22話 なんだかお仕事にありつけたようですよ?
「ふむ、君たちの、立ち振る舞いや独特な名前、その髪色にこの見たことない銃と来れば信じてみてもいい気がしてきたな」
「ありがとうございます」
納得した様子のアイリスに、透真は礼を述べる。
「では、貴方方は、望まぬ形でここへきたと言うことか?帰る手立てはあるのか?」
出会ってすぐの頃と比べるとかなり砕けた口調になった気がするがこちらが素の方なのだろうか。
「あるにはあるのですが手がかりが少なくて…」
「ほう!して、その方法とは!?」
「ある人物を探せと言われました」
ーー殺せ云々の件は言わぬが花だな。
そっと胸の奥にしまい込む。
「その人物が故郷へ帰る鍵を握っているのか?」
「そう聞かされました」
「誰に?」
ーーすげーぐいぐい来るじゃん公女様。
質問攻めに遭い、若干の疲労と頭痛を覚える。
「後ろのの聖地に保存してあった映像です」
「映像?聞いたことがあるぞ!時間を切り取る魔道具だな!」
ーー録画する道具もあんのか、案外ハイテクだな。
銃といい、映像という単語への理解といい、この世界は思った以上に発達している可能性があるなと透真は予想を立てる。
「そうです。その映像が俺たち宛に」
「なんと!そんなものが!この聖地は過去、王国に厳重に調査されてもうただの遺跡と化していると結論が出たと聞いたが!?」
「なんか、隠し扉があったみたいです。」
「隠し扉!?それはどこへ!?」
「こちらです」
流れるような会話でアイリスは遺跡へと足を進める。それを慌ててすくめるものがいた。
「な!何をおっしゃいますかアイリス様!いくら公女とはいえ神聖な遺跡ですぞ!無断で入ってはなりません!それにこいつらは得体が知れません!信じてはなりませぬぞ!」
中へ行く気満々のアイリスへ先程までしゅんと項垂れていますヒルキスが噛み付く。
「何を言います!何か不審なことが起きた場合には報告せよと言ってきたのは王国ではありませんか!私は尋常ではないことが起きたと聞いたので確認しに行くだけです。」
「しかし!」
「くどいですよヒルキス!他の人間に噛み付く暇があれば反省していなさい!この者たちには私がついていくので心配いりません」
「くっ……」
「しかしながらあなたの言うことも一理あります。お仲間の皆様はここで少しお待ちいただけますか?何もしないと約束しますので」
「「えっ!?」」
カオリたちが驚いたように声を上げる。
透真はそんなみんなへ申し訳ないと、手だけでジェスチャーを行うと、5人は渋々としながらも納得した様子だった。
「こちらはそれで大丈夫です」
「ありがとうございます。…これでいいでしょう!あなたはおとなしくしていなさい!」
「く……分かりました…」
渋々と言った形でヒルキスは引き下がる。
その時、凄まじい形相でヒルキスは透真を睨みつけるが当人は申し訳なさそうに苦笑いするだけだった。
ーーー
「す、すごい!本当に地下への階段が出来ている!」
アイリスが驚いた声を上げる。
「入ったことがあったんですか?ここ、一応聖域なんでしょう?」
地下への階段を降りる道すがら、透真はアイリスへ問いかける。
「入ったのは初めてだが王国からの見取り図でここが一階しか無いのは知っていたからな。まさか隠し部屋があるとは」
ーさっきから、なんだ?王国って。
透真は気になったことを聞いてみる。
「先程から会話にちょくちょく出てくる王国とはなんなんですか?初めの挨拶ではここは公国だったと聞きましたが」
第何公国だったのかは忘れたので、公国とだけ透真は言う。
「我々人類は、箱庭諸島の真ん中に集まるように生活している。王国はその中心に位置している国でな。その周りに王国を守るように複数の公国があると言うわけだ」
ーーまた知らん単語が出てきたな。ここは島国なのか?
箱庭諸島という聞いたことがない単語のことはとりあえず隅におく。
「守るとはなにから?もしかしてあの…」
「鬼だ。いや、鬼だけではないな、人類を淘汰せんとする魑魅魍魎の類の者たちからだ」
ーーてことは、彼女らは普段からアレらと戦ってるってことか?
何もかもが日本とは違うため、聞きたいことはたくさんあったが謎の頭痛が思考を邪魔する。
ーーさっきからなんなんだこの頭痛は、風邪でも引いたか?
ズキズキする頭を押さえながら歩いていると、やがて目当ての場所へ行き着いた。
「おおお!なんだこれは!」
興奮するアイリスに透真は苦笑いする。
「俺たちもよくわからないんです。ただここを押すと……」
先程と同じ操作をすると件の動画が再生される。
それをアイリスはジッと静かに眺めていた。
「なるほど、なかなか大変な状況のようだな」
「そうですね」
今の透真たちの状況をなんとなくではあるが理解したアイリスは同情する様に話す。
「気が付いたら聖域で眠っていて、偶然聖域の隠し部屋を発見。隠し部屋からお告げで人探しを命じられると…なんだか神話の類でも聞いているようだな」
「聞く人が聞くと、そうなっちゃうんですかね」
こちら的にはそんな大層なものでもないのだが、と透真は考える。
「となれば、君たちはこれからどうするのだ?お告げの人物に心当たりでも?」
「いえ全く、それをどうしようかと話し合っていたところに…」
「我々が来たということだな、それは申し訳ないことをした」
アイリスが申し訳なさそうにしているので、透真は気にするなと目で伝える。それが伝わったのか、アイリスは違う話を持ち出してきた。
「貴方がたの事情は分かりました。今回に限っては公女アイリスの名の下、聖域への不法侵入はおおめに見ましょう」
「ありがとうございます」
透真は恭しく頭を下げる。
「だが、次は貴方がたを捕らえなくてはいけなくなります。くれぐれも無断で入らないように。もちろん他所の国でもだぞ?」
「はい、分かりま……ん?」
気になる言い方に透真は口が止まる。
「?どうした?」
それに違和感を感じたアイリスは問いかける。
「いえ、その言い方だと…他の国にもここみたいな遺跡…聖域があるみたいに聞こえたんですが、あるんですか?」
「いくつかはあるな。ここと関連があるかは分からんが」
「それって!」
透真は思わずアイリスへ詰め寄る。アイリスは驚いたのか、ビクリと肩が跳ねる。
「調べさせて貰うのは無理ですよね?」
「な…!」
跳ねた肩がワナワナと震える。
それに良くない予感を感じた透真は顔を引き攣らせた。
「今言っただろう!聖域だぞ!おいそれと入れるわけがないだろう!ましてや他国だ!私には裁量権がない!」
「す、すみません」
今言われてたな、たしかに。と透真は反省する。
しかし、それを見ていたアイリスはしばらく沈黙した後、はたと何かを思いついたように口を開いた。
「確かに私には他国の裁量権はない。しかし私なら他国の裁量権を持つ者に話はつけられるぞ」
ーーああ、なるほど。
アイリスの言わんことを理解した透真はアイリスの目を見る。
「取引ですか?」
「契約とも言うな」
「乗りましょう」
「契約の中身も、仲間への相談もしないのか?」
「あなた以上にコネがある人物にはもう会えないでしょうし、情報はそれだけしかありませんしね。アイツらにはあとで説得します。俺の国には善は急げって言葉があるくらいですから」
「面白い言葉だな。では契約成立だ」
アイリスがおもむろに片手を差し出す
その所作に心当たりがある透真は同じように片手を差し出した。
ーーここにも握手の文化があるんだな。
アイリスと手を握り交わす。
それは、契約の成立を意味していた。
「では、これからよろしく頼む。なにかやることがあるか?ないなら早速頼みたいことがあるんだが」
「ではまず、仲間たちに………?」
言いかけて、またしても言葉が止まる。
しかし先ほどとは違い、意図して止めたものではない。
ーーなんだ頭が。
我慢していた頭痛が、我慢できないほどひどい。
そのまま透真は立つことさえままならなくなり、その場に膝をつく。
「おい、大丈夫か!?」
アイリスから気遣う声が聞こえる。握手が出来るほど近くにいるはずなのに、その声はひどく遠くに聞こえる。
ーーあ、これダメなやつだーーーーー
そのまま透真の意識はそこで途絶えた。




