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18話 みんなで話し合うようですよ?

 


「今後の方針をまとめよう」


 透真は先程決めた冷たい決意を、おくびにも出さず話を切り出す。


「方針ってさっき言ってなかった?」


 セラが首を傾げながら答える。


「まぁ言ったな。でも多分思った以上に大変だと思うんだよ」


「1人は生きてるかわかんないし、もう1人は顔も分からないものね」 


 キョウコが透真の言葉足らずな部分を補う、それに透真は内心でお礼を言ってそのまま話を続けた。


「そうだ。この世界がどのくらい広いのか、どのくらい栄えているのか、俺たちの常識が通じるのか何も分からない世界で生死も顔も不明な人物を見つけるのは並大抵のことじゃないんだ」


「それにあんな化け物もいるしな」


 ーーそう、それが一番の違いだろうな。


 ケントはバカだが自頭はいいんだろう、今の状況を把握できているようだった。


「そうだねーあんなのがいるんじゃ人探しも楽じゃないよー。ところでトウマっちやレイっちみたいにうちらも変身?というかゲームのアバターって使えるのかな?」


「できると思うけど……どうやればいいのか……わかんない」


「そっかー」


 つい先程似たようなことを話した透真は視線だけをキョウコに向ける。

 向こうも同じことを思ったのかこちらを見ていたが、その視線からはこの話題に参加する意思がないように感じた。


 ーーまぁ、映像の男の話もしなきゃならなくなるかもしれないしな。


 透真はキョウコから目線を外すと全員を見渡す。


「それらを踏まえた上でみんなに聞きたいんだ、みんなはどうしたいのか」


 全員の視線が透真へと集まる。


「今みんなで話し合ったみたいに俺たちは何も知らない。知らないって事は何より恐ろしい事だ。なんせ予想も何も立てられないんだからな」


 透真は自分の嫌な過去を思い出しながら語り続ける。 


「化け物はもちろん俺たちにとって敵だろうが人間だってどうか分からないんだ。なんせ俺たちはこの世界の人間全てにとって部外者だ、しかも元の世界へ帰ろうとしてる。やがていなくなる人間なんて助けるメリットは無いしこの世界の理からも外れているかもしれない俺たちは厄介型の種かもしれない。それに」


 一度話を切って全員の顔を見る。


 皆の顔は真剣そのものだ。


 ーーよく考えてくれよ。


 透真はこれから言うことの意味が理解できるよう、先ほどよりもゆっくりと話す。


「俺たちが探す人物は、この世界にとって重要な人物かもしれない」


「それって……」


「最悪、人間側も俺たちの敵になるかもしれないってことだ」


「この世界すべてを敵に回す可能性も…あるってこと?」


 セラが震えた声で聞く。

 当たり前だろう。


 記憶もなく見知らぬ人たちと見知らぬ世界へ放り込まれ、どこから来たのかわからない故郷のためにすべてを敵に回す。


 その恐怖は計り知れない。


「あくまで最悪の場合はってだけだけど、そうなる可能性もある、と思う。だから聞きたいんだ」


 ーーみんな自分の状況を理解してくれた今、聞くんだ。


「みんな、そうまでして元の世界へ帰りたいと思うか?を」


 その質問に誰も声を出さない。


「かなり難しい状況だ、何年掛かるかもわからないし、自分の手をーーー」


 言いながら、透真は自分の手を見る。


 ーーまぁ、俺は今更か。


「血に染めることになるかもしれない」


「「「「!!?」」」」


「この世界は人がいる。言葉が通じる。俺たちが捕まってた砦しか見てないが、文化レベルもそこまで低くなさそうだ。元の家族に会えないのは寂しいかもしれないが、この世界で生きていくのも選択肢の一つだと思う。少なくとも、元の世界へ帰る手段を探すことよりはずっと簡単だと思う」


 ーーどの口が家族に会えなくて寂しいなんて言ってるんだ。


 思わず自嘲する。


「だからみんな、考えて欲しい。これからどうするのかを。多数決じゃない。自分のことだけをだ」


 それきり、透真も口を閉じる。

 今まで話していた人物が口を閉じると、辺りに漂うのは静寂。

 透真はその静寂が終わる時をただ無言で待ち続けた。






 ●●●●●●●●



「私は」



 どれだけの静寂が流れただろうか。

 時計もなく、地下にいるので正確な時間はわからない。


 1分か、10分か、はたまた1時間か。

 その沈黙を破ったのはキョウコだった。


「私は…帰りたい」


 誰も何も言わない。


「私には夢がある。それは、元の世界でしか叶えられないもの。だから、私は帰りたい」


「手が血で汚れてもか?」


 意地悪な質問だ。

 透真はそう自分で思いながらもその質問を投げかける。


「ええ」


 しかし帰ってきたのは強い肯定だった。


「ウチも、まだ諦められない夢がある!だからウチも帰るー!」


 カオリも決意が硬いようだ。その言葉には力がある。


「……ワタシも……やることがまだ残ってる……絶対帰る…」


 レイも言葉に覇気は無いが、その目に強い信念を感じる。


「こっちで喧嘩すんのもおもしろそーだけどな、やっぱチャンピオンがいねーとあっちの奴らが寂しがるもんな!!あっちにもヤバいやつはたくさんいるしよ!それに、オメーも帰るんだろ?」


「ああ」


「じゃあオレも帰るべ!」


「そうか」


 ケントらしい言葉に、透真は思わず笑ってしまう。


「トウマさんも帰るの?こっちで普通に生活できそうだけど?」


 先ほど茶化した仕返しだろうか、キョウコが意地悪な質問をしてくる。


「もちろんだ。俺にも絶対実現させたい夢があるからな」


「そうなの?気になるなー」


「いつか話すさ」


 決意を固めたからなのか、みんな少しリラックスしてきたように見える。ただ1人を除いて。


 彼女は俺たちと状況が違う。

 もしかしなくとも、一番苦しいのは彼女の筈だ。


 だから、彼女ーーーセラは、うつむいて何も言わず、考えている。


 しかし、やがて彼女もうつむいた顔を上げ、張り詰めた表情で声を出す。


「わたしも、帰る」


「後悔はしないか?」


「しない、とは言い切れない」


 透真の質問にセラはまた少しうつむいてしまうが、再び彼女は顔を上げた。


「ここに、わたしの居場所はないから。みんなが行くとこにわたしも行きたい」


「そうか」


 透真はそれだけ言うとセラに笑いかける。

 それを肯定だと受け取ったセラも笑顔を浮かべていた。


「てことは全員で元の世界に帰るってことだな!!」


「そうだね!一緒にみんなで帰ろー!」


「おー!!」


「…邪魔者は……撃つ……」


「こらレイ、物騒な事を言わないの」


「仲間は俺たちだけなのに、お前らテンション高いな……」


 一致団結したところでテンションが上がってきたのか、みんな少し興奮気味だ。


「周りがみんな敵でもオレたち最強ゲーム集団には敵なしだろ!!!」


「周りが全部敵!背水の陣だねーー!」


「カオリちゃんそれなんか微妙に意味違うかも!」


「……なんて言うのが…正解なんだろ……」


「そうね……こういう時は…

               僑軍孤進(きょうぐんこしん)

 かしらね?」


「誰からの助けもなく、孤立した状態で進むこと、って意味だったかな?」


「ホントに博識ねトウマさん」


「いや、それがポンと出てくるキョウコの方が頭がいいってさっきも言ったろ」


「てことは!!オレたち()()()()()()()()()()()()()!!だな!」


「「おー!」」


 ーー名前なんか決めてる場合か。


 呆れる透真の口元にもまた、笑みが浮かんでいた。




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