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5話 なんだか似た境遇の人がたくさんいるようですよ?

 

「ねぇケントさん。そろそろこちらの紹介もしてくれないかしら?」


「え?」


 ケントと話していると、全く想定していなかった第三者に声をかけられる。

 勝手に2人だけだと思い込んでいた透真は、間抜けな声を上げながら振り向いた。


「感動の再会をしているところをごめんなさいね。でもスルーされるのも居心地が悪かったから...」


「え、あ いや、こっちこそ勝手に盛り上がって申し訳ない」


 話しかけてきたのは同い年ぐらいの女の子だった。

 あまり異性と話したことがない透真はしどろもどろしながら返事をする。


「おお!悪りぃな!つい話が弾んでな!」


「別にいいけど...あ、そうだ。せっかくだし貴方がみんなの紹介をしてくれない?」


「えー、めんどいな...」


「それくらい面倒くさがらないで、どうせ時間はたっぷりあるんだから」


「しかたねぇな」


 渋々、といった形でケントが了承する。まるで以前から知り合いであるかのようなようなやりとりに、少なからず透真は驚いた。


 ーー驚いたな。ゲーム廃人のケントにも異性の知り合いがいたのか。


 失礼な事を考えているなんて微塵も知らないケントは頭をポリポリかきながら、こちらを見やる。


「トウマ、こっちこい。他の奴らを紹介すっから」


 ぶっきらぼうに、ケントに呼ばれる。

 呼ばれてケントの方に行くと、思ったより牢屋は広かった。

 例えれば旅館にある修学旅行でクラス全員が寝泊まりする大広間、といった感じだろうか。

 そこまでは広くはないが、10人以上入っても全員横になれるくらいには広い牢屋だった。


「お、入り口から会話が聞こえてたけど、その人が新人さんかな!?」


 牢屋の奥に置いてあった長椅子に座る、これまた女の子に声をかけられる。この子も見た感じ年が近そうに見える。


「おう!そうだ!今からみんなに紹介すっからよ!しっかり聞いとけよ」


「いばらないで。私が言わなければ紹介するつもりなかったくせに」


「するつもりはあったぞ」


「どうだか」


「にゃはは、仲良いねー」


「「よくない!」」


 まるで漫才だ。


 ーー俺の紹介じゃなかったのか?なにこのアウェー感。


 なんとも言えない気持ちになる。

 しばらく漫才(?)をしたケントたちはやがて落ち着くと、一呼吸置いて話を戻した。


「とりあえず話を戻すぜ。俺の相棒の紹介だ。おーい!お前らも来てくれー」


 言われてさらに2人。隅っこに膝を抱くように座っていた少女2人が来る。1人は自分と同じか少し下くらいの年だろうか?もう1人はかなり幼く見える。


 全員で6人。男が2人に女が4人、牢屋の奥に集まっていた。


「よし!んじゃ紹介するぜ!こいつの名前はトウマ!俺の相棒だ!みんなよろしくしてやってくれ!」


 ーーえ!?それだけ!?


 思わずケントの顔を覗き込む。

 名前以外ほとんどなにもいってない気がするが本人はそれで満足らしく、清々しい顔をしている。


 ーーコイツに、この手のことは無理だな...


 思わず顔が引きつる。チラリと女性陣の方に視線を向けてみると、最初に俺たちに声をかけてきた子も似たような顔をしていた。


 ーーまぁ、子供じゃあるまいし、自己紹介くらいはな。


皆月 透真(みなづき とうま)だ。みなづきって呼びにくいからトウマでいい。ケントとはゲーム仲間だ。みんなよろしく」


 言ってから、俺も大したこと言ってないな、とトウマは少し後悔する。あまりケントの事を言えなかったようだ。


 だが、女性陣の反応は思ったより大きかった。


「ケントさんとゲーム仲間でトウマ...もしかして貴方、『阿吽』の『あ』?」


 予想外の質問に思わず目を見開く。


「え、なんで知ってるんだ?」


「知ってるわよ。てことは、まんざら私達初対面ってわけでもないみたいね」


「え?」


 言われて会ったことがあるかと、まじまじ顔を眺める。

 黒髪は真っ直ぐ腰の上くらいまで下ろしてある、綺麗な黒髪だ。触らせてくれ、なんてとても言えないが、もし触れればさらさらとまるで砂のように手から滑り落ちるのだろう。

 そう思わせるほどに、その黒髪は艶がある。

 顔もとても整っていた。目鼻立ちはすっきりとしていて目元は少しキツめの印象を与えそうだが、それさえも彼女の美しさを際立たせている。


 ーー知らん。


 はっきり言って女性と関わることなんてほぼなかった人生だ。こんな美人と会えば忘れるはずがない。


 それが顔に出ていたのだろう。彼女は俺の顔を見てクスクスと笑っていた。


「そんなにまじまじ見られると照れるわ」


「あ、ああ。ごめん」


「いいのよ。じゃあ改めて自己紹介するわね、私の名前は小野寺 京子(おのでら きょうこ)。年はケントさんと同じ18歳だからトウマさんとも同じだと思うわ。」


 ーーどうしよう。名前言われてもわかんない。


 申し訳なさが半端ではない。

 それがまた顔に出ていたのか、キョウコは今度は吹き出して笑い出す。


「ふふふ、顔に出やすいのね。わからないのも仕方ないわ、こっちでは初対面ですもの」


「こっちでは?」


 その言い方に引っ掛かりを覚える。


「そう、こっちでは。Mスタの準決勝、わかる?」


 Mスタ。それはMFGスーパースターバトルの略称だ。その準決勝。

 だんだんと記憶が蘇って来る。そしてハッとする。


「あーーー!!準決勝の戦略ゲー廃人か!!」


「そうそう、貴方に手駒がほとんど斬り伏せられた、戦略ゲーの選手よ」


 当ててもらって嬉しかったのか、キョウコは花が咲いたようにはにかむ。


「そう言うことか。いやーキョウコ...さんの戦術はホントに凄かったからよく覚えてるよ」


「覚えていてくれて嬉しいわ。あと、同い年なんだし、呼び捨てで良いわよ。私のは癖だから、気にしないで。よろしくね、トウマさん」


「ああ、よろしく」


 思わぬ人物に会い、テンションが上がる。

 握手でもした方のが良いのだろうか、と迷っていると、唐突にキョウコを押し除ける人物がいた。


「ハイハイ!自己紹介が、終わったならキョウコっちどいて!次ウチね!」


「わかったから、そんなに押さないで」


 キョウコを押し除ける形で割り込んできた女の子は、俺に2番目に話しかけてきた子だ。


 明るめの茶髪は、癖っ毛のように所々跳ねた髪型と相まって、とても元気な印象を受ける。撫でるとポフポフして気持ちよさそうだ。

 顔は綺麗系と言うよりはかわいい系だろうか、十分整っていて、なんとなく犬みたいな子だった。


「ウチの名前は深谷 香織(ふかや かおり)!よろしくね!あ!トウマっちって呼んでも良い??」


 ーーコイツ、ヤツ(ケント)と同じ匂いがする。


 嫌な予感を感じて、少し反応が遅れる。


「あ、ああ 別に大丈夫だよ」


「ありがとー!あ、ちなみに年は同い年だからトウマっちもウチのことはカオリって呼んでね!」


「わかった。よろしく、カオリ」


「うんー!あ、そういや、ウチもキョウコっちと同じチームだったんだけど覚えてる??」


「え!?」


 キョウコもそうだが、カオリもおおよそゲームをやり込むようなタイプには見えないので驚く。

 しかし、あの大会に出ると言うことはかなりの廃プレイヤーのはずだ。人は見た目じゃないな。と透真は自分を戒めた。


「キョウコっちは覚えてたからウチも覚えてるよね?」


 ーー困った。


 言われて、再び記憶の引き出しを全て引き出す。

 確か準決勝で戦ったのは女3人のチームだったはずだ。


 話題性を作るために、あえて4人制の大会をケントと2人で出場したのに、女3人で出場されたことで、そちらに話題をほとんど掻っ攫われたのでよく覚えている。


 キョウコはわかった。

 あの時戦った雰囲気と話している時の雰囲気がそっくりだったからだ。


 カオリは...正直思い出せない。というか俺はたしかあの時、戦略ゲーのキョウコともう1人としか戦っていない。1人はケントが相手していたはずだ。


 もう1人とはなんとなく違う気がした透真は、ケントとやりあっていた方だろうな、と当たりをつける。


「たしか、ロボットに乗っていた...」


「そう!!それがウチなの!いやー世界一のプレイヤーに覚えていてもらえてるなんて光栄だなー」


 カオリはとても嬉しそうにしている。その表情を見ていると、とても消去法で選んで当てずっぽうで正解しました、なんて事はいえなかった。


「強かったぜコイツ。なんせ空中をすごいスピードで飛び回るし、近づこうとしてもすぐ気づかれてたからなー」


「まあ、最終的にはやられちゃったんだけどね...」


 ケントの言葉に、カオリは不服そうに返事をするが、ケントをてこずらせたのならそれだけ強かったという事だ。ちょっと戦ってみたかったな、と透真は思った。


「ま!ウチはこれでおしまい!次!レイっち!」


「えー、ワタシも?」


「もちろん!挨拶、大事!」


「むー」


 渋々、といった感じでレイっち、と呼ばれた少女は前に出る。


 見た目は完全に中学生だ。いや、ワンチャン大人びた小学生でもいけるかもしれない。なにがいけるのか知らないが。

 髪は青に近い紺色のショートボブ?だ。その幼さと相まって少年と間違われることもあるかもしれない。

 顔はとても庇護欲を誘う、小動物のようなかわいらしい見た目をしている。

 少し垂れた目は元からなのか、単純に眠いのか、透真には判断がつかない。


 その少女は見た目通り、ダルそうに話し出す。


水野 怜(みずの れい)。同い年、よろしく」


「よ、よろしく」


 かなりクールな子のようだ。

 話すことはそれだけ、と言わんばかりに元の場所に戻ろうとしていたがそれを女子2人が止める。


「それだけー!?もっとほかにないのー!?」


「別に、無い」


「あるでしょう。ほら、初めてだったんでしょ?言いたいことがあるんじゃないの?」


 言われてレイはピシャリ、と固まる。


「.....っ!?」


 透真も固まる。


 ーーはじめてってなんのだよ!!


 思い出せない。いや、意図的に忘れたのか。

 頭の中でぐるぐる考えていると、再びレイが透真の前へとやって来る。


「.....」


 じっと見つめられ、透真は思わず息が止まる。


 どれくらいの時間が経っただろうか、たっぷり溜めを作ったレイは静かに口を開く。


「....たのは、初めてだった。」


「は?」


 思わず聞き返す。


「近接武器でやられたのは、初めてだった」


 ーーは?


 更に頭が混乱する。


 ーーなんの話だ?


「狙撃や撃ち合いならばあるけど、近接武器ではキルされたことなかった。初めて斬られた」


 ーー狙撃?撃ち合い?


 言われた言葉を反芻する。

 ふと、キョウコとカオリの顔が視界の隅に映り、透真は理解する。


「もしかして、キョウコと、カオリと同じチームだった、狙撃手か?」


 コクリ、とレイはうなずく。


 ーーマジかよ。


 透真は内心かなり驚いた。

 確かに透真は準決勝でキョウコともう1人、狙撃手を斬った。

 だが、あの狙撃手はかなりアクティブだった記憶がある。

 一発打つごとに、狙撃するポイントを変えられ、探すのに苦労したものだ。

 しかしあの時のイメージと目の前にある眠そうな子が同じ人物だとは思えない。


「位置を割りだわされないように一発ごとに場所も変えたし、足跡も消したのに...FPS界では近接キルはかなりの屈辱...」


 ーーあ、同一人物だ。


 透真は人は見た目じゃないと再度、強く自分を戒めた。


「てことは、ここにはウチら『メイガス』と『阿吽』が揃ってるんだね!準優勝した『ステーブ』は海外チームだからここには日本最強の廃人ゲーマーが集まってるってことだね!」


 カオリが嬉しそうに手を上げる。しかし透真はふと、疑問に思った。


 ーーあれ?『メイガス』は3人だよな?確かここにはもう1人...


 顔を部屋の隅へ向けると、相手はビクッと反応する。

 怖がらせるつもりはなかったのだが、透真はちょっぴり傷付いた。


「あぁ!ごみーん!せらっち!こっちにおいで!」


 透真の視線で1人忘れていたのを思い出したカオリは慌ててもう1人を連れて来る。


「ごめんなさいね、こっちで勝手に盛り上がってしまって」


「う、ううん、いいの。見てて楽しかったから」


「ホントにごめんよー!」


「カオリはもっと周りを見たほうがいい」


「気にしないで2人とも!本当に大丈夫だったから」


 その子は『メイガス』の3人を必死に慰める。

 その子を見た時、透真は鼓動が早くなったような気がした。


「自己紹介が遅れてごめんなさい」


 その子が近づいて来る。

 肩まで伸ばした髪が歩みに合わせてさらりと揺れる。

 ほんのり茶色が混じったような黒髪はおそらく地毛なのだろう。キョウコの黒髪とはまた違う艶やかさを感じた。

 表情はどことなく不安そうだ。表情のせいか、どことなく幸薄い印象を受けるような美人だった。

 早くなったような気がしていた鼓動は確実に早くなっている。


「いや、気にしないでくれ、こちらこそ遅れて悪い。トウマだ」


 無意識に、今まで差し出していなかった右手を差し出していた。


「セラっていいます。」


 とくにセラはなにも思わなかったのか。差し出された右手に握手を組み交わしてくれる。


 手が触れる。言ってしまえばそれだけのことなのに、透真はまたも鼓動が早くなるのを感じていた。それと同時に何か懐かしさのようなものも感じる。


 ーーなんだろう、この気持ちは。


 自分で自分が分からなくなってきた透真は思い切って尋ねてみることにした。


「あのさ、俺たち、どこかで会ったことあるかな?」


「え?」


 きょとんとした表情で見つめ返される。


 ーーなんだチキショウ、かわいいな。


 顔が熱くなって来るのを感じていると、横から茶々を入れられた。


「なに?トウマっち、それナンパ?」


「手慣れてるな!今度オレにも教えてくれよ!」


 言われてハッとする。


 ーー今の、完全にナンパ師のファーストコンタクトだ。


「ち、ちがう!ホントにそう思って言っただけで!」


「あやしい」


「動揺しているように見えるのだけれど」


「だからちがうって!」


 必死に否定する。

 だが、逆に怪しさが増したような気がする。


 どうしたものかと悩んでいると、セラが申し訳なさそうに口を開く。


「ごめんなさい...もしかしたら、皆さんと同じように知り合いかもしれないんですが...記憶がなくって...」


「記憶?」


「はい。ここに来る以前の記憶が、なにも思い出せないんです。唯一、「セラ」と呼ばれていたことだけ覚えていました」


 これ以上ないほど、眉をハの字にしながら項垂れるセラはとても気の毒だ。慌てて慰めようと、口を開く。


「セラが謝ることは何もないだろ、それにいつかきっと戻るさ、なぁ?ケント」


「おう!そのうちきっと戻って来るさ!探し物と一緒だ!そのうちヒョコッと戻って来るんだよ」


「ふふっ、そうですね。」


 初めて、セラの笑顔を見る。

 幸薄いなんてとんでもない、太陽のような笑顔がそこにはあった。








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