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性と姓

作者: 五月


1日目


今日彼女ともう会わない約束を取り付けてきた。深い理由は特になかったが強いてあげるならめんどうになったからだと彼女は言っていた。

「ならいっか。もう逢えないけどいいの?」

と言うと

「もう合わないからいいよ。」

と返ってきた。

さすがだなぁと感じたのはここにユーモアを含めた(?)返答をしてきた点だ。とはいえしばらくなかった一人の時間をこれから精一杯楽しもうと自分に言い聞かせるように思った。


2日目


無理だった。

近くに異性がいなくなった瞬間に性欲は湧き水のようにとめどなく溢れ出てくる。ムラムラと言う言葉を作った先人は偉大だ。この感情は誰がなんと言おうとムラムラである。異論は認めない。

1人で処理しようかと思ったがプライドのようなものが邪魔をする。昨日まではしばらく目を合わせていれば性欲を処理できていたはずの相手がもう居ない。しかしいなくなったからには仕方がない。

呼ぼう。

誰を呼ぶかはスマホの画面の中のサイトからである。ここまで言えば察しの良い方なら分かってもらえるだろうか。いや、分かってもらいたい。まぁデリバリーヘルスと言われるものである。一種の風俗だ。何をするにしても初めての行為は緊張と同時に不安や期待が横にいる。今回は正直、値段は相場の中の下といったところだったようなので不安が優勢だ。

まずは予約だ。

電話の番号が出てくる。

押してみた。

意外とスムーズにことが進んでいく。

だがしかしここで困ったことが発生する。電話口の向こうでオプションは何にするかと聞いてきている。しっかりとサイト内の説明欄を読んでいなかった自分が悪い。とりあえず書いてあるものを読み上げるように5つほど挙げてみた。よしこれであとは待つだけだ。

時刻はあと20分で日付が変わる。


3日目


まずはシャワーに入ろう。女の子が来る前にある程度の準備が必要になることは21年間では学んでこれなかった事だ。勉強になる。こんな時に限ってシャワーの温度が一向に上がらず冷たい水が出続けている。風邪をひいてしまうことよりも心配なのは明らかに縮んでいることだ。なにが、とまでは言わなくても男性の方ならわかってもらえるはずだ。しかし本当にまずい。このまま行くと女の子が来る前に何らかの処置を施す必要が出てきてしまう。そんなことを考えているとインターホンが鳴った。

女の子は想像より少しだけヒップサイズが大きいがまぁこんなもんだろう。ぱっと見た感じは、ギャル。よく見てもギャルだ。サイトで見た時よりもギャル感が増していたがこれはこれでいいね。という事で会話は進んでいく。

「料金先で15700円です。」

「おつりってありますか?」

「おつりは、、あっありますよ。はい。ありがとうございます。」

「すいませんまず今回初めての風俗なので至らぬ点が多いですがよろしくお願いします。」

「至らぬ点ってなに??」

聞けば彼女は19歳。高校は2年の時に2度留年して辞めたそうだ。今はこの業界で楽しめていると言う。とはいえ、さっそく処理を開始してもらいたい。心配していた冷水現象も少しはマシになっていた。


4日目(朝)


昨日はあの後無事に処理に成功した。

良かった。

帰りにLINEを聞かれたので教えるとニヤリとした笑顔を見せて出ていった。その後はそのまま落ちるように眠ってしまい気付けば1日何もすることも無く終わっていた。

歯を磨きながら、どっかの誰かさんみたいに処理後のケアなども気を使う必要がなくて楽だ。なんて思っているとLINEで続々と文やスタンプが送られてきていた。

[今日はありがと!楽しかった笑また遊ぼうね♡]

典型的な営業メールというやつだ。実物は見た事ないがきっとこんな感じだろう。世の中にはこんなメッセージを真に受けてお金や物を貢いでしまう人間もいるようだがそこまで耄碌していない。ここはきっちりとお礼だけ言って終わろう。しばらくは会うこともないと思う。

[ありがとう!!俺も楽しかったよ!また遊ぼうね!]

と送るとすかさず既読がつき

[ほんとに?!嬉しい!じゃあ明日カラオケね]

と来た。

なんの冗談だろう。いや、いいんだがこれは普通のことなのだろうか。お店の客とキャストがお互いのプライベートな時間で遊ぶことは果たして世の中どれくらいあるのだろうか。いや、そもそも明日この子は仕事だったはずだ。サイトに書いてあった。

[明日仕事でしょ??笑]

と送ると電話がかかってきた。

「明日カラオケ行かない??」

「いいけど仕事はどうするの?」

「んー休んじゃう!」

「すごいな。」

「じゃあ夜7時くらいに迎えきてね!」

「いいけどどこに?」

「ローセットホテルってビジホだよ。」

「ビジネスホテルか。わかったよ。」

「おっけい!んじゃよろしくー!」

このまま電話は切られた。


4日目(夜6時55分)


車を1時間ほど走らせ、例のビジネスホテルに来ると昨日見た顔をまた見ることになった。

嫌ではない。

さて、ここでこの子から多くのことを聞かされる。まずはルールだ。

1.このことはお店には言わないこと。もし言ったら怒られる。(特に客が)

2.愚痴を聞くこと。

3.お腹空いた。

との事だ。3はおそらくご飯に連れてけという意味だろう。まぁいい。まずはカラオケに行ってルール2をクリアしよう。

カラオケの受付で50近くのおじさん店員に怪訝そうな顔で見られた。たしかにこのタイプの人間がこんなギャルとカラオケは珍しいだろうがそこまでの顔をしなくてもいいだろう。とりあえず部屋に入るととある感情がスっと顔をのぞかせた。

ムラムラだった。


4日目(深夜)


今は元カレの話を運転しながら聞いている。相当なDV男だったようだ。処理の強要も強くよく喧嘩になっていたようであまりその手の行為はいい思い出がないそうだ。それでもこの業界でやっていかなければ生活ができないためここにいるのかもしれない。そう考えると先程カラオケボックスで発生した感情は少しだけ引っ込んだようだが未だに気配を残している。先程行った海鮮居酒屋でも終始元カレの話をし続けていたため今日はそのために呼ばれたのだろう。ここでふと気になったことを聞いてみる。

「客とキャストがプライベートで遊ぶのって普通なの?」

と聞くと

「普通じゃないよ。」

と返ってきた。

ここで感情の昂りを感じる。

「顔が元カレに似てたの?」

と聞くと

「違うよ。ただ話したくなった。」

と返ってくる。

これはイケる。ただ果たしていいのか。これで部屋に怖い大人たちが沢山やって来るパターンも想定して行動しなければいけない。よし、慎重に行こう。

「ここら辺のホテルって高いかな。」

「え、私お金払わないからわかんない。」

「そっか。この後どっか行きたいとこある?」

「んー帰ろっか。」


終わった。

完全に終わった。

その気になっていたため期待しすぎていたのかもしれない。このままビジネスホテルに向かい家に帰りプライドと戦いながら処理するしかないか。よし、諦めも肝心である。それはそうだろう。本来ならお金を払って行ってもらってるんだ。それをたかだかご飯に行って遊んだくらいでできるなんて勘違いも甚だしい。なんて思っていると例のビジネスホテルに着いた。


4日目(11時3分)


車内では異様な空気が流れている。それはそうだろう。ほとんど誘ったようなものなんだから。しかもそれを断られたようなものなのだから。こうなると話の内容も気を使う。

「もし明日死んだらどうする?」

「え?それはどっちが??」

「どっちでもいいよ。」

「えー、私が死んだら悲しんでくれる??」

いつの間にか質問者が逆転してしまっていたが質問している目はまっすぐこちらを見据えている。ぬるく重い鉛のような空気感ではあるが、この手の質問にはしっかりと答えるように今日まで生きてきた。

「きっと悲しむよ。今日楽しかったし、もう客とキャストとか無しにしても死なれたら嫌だ。」

と話すと

「そっか。じゃあちゃんとこっち見てもういっかいいって。」

と言われたので目線を送る。

「君が死んだら悲しい。」

「君じゃなくてあゆみって名前ある。」

「それ本名じゃんいいの?」

「いいよ。言って。」

「あゆみが死んだら悲しいよ。」

「うれしい。」

この瞬間にあゆみの唇の温度が僕の唇に移った。


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