笑い声を上げながら、男は去っていく。その足音が聞こえなくなるのを待って、キョウコが口を開く。


「嫌味な男ね。モテなさそう」


「違いねぇな、やっぱ男は俺みたいにドンと構えてないと」


「あなたの場合、それは間抜けヅラしてるんでしょ?」


「してねぇよ!」


 もはや慣れてきた漫才を適当に聞き流し、セラに謝る。


「すまないセラ、アイツは明らかに俺を挑発していた。俺がいくべきだった」


 6人分の食べ物――パンと干し肉のようなものを抱えたセラは、ふるふると首を振る。


「ううん、大丈夫。それに挑発されてるトウマくんが行ってたら、もっと酷いこと言われたかもしれないし、わたしが行って正解だったんだよ」


「それでも……いや、ありがとう。今度なにかお礼させてくれ」


「あはは、じゃあ期待してるね」


 笑顔を浮かべながら、セラがパンと干し肉を配る。

 すこしでも恩を返そうと、透真もそれを手伝った。



 ーーーー


「このパン固えな、食い終わる頃にはアゴが筋肉痛になってそうだぜ」


「さすがにケントもアゴの筋肉は鍛えてないのか?」


「鍛えるわけねぇだろ!まぁ、手足を縛られた時にあの野郎の喉元に喰いつくのに、ちっとは鍛えといていいかもな」


「……そうだな」


 あの野郎、というのが先ほどの男のことを指しているのはみんなわかっていた。けれど、誰もなにも言わない。


「硬いのもあるけれど、味もしないし、美味しくないわね」


「干し肉は塩が効きすぎ……しょっぱい……」


 みんな料理に不満があるのか、口々に文句を言う。


「足りなーい!甘いものが食べたーい!」


「しょうがないよカオリちゃん、我慢しよ?」


「うー、せらっちが言うなら我慢するー」


 渋々、といった様子でカオリは我慢する。

 だがカオリが言う通り、小さなパンが一つに干し肉が少しでは、女の子でもお腹いっぱいになる量ではない。


 先ほどの男のせいで微妙に居心地の悪い空気が流れていた。


 ――俺が標的にされたせいでここの空気は悪くなったようなものだ、どうにかしてこの空気を変えられないかな。


 何かないかと視線を巡らす。するとふと、ケントと目が合った。


 ――そうか、ケントならこの悪い空気も変えてくれるかもしれない。


 ケントはいつも元気な奴だ。少し空気を読めないところがあるが、今回に限ってはきっとそれがプラスに作用するだろう、と透真は考える。


 助けを求めて、ケントに視線を送る。

 すると、それが伝わったのかケントはこちらに向かって笑みを浮かべる。それから口パクでメッセージを伝えてきた。


 ――ま・か・せ・ろ、って言ってるのか?任せたぜ、ケント。


 メッセージはしっかり伝わったぞ、とサムズアップを送る。


 それを見たケントは満足そうにうなずくと早速行動を起こした。


「はぁ……prayしたい……」


「この状況で、まだゲームしたいなんて、レイちゃんすごいね」


「むふ、ガチ勢だからね……」


「レイっち、多分今のは褒め言葉じゃないよ」


 かしましく語らう女子にケントが近づく。

 なんだかさっきより、空気も良くなってきたしもういいんじゃないか?と透真が考えていると、ケントがとんでもないことを口走る。


「さっきから気になってたけどなレイ!オメー、口元にパンくずついてんぞ!!」


「ケントくん!?」


「ちょっ!?ケントっち!?」


 ――ケント!おまっ!!さっきの見てたろ!?


 思い出すのはprayカードを見せ合った時のことだ。

 レイは明らかにマイナス方向のリアクションをしていた。チームを組んでいたキョウコやカオリならまだしも、今日会ったばかりの俺やケントがあんなにオープンに触れていい話題ではないだろう。


「ケントさん、そういうのはあまり大声で言わない方がいいと思うわよ」


「そ、そうだよ、女の子なんだから」


「ケントっちデリカシーないよ!」


 女性陣から非難殺到のケントだったが、ケントは止まらない。


「でもよ!prayカードにも『食べ残しはちゃんと拭いてから』って書いてあったのに、早速食べ残しが付いてたら突っ込むしかねーだろ!?なぁ!トウマ!?」


 ――このタイミングで俺に振るなよ!


 ジロリと女性陣の視線が透真を射抜く。透真は慌てて弁明した。


「指摘するにしてもコッソリ教えるぞ俺は!」


「あ!裏切ったなテメー!さっきオレに言えってサイン送ってきたろ!」


「ちがっ!あれはどうにか空気を変えてくれってサインだったんだよ!」


 全然伝わっていなかったどころか、共犯者に仕立て上げられようとしている。


 疑惑の視線を投げかけてくる女性陣たちに、なんと弁明したものかと考えていると、ゆらりとレイが立ち上がった。


「……もういい」


「ひっ!」


 ギロリと、レイの視線がケントを貫く。


 やっと自分がなにをやったのかを自覚したケントだったが時すでに遅し。


 ゆっくりと、レイの右手が上がってくる。

 たっぷり時間をかけて、口元に付いたパンくずを拭ったレイは、そのまま右手をピストルの形にして構える。

 その手はケントに照準を合わせるように止まると、地の底から這い上がってくるような声が喉元から発せられた。


「prayで、10回殺ス」


 ーー女子が言っていいセリフじゃねぇぞ。


「す、すまんかった」


 絶対零度の言葉に、ケントも思わず謝罪を口にする。


 しかし、怒りが治らないのかレイはなおも止まらなかった。


「許さない...死をもって...うん?」


 子供が聞いたらチビるんじゃないかと錯覚するほど怒りを滲ませていたレイだったが、突然気の抜けたような声を出す。


「なに...この声」


「声?」


「うん..聞こえない?」


「俺は聞こえない。みんなは?」


「オレも聞こえないぜ」


「私も聞こえない」


「ウチも」


「わたしもなにも」


 みんな聞こえないと言う、しかしレイにはなおも聞こえるのかしきりに頭を捻っていた。


「どこから聞こえてるの...声紋認証?...アカウントリンク...?」


 ブツブツと何やら呟くレイを、みんなで見守る。すると、突然レイの体が光り出した。


「おい!なんか体が光りだしたぞ!」


「レイっち大丈夫!?」


「わからない...体はなんともない」


「でも、体が輝き出すなんて普通じゃないわよ」


「ホントに大丈夫なの?」


 話してる間も輝きは増す。

 とうとう直視できないほどの明るさになり全員が目を瞑る。しばらくして薄目で光が収まったのを確認して目を開くとレイは何事もなかったかのように立っていた。


「大丈夫か?」


 心配になって声をかけてみる。


「うん...でもこれ見て」


 レイが自分の体を見せるように両手を広げる。

 レイの姿はさっきまでしていた、なんの変哲もない無地の衣服ではなく、全身が迷彩柄の物騒な格好になっていた。


 自衛隊ではない、どちらかと言えば米軍の特殊部隊。

 もっと的を得た言い方をすればサバゲーの格好、というのが日本人のレイの見た目にはしっくりくるだろうか。


 そんな格好をしていた。


「この格好...」


 レイは自分の身におきた変化に驚いているのか、自分の体の至る所をペタペタと触れる。すると、やがて合点がいったのな神妙な面持ちで顔を上げる。


「わたしのやってたゲームと装備が一緒」


「一緒?似たような格好なだけじゃなくてか?」


「ううん、一緒...ワタシがやってたゲームは全身の装備の配置や中身を設定できた...ナイフの向きに至るまで全部一緒」


 手慣れた動作で太ももに挿したナイフを抜きながら、ナイフを眺める。


「これも、ワタシが課金して手に入れたコンバットナイフ」


「お、おもちゃだろ?」


 ケントが微妙に声を震わせながら尋ねる。


 ーーそういやさっき殺すとか言われてたな。


 チラリとレイの視線がケントを向く。しかしすぐに視線を落とすと、腰のホルダーから、一丁の拳銃を取り出した。


「これも、ワタシがカスタムしたグロック17カスタム。完全にゲームと同じ」


 手慣れた操作で、マガジンキャッチを操作し、マガジンを取り出す。中身を確認しながらボソリとレイが呟くのを透真は聞き逃さなかった。


「これ、エアガンじゃない...」


「どういうことだよ...?」


 嫌な予感がした。


「本物を見たことがないから言い切ることは出来ないけど、少なくともコレはBB弾じゃない...」


 マガジンから小指ほどの何かを取り出してこちらに見せてくる。


 それがテレビで見たことがある()()だとわかり、ゴクリと唾を飲む。


「それ、弾丸か?」


「多分...」


 素早く弾丸をマガジンに戻し、そのままマガジンも銃本体に戻す。本物の可能性が高まったところで、いよいよケントが慌てだした。


「のわー!殺さないでくれ!オレが悪かったから!」


「殺さないし...捕まるでしょ...」


 その言葉でケントはため息をつき、安堵した表情を浮かべる。

 自業自得だが、少し気の毒に思う透真だった。


「それより、これはどういうことかしらね?」


「レイっちに変な声が聞こえたと思ったら、全身が光りだして、ゲームと同じ装備になってた?」


「言い直しても意味が分からないね....」


 ーーいよいよここが現実なのかもわからなくなってきたな。


 狐につままれたような気分になっていると、突然あたりが揺れだす。


「地震か!?レイ!オメー何かしたか!?」


「何もしてないし...」


 2人は会話しながら辺りを見渡す。他の4人も同様に何事かと辺りを見渡していた。


 揺れはしばらくすると収まる。

 なんだ、やっぱりただの地震だったのか。と全員が緊張の糸を緩めようとすると、それを許さないように次は怒鳴り声が辺りに轟きだした。



「敵襲だーーー!!敵が来たぞー!!!!!!!!」






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