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3話 なんだか妙なところへ迷い込んだようですよ?

 


「うん?」


 深い眠りから、徐々に意識が鮮明になってくる。


 眠りから覚めた透真は目を開く。しかし、朝日が差し込んで来ると思っていた視界は、目を開いても暗いままだった。


 ――まだ夜が明けてないのか?早く起きすぎた?


 寝ぼけた頭で昨日のことを思い出す。

 確か昨晩は、日付が変わるまでは確実にケントとゲームをしていたはずだ。

 そしてその後は、うつらうつらしながら布団に入ったのを、なんとなくだが覚えている。


 なのに、夜明け前に目が覚める?


 俺、眠りが浅くなってきたのかな、不眠症?と若干の不安を覚えながら、とりあえず水でも飲もうかと上体を起こす。


「痛っ」


 しかし、起き上がろうとした拍子に頭を何かにゴチンと当て、起き上がる事ができなかった。


「いってーな、この野郎」


 寝起きの状態から最悪のやり方で意識を覚醒させられ、若干不機嫌になりながらも、頭を打ち付けたものの正体を探ろうと、暗闇に手を伸ばす。


 ーーなんだこれ、壁?違う。


 手を伸ばすと、仰向けに寝転がった自分の鼻先から約30cm程のところに壁のようなものがある。


 それがなんなのか、どれくらいの大きさなのか、手の届く限り、辿っていくと1つの答えに行き着く。


 ーー俺が今いる所、ベッドじゃなくて箱の中?


 一瞬、まだ夢の中なのかと混乱しかけるが、ズキズキと痛む頭のおかげで夢の中ではないと判断する。


 ーー拉致でもされたのか?でもなんで俺を?


 状況が全くわからない透真は、少しでも状況が分かればと思い、それまで恐る恐るしか触れていなかった目の前の壁を力一杯押してみる。


 もしかしたら開かないかも、などと考えていた当初の予想を裏切り、箱、いや蓋は思ったよりすんなりと開く。


 ぼんやりとした明かりが、透真の顔を照らす。

 慣れない明るさに思わず目をしかめるが、徐々目が明るさに慣れ、視界が良好になってきたタイミングでゆっくり上体を起こす。


「なんだよ、ここ」


 透真がいたのはまるで廃墟の一室、という例え方がぴったりなボロボロの部屋だった。

 そこら中にツタの様な植物が生い茂り、壁は緑一面。

 かろうじて植物が生えていない壁の部分は、明らかに経年劣化が目立つ、ひび割れたコンクリートがのぞいていた。


「ワケがわからない。ここはどこなんだ?」


 先ほどより意味不明な状況に困惑する。

 とりあえず散策でもしてみようかと立ち上がると、何時間眠っていたんだと思うほど全身が凝り固まっていた。


「いつつ...どんだけ眠ってたんだ俺」


 ストレッチで全身をほぐす。

 手首から腕、首、背中から腰と上から下へと、ほぐす場所を移していく。屈伸の段階に入った時に自然、視線を下に向けると信じられないことに気づいてしまう。


 ーーなんで、俺全裸なの。


 ストレッチして、頭もリラックスしたのかやっと気づいた。

 先ほどからずっと、透真は生まれたままの姿でいたのだ。


「なんで服までひん剥かれてるんだよ」


 このままじゃ捕まってしまう。


 何かないかと視線をめぐらすと、自分が入っていた箱?の横にもう一つ、小ぶりな箱が置いてあるのが目についた。


 ーーせめて股間を隠す布だけでも入っていてくれ。


 いちもつを隠すために、一抹の希望を胸に箱を開ける。

 中身は予想外で、しかしながら透真が欲してやまない服が入っていた。


「おおっ!よかった!サイズもぴったり、誰のだかわからないが拝借しよう」


 あとで謝ればいいかと、そそくさと服に袖を通す。

 まるで透真のためにあつらえたのではないかと疑うほど、ぴったりなサイズだった。


 服を着て、改めてまじまじと周りを見渡す。

 自分が眠っていた箱と服が入っていた箱以外、何もない廃れた部屋だった。


 ーーこの箱はなんだろう。


 部屋には特に何も無さそうなので、自分が眠っていた箱と服の箱を観察してみる。

 両方とも特になんの変哲もない箱だ。

 ただ、服が入っていた方の箱は収納バックほどの大きさしかないが自分が入っていた方の箱は、まじまじと眺めていると、なんだか棺桶に見えてきてしまう。


 ゾクリと、薄気味悪さを覚え、他には何かないかと部屋を物色してみる。といっても、箱以外には何もない部屋だ。そんなに時間はかからない。


 ーー出口、とかあるんだろうか。


 部屋の物色もそこそこに、壁を観察する。

 植物が生い茂っている壁を凝視してみると、植物の向こうに窪みのような模様が入っていることに気づく。


 ーー何かあるな。


 生い茂った植物を握り、剥がして行く。

 なかなかの量があったが、数分も毟ると、壁の全容が見えてきた。


 ーーやっぱりここが扉か。


 見えてきたのは大きな扉だ。コンクリートか石か、とても堅牢そうな印象を受ける扉だったが不思議なことにドアノブが付いていない。


「......」


 引けない、ということは押せばーーーそう思いながら、扉に触れ、精一杯押してみる。


 見た目に違わぬ重さに、苦戦しながらもやっとこさ人が通れる隙間を開ける。隙間を抜け、部屋を出てみると、外も同じ様に半ば朽ち果てた様な廃墟になっていた。


 ーーますますわからん。なんで俺はこんなとこに連れてこられたんだろう。


 カーブになっている廊下を歩きながら考える。

 途中、いくつか扉があったが、どれもびくともしなかった。


 カーブになっている通路をさらに歩いていくと分かれ道に差し掛かる。

 何も考えずにそのままカーブに沿って右の通路を歩いていると、元の自分が閉じ込められていた部屋へと戻ってきた。


 ーー円形の廊下か。ということは、さっきの分かれ道は左だったな。


 少し来た道をもどり、分かれ道まで戻ってくる。先ほどとは逆の左の道を歩いていくと、そちらは直線の通路になっていた。


 しばらくそちらを歩いていくと、やがて出口までたどり着く。

 恐る恐る外の様子を窺ってみると、そこにはまるでジャングルのような森がある。木々が所狭しと生えており、先は見通せない。


 ーー海外とかじゃないよな?樹海とか?


 いよいよ自分がここに連れてこられた意味がわからなくなってくる。

 このまま途方もなく歩けば、ひとけのある場所に出れるだろうかと一歩踏み出した時、突然斜め後方、自分が今出てきた建物の影から怒鳴りつけられる。


「貴様ここで何をしている!!」


 ーー人だ!


 心細かったのもあり、思わず笑顔を浮かべながら振り返る。

 しかし振り返った先にいた人物は明らかに怒っているように見えた。


「答えろ!!なぜこんなところにいる!」


「え?いや、なぜって言われても」


「ここは我らの聖地。よそ者が来ていいところではない!!」


「そう言われても、僕だってなんでここにいるかわからないんです」


 激昂と言ってもいいほどの剣幕で怒鳴る男をなんとか落ち着けさせようと、冷静に話しかける。

 話しながら、男をよく観察してみると、明らかにアジア系の顔ではなかった。

 どちらかというと欧米に近い、彫りが深い顔をしている。


 ーーなんで言葉が通じるんだ?ここは日本なのか?


 ここは日本で、この男も日本在住の男なのかと一瞬考える。


 ーーでもこの男、今我らの聖地とか言ってたな。


 日本に、欧米人の聖地なんてあるのだろうか?考えるが答えは出ない。

 答えは出ないが、状況は刻一刻と変化していく。

 激昂していた男は、透真が煮え切らない答えをしたのが気に入らないのか、さらに鬼のような顔になっていった。


「貴様!さては先ほど捕まえた奴らの仲間だな!!」


「いえ、だから僕はなんでここにいるかもわからないんですって。仲間もいません」


「そんな言い訳が通用するか!!一緒に来てもらう!!」


 ーーダメだ、話が通じない。


 会話は通じるのに、話が通じないのは存外、会話が通じないより疲れるんじゃないかと思い始める。

 このままじゃラチが開かない、と振り返り男を撒こうとするがそれはできなかった。


「手を頭より高くあげて、膝をつけ」


 振り返った瞬間。視線の先に弓を構えた男と目が合う。

 その男も、鬼の形相とまではいかないが、目に怒りを浮かべていた。


 ーークソ、万事休すか。


 丸腰で飛び道具相手は分が悪い、ましてや森の中だ、足場が悪い。

 諦めて膝をつく。すると最初にいきり立っていた男に背後から乱暴に腕を縛られる。


「一緒に来てもらうぞ」


 透真は状況が何もわからないまま、連行されていくのだった。





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