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10話 あっという間に慌ただしくなってきたようですよ?

 

「ひっ...!で、でたぁー!!!」


 その悲鳴を皮切りに、住民たちはまるでクモの子を散らすように逃げ惑いはじめた。


「オオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」


 しかし鬼もそれを黙って見ていない。

 先程と同じか、それ以上の咆哮をあげたかと思えば、次の瞬間には手にしていた大きなナタのような刃物を振り回していた。


「ぎゃあ!腕が!俺の腕がぁ!!」


 人が大勢集まっていたのもあってか、適当に振っているようにしか見えないのに、鬼のナタは血で真っ赤に染まっていく。


 悲鳴があちらこちらで聞こえる。鬼から目を離してもう一度開いた大穴へ視線を向けると、そこからさらに2匹、鬼が中へ入ってきていた。


「おい!どうするトウマ!」


 ケントが叫ぶ。この状況でも取り乱さないケントはリアルでも荒事に慣れていたんだろう。

 しかし、いまはそんな悠長なことを考えている場合ではない。

「わかってる!俺たちも逃げるぞ!」


「逃げるったってどこに!」


「とにかくここ以外からだ!!」


 怒鳴りながら振り向く。

 女子4人はあまりの非現実的な光景に唖然としていた。


「しっかりしろ!逃げるぞ!」


「あ...あ」 


 キョウコが必死に何かを言おうとするが取り合わない。

 ケントとそれぞれ2人ずつ手を取って走り出した。


「はぁ、はぁ、一体アレはなんなんだよ」


「アレが多分鬼なんだろ」


 ケントと話しながらも必死に足は動かす。

 しかし、北も南も攻め込まれたとあってか、集落はどこを見ても慌ただしく、騒がしかった。


「ここはどの辺だ!」


「知るか!お前より後にここに来たんだぞ!それにここは初めて通る道だ!」


 透真は自分が引っ張っていたレイとセラから手を離し、近くで逃げ惑っていた内の1人を捕まえる。

 捕まった中年の男は突然の状況に目を白黒させていた。


「質問がある。手短に答えろ」


「ひっ!?質問?それどころじゃ!」


「んなことわかってる!だから手短に済ませるから答えろ!」 


 殺意すら混じった透真に睨まれ、男は恐れ慄いたように頷く。

 それを確認した透真は手短に質問を口にした。


「今現在、北門と南門が襲撃されているな?他に出口はあるのか?」


「なんだってそんなこと...あんたもしかして、この砦の住人じゃないのかい..?」


 ーーここは砦なのか。


「質問にだけ答えないと、あんただって逃げられないぞ」 


「わ、わかった!出入口はその2つしかねぇ!」


「ならば、お前たちはどこへ逃げようとしてる」


「それがわかんねぇからみんな慌ててんだ!ただ、オレが逃げる途中に聞いた話だと、南の方はあらかた退治されとるらしい。オレは南に行くつもりだ!」


「そうか...引き止めて悪かったな」


「まったくだ!!」


 手を離すと、中年の男は目にも留まらぬ速さで走り去る。


 5人の場所へ戻ると女性陣たちも少し落ち着きを取り戻したようだった。


「落ち着いたか?」


「え、えぇ だいぶ」


「大丈夫」


「怖かった...」


「ちょっとちびったかも〜」


 それを見て大丈夫だと判断した透真は続けて話す。


「落ち着いてすぐで悪いが南に行くぞ」


「南に?」


「ああ、出入口は北と南にしかないらしい。北門は襲撃されたばかりだからな。南の方が多分マシだと思う。」


「確証は?」


「ない」


 きっぱりと言い切る。

 だが全員が他に手はないと思ったのか強く頷いた。


「よし、なら急ぐぞ」


 全員で一斉に走り出す。

 とにかく南へ南へとがむしゃらに走っていると、唐突に呼び止められた。


「おい!トウマ!」


 名前を呼ばれ振り向く。

 俺を呼んだはずのケントは、しかしながら俺の方を見ていない。


「なんだよ!」


 ケントの視線が向かう方向へ顔を向ける。するとそこでは砦の兵士たちと、先程北門から入ってきていた鬼の一匹が対峙していた。


「クソッ!怯むな!全員でかかれば倒せるぞ!」


 指揮官らしき男が他の兵士を鼓舞する。

 しかし、指揮官にも周りの部下たちにも、顔に浮かんでいるのは恐怖だけだ。


「む、無理です!十人で挑んだんですよ!?もう四人しかいません!撤退しましょう!」


「バカを言うな!明日まで待てば援軍が来る!それまデリェ」


 あっけないほど簡単に指揮官らしき男の頭が飛ぶ。

 それを見た残りの三人はついに何かが決壊したのか、一目散に逃げ出した。


 ーーこれはやばいヤバイやばい!


 状況の不味さを理解した透真はすぐにこの場から離れようとする。

 幸い、鬼は逃げ出した三人に意識が集中しているようでこちらには気づいていない。


「よし!..いまのうちに!」


「待って!あそこに子供が!」


 セラが指差す方向を見る。

 鬼のすぐ近くだが、ちょうど死角になって見えない場所に子供が2人隠れていた。


「隠れてるだろ!大丈夫だ!」


「ダメ!あそこなら少しアイツが移動したらバレちゃう!」


「おい!セラ!」


 必死に止めようとするが、間に合わない。

 セラは子供のところへと駆けていった。


「クソッ!」


 追いかけるように透真も走り出す。後ろから何か聞こえたが聞き返す余裕はなかった。


「もう大丈夫だからね。おねえちゃんと逃げよう?」


 セラがこども2人を必死に説得する。

 こどもたちは思ったよりも従順に言うことを聞いてくれたのか、透真がたどり着く前には既に3人でこちらへと逃げ出し始めていた。


 ーーよし、これならバレずに...!!


 そう思ったのも一瞬、ギョロリと鬼の目がこちらを向く。

 全身から汗が噴き出すのを、透真は感じていた。

 鬼がセラと子供に狙いを澄ましてナタを振り上げる。

 セラたちはそれには全く気付いていなかった!


 ーー声をかけてたんじゃ間に合わない!


 何かないかと辺りを見渡す。あたりにあるのは兵士だった肉塊だけだ。


 ーーいや!違う!


 鬼が醜悪な笑みを浮かべるのを横目で確認しながら、透真は死体に駆け寄る。

 案の定、死体は剣を握って絶命していた。


 ーー剣があれば!


 滑り込むようにしてそれを取り上げる。

 そのままセラの方へ走り、手の届く距離まで近づくと思いっきりセラを手前へ引っ張った。


「キャッ!」


 悲鳴を上げながらセラが倒れ込む。セラが手を握っていた子供たちも似たように倒れ込んでいた。


 それを気配だけで把握した透真は、慣性の法則に従ってさらに一歩、前へ出た。


「オオオオオオオ!!!!」


 鬼が右手に持って振り上げたナタを、自身の左肩から右足に向けて切り落とす。


「うおおおおお!!!!」


 それに応えるようにして、透真も右手は剣の柄へ、左手は手から肘まで刀身の部分に添えるようにして構えた。


「ぐっ...!」


 正面から受けるのではなく、あくまで剣筋を逸らすように受ける透真だが、鬼のナタのあまりの質量に思わず苦悶の声を上げる。


「らぁぁ!!」


 ジリジリと火花を散らしながらもなんとか受け流せた鬼のナタは地面に深く食い込んだ。


 ーーよし!!


 一転、攻勢へと転じた透真は食い込んだナタを足場に駆け上がる。

 しかし、それを嫌がった鬼が手を振り離した為、透真も攻めきれず、距離を取る。


 ーークソ、案外頭が回るじゃないか。


 鬼がナタを抜こうとするのならその隙に斬りつけようとするが、鬼はそのまま爪を立てるように構える。


 先ほどの行動で、ナタを取りに行けば危険と判断したようだ。


 ーーおまけに洋剣は使いにくい。初めて握ったぞ。


 手元にあるのは騎士が腰につけるような洋剣だった。

 生まれてこの方日本刀しか扱ったことがない透真にはどうにもしっくりこない。


 ーーどうする。間合いは向こうが長い。それに、当たれば一撃だ。


 じりじりと鬼が間合いを詰めてくる。その手にギラ付いている爪は鋭い。一目で人間が喰らえば必死の一撃だとわかった。しかも鬼は自分の爪が届く間合いまで詰めてきているようだ。


 どうやって打開しようかと思っていた透真の背後に唐突に人の気配がする。


「ねぇ、トウマ...今はいざという時だよね?」


 背後にいたのはレイだった。

 レイの言わんとしたことを理解した透真はすかさず「そうだ」と返事をする。

 それにレイは満足そうに頷く。


「どうすればいい?」


「10秒だけ、注意を俺から逸らしてくれ」


「それなら簡単」


 言いながら、レイは腰から銃を二丁抜く。


「10秒と言わずにもっと逸らしたげる」


 ーー言ったなこのやろう。


 それを聞き、透真は走り出す。

 それに反応した鬼が、手を開き爪で切りつけようとしてくるが、ダダン と子気味よい音が聞こえると次の瞬間には目を押さえて呻き声を上げはじめた。


 ーーナイスアシストだ、レイ。


 呻き声を上げる鬼の股下にスライディングするように飛び込む。


 鬼の股を潜り抜けると振り向きざまに、横薙ぎに剣を振り抜いた。


「ガァ!!」


 両足のかかとより少し上、人間で言うアキレス腱の部分を切られた鬼は、自立出来ず、膝をつく。


「足元がおろそかになってたぜ」


 膝をつき、目を押さえながらうずくまったような姿勢になった鬼の頭が人間の頭と同じほどの高さに来る。


 その一瞬を待っていたかのように透真はその首へ、持っていた剣を思いっきり突き刺した。


「....!!」


 鬼の口から血が溢れ出す。

 必死に抜こうと剣を握るが、透真も抜かれないよう、力を込める。


 徐々に鬼の力が弱まってくる。

 最後に完全に力が掛からなくなったところで、ようやく透真も剣から手を離した。


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