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21話 暴れすぎて、なんだか偉い人まで出てきたようですよ?

 

「待ちなさい!!」


 どこからか強い制止の声。


 その言葉と同時に透真の刀もピタリと止まる。


 ーー今の声、女か?


 声のした方向へ顔を向けると、そこには騎馬に騎乗した女性騎士がいた。


 ーー黄金の鎧、明らかに他の兵士より装飾が豪華だな。こいつがアイリスとかいうやつか?


 馬上からこちらを見つめてくる女性を注視する。

 髪は金髪。光を反射したような金というよりは黄色が輝いていると形容したほうがいいだろうその髪を、女性は肩の下まで伸ばしていた。

 眉も髪と同じ金だが瞳は海より青いブルーで、おおよそ日本で言う白人系外国人という容姿だ。見目麗しいその女性は自分の髪と同じ黄金の鎧を見に纏っていた。

 その鎧は豪華絢爛という言葉がぴったりなほどに装飾が施されており、一目でその他の兵士とは階級が違うことが窺える。


「ア、アイリス様!」


 首元に寸止めの状態で刀を止められ、目、鼻口からいろんな液体を垂れ流している男が、助かったとでも言いたげな声をあげる。

 しかし、男にとっては状況は好転していなかった。


「ヒルキス!!これはどういうことですか!!説明しなさい!!」


 その端正な顔からは想像出来ない程の怒声が辺りへ響き渡る。それにヒルキスと言われた男も慌てて佇まいを直し、説明を始めた。


「は、はっ!この男に何故ここにいるのかを問うたところ、余りに不遜な態度を取られたため拘束しようとした次第です!」


「それでなぜここへ連れてきた兵士の殆どが戦闘不能になっているのですか!相手はたった5人でしょう!そもそも!貴方に全体を指揮するほどの権限はないはずですよヒルキス兵長!」


「は、はっそれは誠に申し訳ございません……」


 見るからに肩を狭めしょんぼりしていくヒルキスなる男を透真はなんとも言えない気持ちで見ていた。


 ーー同情もしないし、自業自得だが、明らかに自分より年下の子に叱られるのは少し気の毒だな……


 などと考えていると、アイリスと呼ばれていた人物がこちらに視線を向ける。


「貴方、名前は?」


 ヒルキスほど傲慢ではないが少し上から目線+馬上から見下しながら問うてくる。

 その不躾とも取れる態度に、やはり透真はムッとした表情で言い返した。


「どこのだれか知りませんが、名乗りもせずに馬上から話しかけるのはこの国では一般的な作法なんですかね?」


 皮肉っぽく言った透真の言葉にアイリスはピクリと眉根を動かしたが、それ以外の反応は示さず黙って下馬する。


「……これは失礼した、私は第三公国領主ダグラス・レイディングの娘にして、第一公女、アイリス・レイディングと申す」


 ーー3とか1とかややこしいな、名前も長いし。


 優雅に頭を下げる姿には気品すら感じさせる。しかし、透真はそれ以外のことを考えるのに夢中で上の空だった。


「こちらは名乗りました。して、そちらの名前は?お聞かせ願いますか?」


 若干言葉にトゲがある気がするが透真はさして気にせず名を名乗る。


「失礼しました。この辺のことには疎いもので、どうかご容赦を。私の名は皆月透真と申します。皆月が苗字で透真が名前です。」


 なんとなく、高校生の時観た映画で、貴族が言っていたようなセリフで謝る。


「苗字持ちで前に…それは後ろの方々もですか?」


「はいそうです。」


 それを皮切りにそれぞれ挨拶を行う。

 なんとなくみんなぎこちない感じがしたがアイリスはそれにさして気にした様子を見せず、思案に耽っていた。


「全員が……たしかに髪の色もこの辺では見ませんね。この辺のことを知らずに、その苗字から先に名乗る独特な名乗り方、貴方達第6公国の人間ですか?」


 ーーいくつあるんだ公国。


 そんな疑問が浮かぶが、その質問は頭の隅に置き、質問に答える。


「いえ、おそらく違うと思います。」


「おそらく?なんとも的を得ない言い方ですね」


 怪訝な表情を浮かべるアイリス。

 まぁ、それもそうだよな、と透真は心中で同意する。


「というのも僕たちはおそらく、この世界の人間では無いのです。」


「……貴方、私をおちょくっているの?」


 怪訝な表情から怒りを滲ませる表情へと変わるアイリスに、透真は淡々と話を続けた。


「そう思われるのも当然ですが、我々にはこの世界の記憶がありません。明らかに別の世界だとわかる記憶はあるのですが、各々眠って目が覚めると、この皆さんが聖地だという建物の中にいました。」


 背後の廃墟を指差していう。

 その言葉を聞いたアイリスは次第に怒りの表情から困惑した表情へと、変化していく。


 ーー面白いくらい顔に出るなこの人。


「……なるほど。仮に、仮にその話が本当だとして、証明できますか?」


 ーー証明か。


 問われてアイリスや他の兵士たちを見る。

 その格好は中世の騎士そのものだ、若干ファンタジーもののアニメに出てきそうな装飾などは施されてはいるが文明レベルはあまり高そうには見えない。


「……レイ、ちょっといいか?」


「……え?…」


 なんで私?といったリアクションを起こすレイ。

 しばらくそのまま反応がなかったがやがて堪忍したのか、とぼとぼと透真の元へとやってくる。


「……何…」


「その、腰ので軽く何かを打ち抜いてくれないか?」


 軽い調子で言う透真にレイは若干不服そうな顔を浮かべるが、腰のホルスターから銃を抜く。


 そのまま、なんだそれは?というアイリスの質問に答えること無く、レイは手頃な木に向かって銃を放った。


「な、なんだ!?」


 突然の発砲音にアイリスの馬が驚き、嘶く。

 それをなんとか宥めながらも、アイリス自身も混乱していた。


「魔法か!?」


「いえ、小さな鉄の玉を工夫して飛ばしているだけです」


 その答えにアイリスは納得したようなしてないような反応を示すと恐る恐るレイへと近づく。


 無表情でそれを眺めていたレイは、やがて近づいてきたアイリスに頼まれ、銃を眺めさせる。


「……なるほど、実に興味深い構造だ。ここまで小型化してあるものは見たことがない。」


 感心したようにアイリスが答える。

 しかしその答えは透真の予想と違っていた。


「そうでしょう、そうで……いまなんて言いました?」


「ここまで小型化されたものは見たことが無い、と言ったんだ。にわかには信じ難いがまさか君達本当に余所から来たのか?」


 ーーその言い方だと、ここにも銃はあるのか?


 そんな疑問がよぎるが、とりあえずこの国の人間では無いと信じてもらえたので、透真は良しとした。

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