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19話 クールに見えて、実は気が短いようですよ?

 

「やることも決まったことだし、外に出よーぜ!」


 ケントが元気よく皆に語りかける。しかし、肝心な事を忘れているようだ。


「でも、確かわたし達、囲まれてるんじゃなかったかな?」


「そうだったな!で?どうするよリーダー」


 セラの質問に軽い返事を返したあと、ケントは透真へ話をふる。


「そうだな……レイ、レーダーはどうなってる?」


「だから……心音センサーだって……まぁいいけど…さっきと変わらない……囲まれてるだけ」


「ウチらが出るのを待ってるのかな?」


 カオリが疑問を口にする。確かに地下に降りる前からは幾分か時間も経っており、その間動きがないのは不自然だ。


「ここは聖域と言われてたから、聖域内での戦闘を避けたいのでしょうね」


「あー言ってたねーそんなこと」


 キョウコの推測にカオリが納得したようにうんうんと頷く。


「ということは、わたし達が出て行かない限り相手は手出しできないってことかな?」


「つっても、ずっとはいられねーけどな」


 ーーその通りなんだよなぁ。


 透真は辺りを見渡す。

 上よりも幾分か広いこの地下空間だが、特に目立つものは見当たらない。

 広い空間の真ん中に、大きく場所を取るモニターや機械があり、そこから様々な配線が左右に伸びている。

 それ以外には何もなかった。


 ーー水も食料もないんじゃ籠城は無理だな。


 隠し通路でもないかと思ったが上の階にもここにもそれらしいものがない。


 唯一、上の階には開かない扉が一つあったがおそらくキョウコの仮説通りのものが中にある筈だ。見る気にはなれない。


「うーん、隠し通路みたいなのがお城とかにはあるんだろうけど、ここにはなさそうだねー」


 同じことを考えていたのか地下の部屋を隅々まで見てきたカオリが疲れたように言う。


「……てことは……」


「正面突破だな」


「突破じゃない突破じゃ」


 物騒な事を言いながら指を鳴らし始めたケントを透真は慌てて竦める。


「とりあえず、話し合おう。言葉が通じる人間なんだ。まずは言葉でコミュニケーションを取る」


「めんどくせーな、拳で語りゃいいだろ」


 いかにもダルそうな顔を浮かべながら、ケントは透真に抗議する。

 しかし透真はそれを認めない。


「ダメだ。みんなお前みたいにスポーツ感覚で後腐れなく喧嘩するわけじゃないんだぞ」


「けっ!なんだよ、オレがアホみたいな言い方しやがってよ」


「実際、言動はアホ丸出しじゃない」


「なんだと!」


 ーーそれくらいでムキになるなよ。


 キョウコとケントが言い争う様に、透真は思わずため息をつく。その時、わずかに頭痛が走ったような気がした。





「じゃあいいか、なるべく穏便にを頭に入れて、みんな発言してくれ」


「おう!任しとけ!」


「ケントさんはもう、黙っていた方が良いと思うわ」


「なんだと!」


 結局地下室から、地上に戻ってくるまでの間、ケントとキョウコはずっと痴話喧嘩をしていた。


 ーー勘弁してくれ…。


 透真は思わず頭を抱えそうになる。先ほどから走っている頭痛も、心なしか酷くなっているような気さえして来た。

 痴話喧嘩なら他所でやれ、そう言ってやりたい気分だった。


「あー、ほら2人とも?もうすぐ出口なんだし続きは後でね?思う存分やってよー」


 さすがにこのままではまずいと思ったのか、カオリが助け舟を出す。

 2人はそれを聞いて納得はしてないが言わんとすることは理解出来るのか、若干不服そうに口を閉じた。


「トウマ……出口には人が沢山いる……」


 レイが険しい顔で話しかけてくる。


「みたいだな、流石に俺でも気配でなんとなく分かってきたよ」


 入り口に近づくにつれ、人の気配を感じるようになってきた。それは1人だけではなく、大勢の気配を漂わせている。


「わたしたち大丈夫だよね?何もされないよね?」


「ああ、大丈夫だ」


 多分な、と心の中で付け加えながらセラを励ます。


 やがて段々と出口が近づいてくると、外は既に朝日がのぼっていた。



「そこのもの!!とまれ!!」


 山を歩くからなのか、比較的軽装な鎧を着た兵士の1人に怒鳴りかけられ、出会い頭でいきなり高圧的な物言いに透真は若干むっとしながらも指示通りに立ち止まる。

 残りの面々もそれに倣って立ち止まった。


「貴様らの事は砦の者達から聞いている!なぜ逃げ出した!」


 ーーここにいる奴らは砦の人間じゃないのか。


 言葉の言い回しで、透真はなんとなく予想を立てる。


「我々が入っていた牢屋が火の手に囲まれそうでしたので、止むを得ず、避難させていただきました」


「嘘をつけ!牢屋は何か大きな力で破壊されていたと聞いたぞ!」


 ーー大きな力…….ああ、なんとか爆弾か。


 なんのことか一瞬思い出せなかった透真は一瞬返答が遅れる。


「あれは…….壁が脆かったので割と簡単に破壊できましたよ」


「今の間はなんだ!貴様何か隠しているな!」


 ーーめんどくさい。


 ここで話を拗らせてる場合じゃないのに、と透真は頭痛も相まって段々と怒りを募らせる。



「別に何も隠し事なんてありません」


 ーーあるけど。


 脳内でおちゃらけながら答える。こうでもしないとイライラが募る一方だ。


「嘘をつけ!さては貴様ら魔性の類か!砦が今まであそこまで攻めれたことは一度たりともない!貴様らが内側から手助けしたのであろう!」


 ーーよくもまぁ、そんなことが言えたな。


 怒りが溜まってきた透真は自然と口が悪くなってくる。


「一度も攻められたことがない?よくもまぁ、あんな兵の練度でそんなこと言えましたね。おたくの軍の人間、数人がかりで戦いを挑んでも鬼の1匹仕留め切れていませんでしたけど?」


「ちよ、ちょっとトウマっち!?」


 慌ててカオリが透真に抗議するように肩を叩く。

 しかし透真はそれを意にも介さない。


「何を言うか!我々が救援に向かったときには砦内の鬼はほとんど討伐されておったわ!それだけではない!あの悪名高い“馬頭鬼”も討伐されておった!」


 軽装の兵士の顔が勝ち誇ったように笑みを浮かべる。その顔に透真は嘲笑を浮かべた。


「馬頭鬼なら俺が倒しました。胴が一刀両断されていたでしょう?他の鬼も俺が出会ったのは全て俺が斬り伏せました。全て首を切り落としてあったはずです。お聞きしたいのですが砦内の討伐されていた鬼でそれ以外の倒され方をしていた鬼は何体いましたか?」


「なんだと…あれを貴様が全部やったと…では砦の者達は…」


 先ほどの勢いはどこへ行ったのか、兵士の言葉は尻すぼみになっていく。

 透真はここぞとばかりに追い討ちをかけた。


「なんですか?よく聞こえないんですが?何体なんですか?まさか一体もいなかったとは言いませんよね?」


「だまれ!卑怯な鬼どもは夜襲で攻めてきたのだ!我々だって遅れを取ることはある!」


「答えになっていないのですが?我々をわざわざ捕まえにくる暇があるのなら、その分剣の腕を磨けば良いんじゃないんですかね?」


「と、とうまくん落ち着いて!」


 カオリだけでなく、セラも止めに入るが透真はそれすらも歯牙にもかけない。兵士も透真も段々ヒートアップしていた。


「無礼な!我々アイリス様直属の近衛兵を侮辱するとはいよいよ許さん!脱走罪に聖域への無断侵入、加えて我々への侮辱罪で情状酌量の余地はない!総員抜剣!奴らを捕らえろ!抵抗するならば手足の2、3本は切っても構わん!」


 兵士はそれなりの地位にある人間だったのか、兵士の言葉を合図に付近の兵士全員が腰に差した剣を引き抜く。事態は一触即発の雰囲気だった。


「ちょ、ちょっとトウマさん!?最初言ってた事と状況が違う…のだ…け…ど」


 たまらず透真へ詰め寄るキョウコだったがその言葉段々と小さくなっていく。

 何事かとカオリやセラも透真顔を覗き込むと2人は思わず凍りついた。


 透真の顔は無表情だった。そしてその視線を一点に兵士達に向けている。

 先ほどまで嘲笑を浮かべながら相手を罵っていたはずなのに、それが遠い昔だったように、その表情から温度は感じられない。


「と、トウマくん…?」


「トウマっち…?」


 おそるおそる、2人は声をかける。透真はその声に反応したのか僅かに視線を2人に向け、口を開いた。


「すまない、面倒なことになった。申し訳ないけど3人とも少し下がっていてくれないか?」


 口調こそ優しいが表情は無表情のまま。その有無を言わさぬ雰囲気に、思わず3人は後ろへ下がる。


 それを気配で理解したのか、透真は3人に一瞥(いちべつ)もくれることなく、兵士は話しかける。


「お前たちそれがどういう意味かわかっているのか?」


「なんだと?」


 口調すらも凍りついたように、透真は先ほどの兵士に問いかける。


「刀を抜いて、相手に向けるって意味をわかっているのかって聞いてるんだよ」


「なにをほざいて」


 質問の意味がわからない、という風な兵士の返答に透真は何も言い返さない。


「ケント」


「なんだ?」


 そのかわり透真は今まで状況を静観していたケントへ話しかけた。


「お前の案を採用する。正面突破だ」


「お!面白くなってきたじゃねぇか!」


 待ってましたと言わんばかりにケントはその場で軽く跳ね、肩を腕を、首を回し始める。


「くれぐれも殺すなよ」


「それはオレよりオメーが気をつける事だろ?」


 女性陣が話しかけるのを躊躇うほど冷たい雰囲気を放つ透真に、ケントはあっけらかんと話す。


「準備は?」


「オウ!いつでも良いぜ!」


 全身のストレッチが終わったのか指をポキポキ鳴らし始めたケントが元気よく返事をする。


「それじゃ、始めるぞ」



 そこから始まったのは、一方的な狩りだった。


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