6話 なんだか謎解き要素まで追加されたようですよ?
「あ、そういやトウマに聞きたいことがあったわ」
お互いの自己紹介からしばらく、なんとなくお互いのゲームの話などで時間を潰していると、唐突にケントに話を振られる。
「なんだよ、聞きたいことって」
聞き返すと、それまで座って話していたケントが急に立ち上がる。
「お前が今着てる服って、寝てた箱のすぐ横に置いてあった小さい箱に入ってたやつだろ?それなら、こんなカード入ってなかったか?」
立ち上がり、ケントはおもむろに右ポケットからカードを取り出す。
それにならって透真も立ち上がり、両手をそれぞれポケットに突っ込んでみる。
すると、右手が何か硬いものに触れる感触があった。
ーー何か入ってる。
それを取り出して見てみると、免許証やポイントカード程の大きさのカードだった。
「これのことか?」
カードをケントに見えるように掲げ、問いかける。
しかし、ケントはカードがあるかないかよりも見て欲しいものがあるのか、短く「よく見てみろよ」と更に促してきた。
ーーいったい何を見て欲しいんだ。
疑問に思いながらカードをよく見てみる。
するとそのカードは透真やケントがよく知るものだった。
「これって、もしかして「prayカード」か?」
「そうだ。なんでこんなもんがポケットに入ってんだろうな?」
言われて再び視線を手元に落とす。確かに、なんでこのカードがこんなところに、と考えてしまう。
『prayカード』。MFG社がユーザー、一個人に対し一枚配布するカードで、主にアカウントの管理を行うカードだ。
大会では個人確認に使われるし、「pray」本体を買い替えた時は、これを差し込むだけで前のゲームデータなどを引き継ぐことが出来る。
要するに、prayユーザーなら誰でも持っているカードだ。もちろん透真も持っている。
だがこれをなくすと、再発行にはかなりの面倒な手続きが必要で、最悪ゲームデータが復旧出来ない、なんてこともある大変な代物である。こんなところにあっていいものではなかった。
もちろん廃ユーザーの透真も免許証や保険証レベルに大切に保管している。
「prayユーザーが自分のアカウントを結びつけるために使う一番大切なものだろ。それが2枚もあるのか?」
問いかけると、ケントは横に首を振る。
「2枚じゃねぇよ」
「じゃあ...」
「おまえのを入れて、6枚だ」
「.....は?」
「この場にいる全員の服に入ってた」
ーーどういうことだ?
視線を周りに向けると、各々がポケットからカードを取り出す。
確かに、全てが「prayカード」だった。
ーー誰がなんのために。
目が覚めたら妙な場所にいて、ゲーマーばかりが集まっているなと思えば、ここにあるには違和感しかないカードが全員の衣服に入っている。
意味不明な状況に困惑していると、まるで畳み掛けるようにケントに声をかけられる。
「それだけじゃない。裏面を見てみろ」
ーー裏面?確か裏面はカードの保管方法や注意事項、カスタマーセンターへの電話番号が書いてあったはずだ。
それをなぜ、見てみろなんて言うんだ、と透真は若干困惑しながらもカードを裏返す。
「なんだ、これ」
何も書いてない。
否、正確には一文書いてあるのだが、本来書いてあるはずのことが何も書かれていなかった。
「変だよな。それになんか文字がかいてあんだろ?なんて書いてある?」
言われてカードに書かれた文字列を見る。そしてそれを声に出して読み上げた。
「『その手に在るものを、手放さないように』って書いてある」
「そうか、トウマのはそう書いてあったんだな」
その言い方に妙な引っ掛かりを覚える。
「『そう書いてあったんだな?』お前のは違うのか?」
「ああ、オレのはこれだ」
ケントに手渡されたカードを見てみる。
「『試合のゴングは指から鳴る』?いったいどう言う意味なんだ?」
「オレが知るか」
カードをケントに返す。ケントはそれをポケットにしまいながらめんどくさそうに話しだした。
「表はみんな同じみてぇだが、裏面はみんな違うことが書いてある。...ったく、誰だこんなわけわかんねーことすんのは」
やーめた。と言わんばかりにケントは再び床に座る。自分で話を振っといて、考えるのがめんどくさくなったようだ。
ーーああ、ケントおまえ、この手の推理系は苦手だったな。
そういえばそうだったと、今頃になって思い出す。すると話に上がったからなのか女性陣たちも話に参加してきた。
「私の裏面には『貴女なら出来る』って書いてあったわ。貴女ってもしかして私の事?まさかね」
「ウチのには『とりあえず甘いものを』って書いてあった!確かに頭使うときには糖分がいいよね!ウチもゲームする前にはいつもお菓子食べるし!」
「ちょっと待ってカオリ。貴女たまに寝落ちしてるけど、お菓子食べて歯磨きしないで寝てるって事?」
「うぐっ!キョウコっち今はその話はやめよう!?」
「ダメよ、虫歯になるでしょう。きちんと歯磨きしなさい」
「ううっ、なんだかキョウコっちがママみたい...」
ーーやや脱線したような気がするが、この流れなら残りの2人にも聞いていいだろう。
コホン、とわざとらしく咳払いをして、残りの2人にも話を振る。
「2人のは?差し支えなければ教えてくれないか?」
「『食べ残しはちゃんと拭いてから』って書いてあった。...むぅ、いつもみんなに言われる...」
「わたしのには『あの人が好きだと言ってくれた仕草』って書いてありました。なんだか少女漫画に出てきそうなセリフで、ちょっと気に入ってます」
2人の反応は各々に違っていた。
レイの方は段々と落ち込んでいく感じで、セラの方は徐々に恥ずかしがっていく感じだ。
ーーレイの方は突っ込まないほうがいいかな?
無難に放置を決めた透真はセラに話しかける。
「詩的っていうのか?キレイな言葉だな」
「いい言葉ですよね」
セラが微笑む。やっぱり俺の選択は間違っていなかったな。と透真も満足げにうなずいた。
「そんで、何かわかったか?」
ケントに問いかけられる。
謎解きはめんどくさいが正解は気になるのだろう。それがわかった透真は、「まぁ、待て」とケントをとりなした。
「1度書いてみるか」
キョロキョロと辺りを見渡す。床も壁も石で出来た牢屋。その隅に寄せられていた、手頃な大きさの石の破片を手に取り、透真も腰を下ろす。
「まとめるとこうだな」
石の破片の尖った部分を使って、床に文字を書いていく。
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トウマ⇨ 『その手に在るものを、手放さないように』
ケント⇨ 『試合のゴングは指から鳴る』
キョウコ⇨ 『貴女なら出来る』
カオリ⇨ 『とりあえず甘いものを』
レイ⇨ 『食べ残しはちゃんと拭いてから』
セラ⇨ 『あの人が好きだと言ってくれた仕草』
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ーー書いてもわかんないな。
何度も書かれた文字列に目を滑らせる。しかし、これといってわかったことはなかった。
「何かわかったか?」
書かれた文字を覗き込むようにケントが横に座る。
「ああ、なにもわかんないって事がわかった」
「それなにもわかってねーじゃねぇか!」
ケントにバカなことを言いながらも、目線は文字から離さない。
「関係性、とかもなにもないの?」
ケントの隣、時計で言えば透真が6時でケントが5時、そして3時にあたる場所にキョウコが座る。
「どれどれ、この名探偵カオリがまるっと解決してあげようかな!」
「他のみんなはなんて書いてあるの」
「わたしも気になります!」
キョウコを皮切りにみんなが床文字の周りに集まる。
時計で言うと、カオリが12時、レイが9時、少し遅れてやってきたセラは透真とレイの間、7時〜8時くらいの場所にちょこんと座った。
「関係性っていっても、特に統一性もあるようには見えないぞ?」
「そうね、ならほかの角度から考えて見ましょう」
「他の角度っつーと、斜め45°とかか!?」
「バカはほっといて、真剣に考えましょう」
「なんだと!!」
ひどい言われようである。
「他の角度ってわけじゃないけど、キョウコっちのはキョウコっちに向けて言ってるんじゃない?」
「私も最初はそう考えたんだけれど、よく考えたら誰のものか分からない女物の服に入っていたから、私に向けて、とは限らないわね」
「...セラの「あの人」って....だれ?」
「わたしもわかんないよ...」
「レイっちのは完璧、レイっちに向けて言ってるよね」
「むぅ、そうとは限らない...」
「あ、でもさっきレイちゃん自分でいつも言われるって言ってたような」
「...セラ、余計なこと言わないで...」
「あわわ!ごめんね!」
「ケントさんのは、どういう意味なの?」
「オレもわかんねぇ」
「でも、まさにケントが考えたって感じの文章だぞ」
「おい!どういう意味だ!」
「そういう意味よ、ケントさんってもしかして残念なの?」
「なんだおまえら!!さっきから!」
結局語り合ったが答えは出ず、結局は気にしない。という方針で決定した。