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一話 挨拶がわりの独白をするそうですよ?

 

 "普通"に憧れてた。


 それは、俺自身が覚えている中でも、少なくとも小学生の頃からはそう思っていた。


 容姿は普通だ。

 身長も平均だし体重もまぁ鍛えている分、少しは重いが太っているわけでもない。

 顔だって不細工だとは言われたことはないがカッコいいなんて、あまり言われた記憶はない。

 髪だって黒髪だ。剛毛で、寝癖が治りにくいのを除けばその辺にいる人と変わらない。


 ただ。


 俺の家が普通じゃない。

 興味が無かったから、詳しく聞くことは終ぞなかったが、なんでもウチは、室町時代末期に生まれた古流武術を代々継承している家系らしい。


 一人っ子だった俺は、やっとこさ立って歩くことができた時分には剣を持たされていた。覚えていないけど、そうだったと聞いている。


 だけど少なくとも、箸の持ち方を教えてもらうよりも先に、刀の握り方を教わったのは確かだ。


 そんな家でも、もし俺が才能もクソもない、立ち上がってもヨタヨタしか歩けないただの赤ん坊だったなら親父も手加減したんだろうが、なまじ才能があったのがいけなかった。


 天才だったらしい。


 それが親父のやる気を刺激したのか、下手したら死ぬような訓練を幼子といっても差し支えない年からやらされた。


 それくらい普通じゃない家庭だった。


 でも、それが普通だと思っていたんだ。


 だって、公園やおもちゃ屋なんてもってのほか、外出といえば山籠りで、家族以外の人間と接することなんてなかったんだから。




 自分の家が普通じゃないと知ったのは小学生になってからだ。


 親父もせめて最低限の教養くらい付けさせようとでも思ったのか、はたまた義務教育くらい受けさせねばまずいとでも思ったのか、興味もないし知りたくもないが、学校だけは、普通に通わせてもらえた。


 そこで初めて、自分の生活がいかに非日常的で、常識の範囲外にあるものなのか知ることができた。


 まず会話が噛み合わない、こっちはいかに人を効率的に仕留めるかしか教わってないのに、周りの子供達は戦隊ヒーローやアニメ、週末に家族とお出かけみたいな話で全く話が合わない。


 当時を思い出してみると、「〇〇ちゃん、自殺するんなら手首は横じゃなくて縦に切ったほうがいいよ」なんてアドバイスをするのだ、楽な死に方を知っている小学生なんて不気味だったと思う。ところで〇〇ちゃん元気かな。


 流石にまずいと思った当時の俺はなんとか話を合わせようと、必死に努力した。


 幸い、小学生なんて、かけっこで一番取れたらモテモテな年代なのでハブられることもなく、段々とみんなに溶け込むことが出来ていった。


 そんな生活が3年ほど過ぎたある日、珍しく親父が泊まりがけで出かけると言い出した。


 理由は知らないが、当時の俺からすれば、悪鬼羅刹と言っても過言ではない親父が数日いないというのは、かなりのビックイベントだった。


 親父から解放された初日、放課後はいつも断っていた友達と公園に遊びに行った。

 遊具という、楽しむために作られた道具がこの世にはあるんだとかなり感動した記憶がある。


 その後に行った友人の家、そこで俺は、生涯忘れられない経験をする。



 ゲームだ。



『pray』と言われる、当時発売されたばかりの世界初のフルダイブ型ゲームハードはかなりの衝撃を俺に与えた。


 どれほどの衝撃だったかというと、その時の光景が今でもはっきりと思い出せるほどだ。

 テーブルに置いてある『pray』の向きから友達と自分の立ち位置、なんなら友達の部屋の物の配置までしっかり覚えている。


 当然ゲームの内容にも大層感動した。


 どれくらい感動したかというと、先程、悪鬼羅刹あっきらさつと罵った親父に買ってくれと言い募った程だ。


 当然ダメだと一度は断られたが、食い下がらず、修行だろうが稽古だろうが頑張るから!と再び食らいつくと、その迫力に気圧されたのか、修行をサボらないことを条件に買い与えてくれた。


 今まで物をねだってこなかった俺が、必死の形相で頼み込むものだから、親父も珍しがっていたんだろう。あの時が最初で最後の親父に感謝した瞬間だった。


 それからの俺は文字通り、修行と学校の時間以外はゲームに費やした。


 睡眠なんてもってのほか、そんな時間があったらその時こそが俺のゴールデンタイムだ!と言わんばかりにやり込んだ。


 当然学校で授業なんて受けられるはずもなく、学校には寝るために通っていたようなものだった。


 そんな生活が続いて、高校生の時のことだ。


 義務教育だけで十分だと言っていた親父を、なんとか言いくるめて高校に通ってい時、俺はハマっていたゲームで世界ランキング1位になった。


 今まで戦ったライバル達や、俺がゲームをしていることを知っている友人達みんなが手放しに祝福してくれた。

 あの日が今でも忘れられない。俺の人生で一番嬉しかった瞬間だ。


 それは、人殺しの技を覚えていただけでは決して得られなかっただろう、達成感を得ることができた。


 でも親父はそれがおもしろくなかったらしい。

 ゲームをやめろ、と言われた。


 俺はイヤだと、強く反発した。


 お互い一歩も引かず、一時は真剣で斬り合いになる寸前までいった。険悪な雰囲気の中、仲裁に入ってくれたのはお袋だった。


 今まで、親父の言うことには逆らわず、いつも親父の言いなりだったお袋が、初めて俺の味方をしてくれた。


 そのおかげで俺は今、夢を叶える一歩をこうして歩むことができている。


 



 俺はゲームを作りたい。

 俺があの日味わったような、いやそれ以上の感動や興奮を、世界中の人たちに与える様なゲームを、俺も作りたいんだ。


 明日から、俺は社会人となる。


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