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14話 道に迷った時は、来た道を戻った方がいいらしいですよ?

 

「心強いよね〜」


「うん?なにが心強いの?カオリちゃん」


 女子たちの話し声を聞きながら透真は最前列を走る。


「トウマさんのこと?」


「そうそう。キョウコっち正解〜」


 自分のことを話していることに気づくが、透真は話を振られていないので反応しない。


「動きがなんだかスタントマンみたいだよね!」


 ーーアクロバティックって言いたいのかな?


 ツッコミを入れようか迷ったが、とりあえず静観する。


「あぁ...セラはゲームしないからそう見えるんだね...」


「ゲームしてる人たちから見ると違う風に見えるの?」


「というか、ゲーマー界隈では、アイツそこそこ有名人だしな」


「そうなの?」


「現状、世界1位のプレイヤーよ。トウマさんは」


「そうなの!?」


「ま!オレもだがな!でも、アイツには敵わねーから、アイツが最強だ」


「そんなトウマっちがゲームと同じ格好と動きで前を走ってるんだよ?」


「心強いに決まってる....」


「はえー、トウマくんってすごい人なんだねー」


 ツッコミを入れて話を変えるべきだった、と透真は後悔する。

 なんだって自分を褒め称えるような話を自分のすぐ後ろでされなきゃいけないんだと、透真は恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じていた。


「トウマさん、またいるわよ」


「あぁ、わかってる....」


 これで通算5匹目だろうか?

 馬頭を倒して、このおかしな力が使えるようになってからは3匹目の鬼がこちらに駆けてくるのを透真は視認する。


 ーーコイツもよく見たら、オレがやってた死にゲーの雑魚キャラなんだよな。


 お互い駆けているため、一瞬で距離が逼迫(ひっぱく)するが、透真はなんでもないように一瞬で首を斬り飛ばす。

 首から上がなくなった胴体は、まるで動力が切れたロボットのように動きを止め、その場に倒れ込んだ。


 完全に仕留めたことを、確認する。

 本来ならこんなに簡単に倒せる相手ではないのだが、急所を斬られたからなのか一太刀で絶命している。


 ーーこの辺は変にリアルなんだよな。ゲームと同じ部分もあれば違う部分もある。


 絶命した鬼は透真のやり込んでいた死にゲーに全編通して出てくる雑魚敵だった。

 しかし、雑魚敵と言っても()()()()()雑魚敵なので、気を抜くと返り討ちに遭う強さではある。


 それを知ってか知らずか、後ろではわずかに歓声が上がっていた。


「世界一って言われてから改めて見ると、なんだかすごく貴重な体験をさせてもらってる気分になるね」


「トウマさんと対峙すると、大体訳がわからないまま斬られるから、(はた)から見れるのはすごく貴重だと思うわよ」


「経験者は語る。だね〜キョウコっち!」


「オレだって...ゲームのアバターになれたら…」


「ケント…女々しい…」


 ーー慣れたもんだな、こいつらも。


 透真は恐れ半分、呆れ半分といった視線を向ける。


 ケントやレイはともかく、残りの3人は鬼を斬るたびに腰を抜かしたり、顔を青くして口元を押さえていた。

 しかし今ではすっかり慣れたように見える。なんなら、その3人の方がリラックスしているように見えると言ってもいいくらいだ。


 ーーやっぱり、女性の方がメンタルが強いもんなのだろうか?


 何かに落ち込んでいるケントを見ながら、透真はそんなことを考えた。








「着いたみたいだぜ」


「そうだな」


 走り出してから数分、直線距離ではそんなに長くないであろう距離を走り、ついに目的地に到着する。


「ワタシのC4より大きい穴...」


「私たちの目の前で突破された北門より穴が大きいから、あの馬顔はこっちから来たんでしょうね」


 みんなで見上げる先には、おそらく南門と言われていた場所があったのであろう。

 しかし今ではそこに、大きな大穴がぽっかりと口を開けていた。


「そんなにこの辺は燃えてないね」


「消したのかな〜?」


 カオリとセラが言うように、大穴の周りに火事は見えない。

 以前は燃えていたのだろうが、あたりはすっかり焼け焦げ、焼け野原になっていた。

 所々燻っているあたり、ついさっきまで燃えていたのかもしれないな、と透真は誰に言うでもなく見当をつけるが、その考えはケントに話しかけられ、うやむやにされる。


「それで?敵もいないし、これだけ穴がデカけりゃよゆーで外には出れるだろうけど、そのあとはどーすんだ?」


 女性陣たちも、「確かにそうだね」とお互い頷き合うと、透真に視線を向ける。


「俺の記憶が正しければ、この先に小さな森がある筈だ。そこに入ってから話そう」


「俺らがここに来るときに通ってきた森か?よく覚えてるな」


「今日の出来事だろ。覚えてない方が変だ」


「夜に森に入るの〜?危なくない?」


「多少は危険かもしれんが、鬼よりヤバいのは出ないだろ?」


「鬼が出たらどうするの?」


「俺が鬼なら、人がいるか分からない夜の森より、確実に人がいる街に行くと思う」


「逃げ出さないように見張りがいたりしないかしら」


「それなら、逃げ込んでくるか分からない森より、ここに見張りは置いとくだろ?」


 一つ一つ、質問にこたえていく。

 レイは特に質問はないのか黙っていた。

 ケントは「トウマに任しときゃ大丈夫だろうし、それでいいぜ!」と完全に人任せにしていた。


「まぁ、トウマっちがいれば鬼がいても三枚おろしだろうしね〜」


「確かにそうね」


「三枚におろして食べるの!?」


「いや、食べないから」


 セラの天然なのか分からないボケにツッコミを入れ、透真達は、森へと歩みを進めた。






「森っていうか」


「樹海…?」


 鬱蒼と茂った草をかき分けて進む。

 しばらく進むと、少し開けた場所に出た。


「結構歩いたし、休憩するか」


「そうだな、さすがに視界も足場も悪りーとこを歩くのはしんどいぜ」


「レイ、FPSのアバターなら、敵の接近に気付ける装備とかはないか?」


「心音センサーならある...」


 ーーあるんかい。


 ダメ元で聞いたつもりだったが、ゴソゴソと背に背負ったバックから何やら機械を取り出すレイをみて、思わず心の中でツッコミを入れる。


「珍しいわね、それ、滅多に使わないのに。確か付近にいる人がレーダーに探知されるんでしょ?」


「この装備…最後にゲームしたときに使った…かくれんぼ用の装備だから…」


「あー、だからちっちゃい銃しか持ってなかったんだね〜ネタ装備か〜」


「ネタ?かくれんぼ?よくわからないけどレイちゃん準備がいいんどね」


「てか、かくれんぼにレーダーってズルじゃねーの?」


 ケントが鋭い質問を投げかけるが、意図的にか無意識にか、レイはそれには答えない。


「ケント、まったくもって同意見だが、今は休もうぜ」


 その言葉を皮切りに、各々が座りだす。

 みんながそれぞれ腰を下ろしたのを確認して、透真も腰を下ろした。


「みんな休みながら聞いてくれ」


「あん?」


「さっき門のとこで言っただろ、落ち着いたら話すって」


「ああ、そうだったな」


 ケントが思い出したように、手を叩く。

 残りの4人も、各々がリラックスした姿勢をとりながら、顔だけをこちらへと向ける。


「みんな、薄々気付いてるだろうが…ここはなんというか、もといた場所じゃないよな?」


「そうだね〜。なんかゲームの中って言われた方がしっくり来るよ〜ここ」


「海外に連れてこられたって感じでもないもんね」


「だな。国が違うっていうか、世界が違うっつーの?異世界転生ってやつか?」


「生まれ変わってないから転移……?」


「どっちでもいいけど、それならカオリの言うゲームの中って方が現実的だと思うわ」


「まあ、情報が少なすぎるんだ。今はなんでもいいんだ。それは」


「じゃあ」


 ケントが言いかけた言葉に重なるようにして言葉を続ける。


「大事なのは、どこからここへ来たか、じゃないか?」


「どこって、それがわからないからみんなどこいく〜って話してるんじゃないの?」


「そうだな。俺たちはみんな昨日までは確かに日本の、自分の部屋で寝てた筈なんだ。なのに目が覚めたら知らない場所にいた」


「そうね。みんな知らないうちにこんな妙なところに連れてこられたのよね」


 ーそうだ、俺たちはみんな自分の部屋で寝てた筈なのに気付けば廃屋で眠っていた。


 情報を周知するように、共通の認識を得られるように話を誘導していく。


「そうだ、おまけに情報が少なすぎてここが何処なのかも何なのかもわからない。でも、ひとつだけわかることがあるだろ?」


「わかること?」


「みんなが目を覚ました場所は、同じじゃないか」


「聖域って言ってたか?」


「そうだ。この世界が俺たちがいる世界とは違う世界。仮にα(アルファ)世界とでもしとくか?そのα世界の住人が聖域って崇め奉るところで俺たちは全員、目が覚めたんだ。つまり」


「その聖域が私たちがここにいる理由の手がかりになる……?」


「そう言うことだな」


「そーゆーことか!ならみんなで行ってみるか!」


 ケントが元気よく立ち上がる。みんなもある程度回復できたのか、それとも目標ができてやる気ができたのか、顔に覇気が宿っていた。


「みんな乗り気でよかったよ。なら、手がかりを探しに行くか」


 それぞれが立ち上がる。

 記憶が正しければ、ゴールまではそう遠くない。


 みんなの準備ができたのを確認して、透真は歩きだす。



 ーーまあもしかすると、手がかりと言わず帰れるかもしれないしな。


 思うが口には出さない。

 希望は光だ。しかし、希望が幻影だとわかると人は大きくダメージを受ける。

 それは光が強ければ強いほど、立ち上がれなくなるほどに。

 なので、透真はその言葉を心の奥深くに封印する。

 



 この希望は、光が強すぎるから。





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